21 / 32
21
しおりを挟むパーティーって………
「ヴィアイント公爵夫人っ!お会いできて嬉しいです」
「そちらのドレスすっごく素敵ですねぇ!」
「お肌がすっごく綺麗ですわぁ、羨ましぃ~」
(ものすっごく大変……!!)
かれこれ1時間、貴婦人や令嬢たちに囲まれて身動きが取れない。一通り話が済んだと思ったらまた次、終わったらまた次と……飲み物を取りにいく暇もないとは思ってなかった。
横にいるルド様も同じように貴族たちに囲まれていた。
(少しだけ外の空気を吸いたいんだけど……)
1歩後ろに下がった時、背後で順番待ちをしていた令嬢にトンとぶつかった。そして不運なことに、彼女の持っていたシャンパングラスの中身が見事にドレスにかかってしまう。
「きゃあっ?!」
「ちょっ!あなたっ、夫人のドレスにシャンパンをかけるなんて一体どういうつもりなのよっ?!」
「わ、わ、私は……な、なんてことをっ!!」
突然のハプニングに女性たちはあわてふためく。
シャンパンをかけてしまったご令嬢は顔を真っ青にし、涙目になりながら何度も謝罪の言葉を叫んだ。
「も、申しわけっ」
「ごめんなさい。私がぶつかってしまいました、お怪我ありませんか?」
「へ?あ、わ、私は全然っ!」
「良かった」
令嬢の手を取り、彼女の指をそっと撫でる。
(公爵夫人らしく、ここはスマートに……)
「かわいい貴女に怪我がなくて何よりです」
「っ!!!」
フルールさん直伝の笑顔。
令嬢はもちろん周りにいた女性たちも顔を真っ赤にし、何も言わずただ口をパクパクとさせていた。
(((((((て、天然タラシ………!!!)))))))
とはいえ、この状態のままでいる訳にもいかない。
(今日はこのままパーティーを抜けるか……)
「リゼリア」
不意に名前を呼ばれ振り返ると、人だかりを掻き分けるようにしてこちらに1人近付いてくる。
「母上……」
「久しぶりね」
力なく微笑む実母に心がざわめいた。
私とリアンナ姉さんを産んだ母──フランシス=コルトピアという人は美しいものが大好きな人だった。
ドレス、宝石、家具、花……キラキラして眩しいものばかりを集めては、大切に大切に眺めている。
そんな母上にとっての一番の宝物はリアンナ姉さんで、私はただのオマケ。父上と姉さんに厳しく躾られているときも、一緒になって責めることはなくともずっと無関心を貫いていた人。
その母上が今さら私に何の用が……
「あなたに合うサイズの予備ドレスを持ってきてるわ。それに着替えなさい」
「……」
「公爵様に恥をかかせてはいけないでしょう?」
チラッと見る先には、未だにゲストたちに囲まれているルド様が。
「何してるの、早く行くわよ」
「………はい」
■□■□■□■□■□
案内されたのは王宮内にあるゲストルーム。
母上は持ってきていたトランクを開け、中にある何着かのドレスを楽しそうに並べ始めた。
「いつもあなたにこうしてドレスを選んであげてたわねぇ。着れる服があんまりないから頭を悩ませてたのよ?」
「……ずいぶんと昔の話です」
「そうね。それからすぐに決闘に出ることになって男のように育ってしまった。でも今はこんなに大きなジュエリーが似合う女性に成長したのね」
選んだドレスを私にあてながら、母上はうるうると涙を浮かべる。
「あぁ、綺麗よリゼリア。やっぱり私の自慢の娘ね」
「……着替えてきます」
目を輝かせる母上と、これ以上話をしていたくなくてパーテーションの向こうに逃げるように移動した。
(何だろう、この違和感)
「ふふっ、これからの楽しみが増えるわぁ、いっぱい一緒にお買い物に行きましょうね」
「………何の話です」
「やぁねこれからのことよ。あなたはイーサンと結婚して近々うちに帰ってくるんだから」
扉が開く音がしたと同時に、鍵が閉まる音。
パーテーションから少しだけ身を出し確認すると数人の男たちが入ってきていた。
その先頭にいるのは……
「イーサン」
「着替えの途中で失礼するよ、リゼリア」
ニッコリと笑った顔に思わず舌打ちをする。
(なるほど、呼び出し役に母上を使ったのか)
パーティー会場で母親が娘に話しかけることは不自然じゃない。姉さんやイーサンにばかり気を取られていて、すっかりこの可能性を見逃していた。
(……いや違う、きっと期待してたんだ)
父上も母上も、今回ばかりは私の幸せを優先してくれるだろうって。
「それじゃ私は会場に戻るわ。イーサン、くれぐれも顔に傷なんかつけるんじゃないわよ。この子の美しさが半減しますからね」
「分かってますよお義母様。それとすぐ可愛い孫を抱かせてさしあげますから」
「ふんっ!」
その会話のあと、すぐに扉がまた開く音がした。
どうやら母上は退室したようで、残されたイーサンと男たちの下衆な会話だけが聞こえてきた。
「ボス、俺たちだけお預けなんてひでぇよ!」
「お前らには後で女をあてがってやるよ」
「「「「うっしゃぁああああ!!」」」」
「だから、しっかり押さえつけとけよ」
コツコツと近付く足音。それがイーサンであると確信はあった。
(そっか……やっぱり母上もダメだったか)
父上も、姉さんも、母上も私を愛してくれなかった。
分かってはいた。だからこそ……清々しい。
「僕のかわいいリゼリアぁ~!」
指がパーテーションにかかった瞬間、
ぽとり、と物が床に落ちる。
「へ、?」
コロコロと転がるイーサンの指先を眺めながら、私はふぅと深く息をついた。
「まぁいいか。私にはルド様がいるんだから」
77
お気に入りに追加
2,211
あなたにおすすめの小説
理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら
赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。
問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。
もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?
婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。
ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。
屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。
家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。
捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?
ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」
ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。
それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。
傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……
双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた
今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。
二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。
それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。
しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。
調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。
お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~
柚木ゆず
恋愛
今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。
お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?
ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――
喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。
加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。
そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?
男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。
田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。
ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。
私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。
王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる