【完結】番犬と呼ばれた私は、このたび硬派な公爵様に愛されることになりました。

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20 リアンナ視点

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パーティーは私の主戦場だ。


「本日も変わらぬお美しさですねコルトピア伯爵令嬢」
「ですが今夜は特に色っぽいですなぁ」
「今夜のダンスはぜひ僕とお願い致しますっ!」

いつものように群がってくる男たちに微笑めば、彼らの目がとろんと蕩けていく。

(まぁ当たり前なんだけど)

今日の衣装はワインレッドのフレアドレス、胸元のところがレースになって微かに谷間が透けている。髪をアップに結い上げているのもあって、うなじとデコルテにねっとりとした視線が集中する。

男なんてみんなそう、自分の理想を勝手に押し付けてくる生き物だ。
従順な女、謙虚な女、自分よりも馬鹿な女、エロい女……男なんて自分のプライドを満たしてくれる女なら誰だって一緒、そこに特別な愛なんて存在しないの。

(さて、ヴィアイント公爵はどんな女が好みかしら)

あいつの好みの女を演じ、根こそぎ資産を吸い取ったあと惨めに捨ててやるんだから。


「それでは、ルドルフ=ヴィアイント公爵とリゼリア=ヴィアイント公爵夫人のご入場ですっ!」


ガチャリと入場口の扉が開く。

「え…………?」

2人の登場に会場中がシンと静まり返った。

遠目からでも分かる存在感。
ヴィアイント公爵は相変わらずの容姿とオーラでゲスト達を虜にする。それは予想の範囲内、問題はその隣にいるリゼリアだ。

(な、何あれっ?!あれが本当にリゼリアなの?!)

体のラインがくっきりと出たドレスと高いヒールの靴、スリットが入っているせいで長い脚が歩く度にさらけ出される。漂う色気と品性があの男の隣に立っていても負けてない。

「綺麗……」
「あれが、番犬……だと?」
「ヴィアイント公と一緒だと迫力あるなぁ」

最初は動揺に包まれていた会場の空気も2人が国王陛下の元にたどり着いた頃には和らぎ、もっと近くで2人を見ようと人が段々と集まっていった。

「おい!後で一緒に挨拶に行こうぜ」
「そ、そうだなっ」

さっきまで私を口説いていた男たちも気まずそうな顔をしてそそくさと離れていく。
気付けば私の周りには男も女もいなくなっていた。

「何なのよ……っ!」
「リアンナ」
「っ……イーサン、ねぇアレ、早く何とかしてよ」

扇子の先をリゼリアに向ける。
イーサンは私の隣にやっては来たものの、他の男たちと同じくうっとりとした顔でリゼリアを見つめている。

「あぁ…やっぱり僕の思った通りリゼリアはドレスもよく似合う。特にあのワインレッドがいい、落ち着いた彼女にはぴったりだ。それに……」
「イーサンっ!」

ハァハァと息を荒くするイーサンは正直いって最高に気持ち悪い。リゼリアのことになると変態レベルが上がるのは何でかしら……。

「それよりも準備は出来てるんでしょうね。これでしくじったら許さないから」
「しくじる?僕が?」

イーサンの勝ち誇った顔が余計に腹立つ。

「安心しろよ、既に準備は整えてある。あとはリゼリアをうまく呼び出せればいいんだが……僕は目をつけられてるから派手に動けない。大丈夫なんだろうな?」
「ご心配なく、こっちも準備してあるわ」
「ふーん……なら良いけど。とりあえずしくじるなよ」

余計な一言を残してイーサンは出ていく。

きっとこの後の下準備に向かったんだ。……あいつも私ももう後戻りはできない。
腕を組みながら遠巻きにリゼリアを観察する。

(ずいぶんと幸せそうな顔しちゃって……!)

高級なドレスと大きな宝石を見せびらかして、いい男にエスコートさせて、楽しく王族とお喋りですって?本来その場所は私のものだったのよ?

しばらくすると話が終わったのか、公爵とリゼリアは国王陛下たちの側を離れてフロアに戻ってきた。そのタイミングを狙って他のゲストたちが2人に群がるけど……まだよ、焦らず絶好の機会を待たなきゃ。

「あ、あ、あ、あの……っ」
「はぁ?」
「り、り、り、リアンナ嬢」

背後からくぐもった声がして、振り返ると今一番会いたくない人物がすぐ近くまで寄ってきていた。

(ロベルト=ピオット……っ)

背も低くてむちむちのフォルムは、周りの令嬢たちから『肉だんご』と馬鹿にされていたピオット侯爵家のバカ息子!
金を積めば何でも思い通りになると思ってるコイツのせいで、やむを得ずリゼリアを決闘の舞台に送り込んだ。
8年経った今でも諦めず、たびたび私を見かけては声をかけてくる。

「……ご機嫌よう、ロベルト様」
「あ、え、えっと!今日のドレスも、すすすすっごく素敵ですねっ!あ、あなたがそんな暗い赤を、き、着るなんて思ってなかったけどもっ!」

(あー……気持ち悪い)

フンフンと鼻息を荒くして迫ってくる肉だんごをひらりとかわす。

「実はこれ、私のとのお揃いの色なんです」
「ふぇっ?!と、特別?!」
「ええ」

そこまで言って視線を公爵に向ければ、計算通り勘違いした肉だんごは公爵を睨みながらギリギリと歯を軋ませた。

「ま、まさかっヴィアイント公じゃ、な、ないだろうね?!あ、貴女という人がいながらっ、い、妹と結婚するなんてっ!」
「……失礼致しますわ」

多くを語らない方が逆にリアル。
意味ありげな微笑みを残し、ゆっくりと公爵へと近づく。

「さぁ、作戦開始よ」


狙うはただ一人。
憎たらしいその顔を絶望で染めてあげるわ。
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