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31 リアンナ視点

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「あぁ、とても素敵だよぉ」

一晩中聞かされ続けた言葉は、もう私の心を満たすセリフではなくなっていた。

「あぁああ、かわいいっ!すっっっごくいいよぉリアっ!本当にきみはせっ、世界で一番うちゅくしぃよぉ!」

カシャ、カシャッっとシャッターが切られる音と荒い鼻息がすぐそこまで迫っている。恐ろしいこの状況から逃げればいいのに身体は動かない。
だってベッドに仰向けになった私を跨ぐように、あの気味悪い肉の塊が乗っかっているから……

ロベルトは自分の部屋に私を閉じ込めた。
食事も、排泄も、お風呂も全て部屋でさせ、こいつ以外の人間を接触させないように監禁した。
とってもおいしい食事と流行りのドレスや装飾品、与えられるものは全て一級品なのに……吐きそうなほど気持ち悪い。

「リアっ、こっち向いてぇ?あぁーーー!その表情いいねかわいいっ!そ、そ、それにえっちだよぉ!」

ちなみに何をしてるかだって?
日課の撮影会よ、こいつは好みの服を私に着せてこうやって写真を撮るのが好きなんだって。今日の服は屋敷の侍女服に子供みたいなツインテール……あぁ、ホントに気持ち悪い。

「っ?!」

太ももに這わされた感触にびくんと身体が反応した。
顔を上げるとあの肉だんごがうっとり顔で舌を這わせ、あろうことかきつく吸い上げ痕を残している。何ヵ所も、何十ヵ所も。

「ふへへっ、ぼ、僕のリアぁ~」
「っ!」
「あぁああごめ、ごめんねっ!ぼ、僕だけ楽しんじゃって!す、すぐにリアも、き、きもちくするよぉ」

望んでない。頼んでない。やめてと何度も言ったけどこいつは全部無視どんなに嫌がっても力ずくで組み敷いてしまう。
そして始まる、一方的な愛情表現。
夫婦なんだから当たり前の行為も私にとっては拷問と一緒。いっそこのまま孕んで子を産むまでは休みたい……なのに、なのに!



「さぁリア、お薬の時間だよぉ~」

指1本も動かせなくなるまで抱かれたあと顔をグッと持ち上げられる。わずかに開いた口にむちむちの指が入ってきたかと思えば、すぐに喉奥に粉薬が流し込まれた。

「けほっっ!んぐっ…!」
「次はお水だよ、ちゃんと飲んでね」

当たり前のように口移しで水を飲まされ、いがいがしていた喉がすっと潤っていく。
肉だんごは事後かかさず避妊薬を飲ませる。
最初抱かれたときはホッとした。こんなやつの子供なんか産みたくないと思ってた。でも繰り返されるたび疑問を持つようになる。

じゃあ何で私、抱かれてんの?
いつまでこの時間は続くの?
ひょっとして、解放されないままなの……?

ゾッとした。と同時に的中してしまった。

「ふへっ!へへっ、リアはね跡取りなんか、し、心配しなくていいんだよぉ。子を産むのはい、命がけだしっ!り、リアの身体の方が心配、だからっ」

心配?何それ、意味分からない。
私をここまで追い詰めといて心配してるっていうの?

「ピオット家は甥っこにつ、継がせるから!だからリアは、僕とずっとずっと一緒に、ここにいようねぇ」
「…………、…、」
「あっ、泣くほど喜んでく、くれるの?嬉しいなぁっ」

むぎゅむぎゅと抱き締められるたびに、自分の心がぐちゃぐちゃになっていく。
こんなに軽蔑している相手なのに、今はただただこの人の子を成したいと思うようになった。そうすれば解放される、一時だとしてもいい。

なのに……なのに、どうして……?

「さぁリア。いつもみたいに愛してるって言って?」
「…………て、る」
「あー聞こえないよぉ!もっともっともっと、僕にちゃあんと伝わるように」

これが愛?いいえ違うわ、ただの所有欲よ。
肉だんごは私を自分好みの人形にしてるだけ。そこにはリアンナという意思なんて必要ない。

(私はただ、誰よりも幸せでいたかったの)

皆がひれ伏すような最高の幸せを掴みたかった。それが私なら出来ると確信していたのに!!

どこで何を間違えた?
イーサンと手を組んだとき、公爵に罠を仕掛けたとき、上手く両親を操れなかったとき……ううん、もっと前。
最愛の妹を、自分の手で突き放してしまったときよ。

可愛くて、かっこいい私だけの騎士。
私のためだけに生まれてきたあの子がいれば、私は誰よりも輝いていられたの。誰がいけなたあ?そうよ、全部リゼリアが悪いに決まってるじゃない。

(なのに……どうしてこんなに苦しいの)

もう会えない妹を責めても何も変わらない。誰も私を迎えに来てくれない。私は、もう……

「……あいして、る。あいしてる、」

壊れたオモチャのように何度も何度も言うと、嬉しそうに笑う肉だんご。

(いっそ狂ってしまえれば楽なのに……)

この醜い男に首ったけになれるほど心が壊れてしまえばいい。自由を願う心も、助けを期待する気持ちも全部失くなるくらい。

「へ、へへへへっ!り、リア、リアンナっ!僕も愛してるよぉお!かわいいっ、誰よりも完璧な、ぼ、僕のお姫さま!一生、ずっと、永遠に、幸せにしてあげりゅからね?!」

何度も何度も囁かれる愛の言葉と熱いキスに、私の全てが麻痺していく。


あぁ……とーっても、幸せだわ。
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