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25 リアンナ視点

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「………は、?」

ドスドスという足音と共に駆け寄ってくる、肉だんご。
この場にいる誰よりもブサイクで暑苦しい。侯爵家の跡取りでなければみんなに無視されるだろう、貴族的地位カーストの最底辺。
ロベルト=ピオットはフガフガと荒い息づかいのまま、デッキにいる第一王子に頭を下げた。

「お、王子殿下にご挨拶申しあげましゅっ!ロベルト=ピオットで、ござ、ごさいま」
「あぁ、存じているよピオット令息。先ほどの発言の意図を詳しく説明してくれるかい?」

私と話していた時とは違い、あの豚にはニコッと優しく微笑む王子。その笑顔に緊張がとけたのか肉だんごは必死に話し始めた。

「ぼ、僕はっずっと、ずっとリアンナ嬢が好きでぇ!けけけけ結婚、したくて!きょ、今日までずっとずっとずっと想い続けて、ました」
「純愛だねぇ。彼女のどこが好きなの?」
「り、リアンナ嬢はっ優しいのです!」

(は?優しい……?)

「綺麗なのはと、当然ですがっ!ぼ、僕にはとても優しい一人の女性ですぅ。、お、お見舞いにきてくれたり」

つらつらと語られるエピソードに眉をひそめる。

「て、手作りのくくクッキーをくれたり、ね、眠るまでずっと手を、にぎっ握っててくれたり」
「ねぇ、さっきから何の話を」
だって、ネクトなんかよりもっぼぼぼ僕の方が、きっ気持ちいいってよがっててぇっ!!」

おととい、という単語に体温がぐっと下がっていく。

私はこいつを看病したことなんかない。
私はこいつにクッキーを渡したこともない。
手を握ったこともないし、おととい会ったのは両親とイーサンくらいで肉だんごと会ってもいない。

(イかれてるわ……)

長年の片想いのせいで現実と夢がごちゃごちゃになっている。妄想の中で私と付き合い、愛し合い、久しぶりに出会ったことでそれを具現化した。

「気持ち悪い……全部嘘よ!」
「それを証明できる人間は?」
「っ父上、母上っ!早くこの肉だんごが嘘つきだと言ってください!こいつと顔を合わせるのも久しぶりで……」

馬鹿馬鹿しいっ!こんなの通用するはずがないわ!

「コルトピア伯爵、結局のところはどうなの?」
「あ、いやその……もしかしたらピオット令息殿の子かもしれませぬ」
「?!父上っ」

(あり得ないわ!デタラメだって分かってるくせに、どうして嘘を受け入れるのよ?!)

横にいる父上に訴えかけようとすれば、また頭を押さえ付けられ耳元で囁かれた。

「いい加減にしろ!……イーサンは確実に捕まる、子が出来たなんて嘘のせいで、お前だけじゃなく私たちまで牢に入れられるかもしれないんだぞ?!何が得策か考えろ!」
「得策って……まさか、」
「ピオット侯爵家に嫁げ!それしかない」

嘘、でしょ………?!

「いやよっ!」
「殿下、どうぞ寛大な処置を!イーサンとの関係は愚かな娘にとっては遊び、神はきっと本命であるピオット令息の子を成すでしょう!」
「母上ぇっ!ねぇやだ、助けてぇ!」
「……ごめんね、リアンナ」

2人は私の方を見ることなく、ただ頭を下げ続けた。

(なんで、何で……誰も助けてくれないのよ?!)

チッと舌打ちを残し、すぐにくるっと振り返る。

「この際誰でもいいわ。今なら家名関係なく結婚してあげる!私を助けたいという殿方は勇気を持って手を挙げてちょうだいっ!」

そうよ、もう公爵に固執している場合じゃない。
顔も家柄も多少は目をつぶってもいい、あの肉だんごじゃなければ!ここには国内だけじゃなく他国の貴族もいるんだから、1人や2人はいい男が名乗り出てもおかしくは………


「なぁおい、お前手ぇあげれば?」
「ふざけんな、誰のか分からないガキをこさえたビッチを迎え入れろってか?正気かよ」
「王家と公爵家に目をつけられたくないしなぁ」
「というか結婚してあげるって上から目線すぎない?」
「義姉妹になったら、リゼリア様のようにイジメられたりするのかしら」
「美人でも性悪は勘弁よねぇ」


聞こえてくるのは悪口や嫌みで、誰1人としてこっちに近付こうとしない。
遠巻きに私を見ながらクスクスと笑うだけ。

「どうやら計画は失敗に終わったようだね、お嬢さん」
「そんなっ……いや、嫌よっ。何で今さらこいつと!」
「君は随分と彼を嫌っているようだが……結構お似合いだと思うけどね。2人とも夢見がちところとか」

ククッと喉を鳴らすように笑う第一王子。

「ピオット令息、貴殿らの可愛い子が産まれたら是非王宮に連れておいで。私が直々に祝福を贈ってやろう」
「は、は、はひぃぃ!」

嬉しそうな肉だんごはガシッと私の腕を掴む。
手汗がべったりと付く、でもそれよりも力が痛すぎて振り払うことも出来なかった。

「ひぃっ」
「り、り、リアンナぁっ!ぼ、僕たちをっ王家ががっ認めて下さったんだっ。もう、もう離さない、からねぇっ?」

きもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるい……っ!!!
だれか、だれか助けてよ…っ!父上、ははうえ……っ!

演技じゃない、本当の涙がつぅっと溢れ落ちる。

「さぁ!今宵誕生した素晴らしいピオット侯爵夫妻に、盛大な拍手を送ろうっ!」



「リゼリア……ぁっ」



最後に呼んだ妹の名前は、望まない幸せを祝う拍手の渦にのまれ……二度と口に出すことを許されなかった。

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