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そして、国王陛下の生誕パーティー当日。

「「「ふぁぁああああんっっ!!!」」」

全身鏡に映った私を見て、侍女たちは目をキラキラさせながら叫んだ。

「へ、変じゃないかな……?」
「「「とってもよくお似合いですよぉっ!!」」」

大袈裟なほど褒められて恥ずかしくなった。

鏡の中の私はいつもとは違う。
ワインレッドのスレンダードレスに、ヒールの高い靴。滅多にしない化粧も張り切ったこの子たちのおかげでゴージャスな衣装に上手く馴染んでいた。

(なんというか……お、大人っぽい)

「奥様、ずいぶんと髪が伸びましたね」
「そうだね。ここに来て結構経ちますから」

センスの欠片もないざっくり髪のあの時とは違って今は肩につくくらいの長さまで成長している。そのおかげで少しは女っぽく見えている……はずだ。

「少し香油をつけて後ろに流しましょう。その方がより洗練された女性に見えますわ」
「「「賛成ですっ!」」」

そしてまたドレッサーの前に座らされる私。
おしゃれのことは何も分からない私にとってはすごく助かるけど……

「「」「絶対旦那様に褒めてもらいましょうね」」」」

(き、気合いの入り方がすごいな……!)

されるがままの状態から数分後、コンコンとノックされた扉が開く。

「リゼ」
「る、ルド様……!」

勢いよく振り向いたあとフリーズしてしまう。

騎士団の服を来ている時は爽やかで凛々しいイメージなのに、お揃いのワインレッドの燕尾服があまりにも色っぽすぎて顔が熱くなった。それにオールバックもなかなか様になっている。

(か、かっこいい……!)

社交界に出たがらなかったのも納得だ。こんなにイケメンなら令嬢たちが野獣のように集まってパーティーどころじゃない。

「旦那様っ!奥様、どうでしょうか?!」
「私たちがしっかりと磨かせて頂きましたよ!」

きゃっきゃとはしゃぐ侍女たちを尻目に、ルド様はじっくりと観察してくる。頭のてっぺんから足の先まで見つめられて、緊張と羞恥心で体が縮こまってしまう。

「おかしい……ですか?」
「よく似合っている。その色も肌が白いリゼによく映えるし、髪もいい香りがする。だがしいて言えば……」
「えっ……?!る、ルド様っ?!」

後ろから覆い被さるように体を寄せ、ルド様の指が腿をそっとなぞった。

「んんっ」
「スリットが深すぎる。何とかならないのか?」
「ふふっ。奥様の脚線美を存分に見せつけるためのデザインですわ。旦那様もお好きでしょう?」

勝ち誇った顔のフルールさんと、無言のままのルド様。
しばらくしてゆっくり離れたルド様は、何かを諦めたのか深いため息をついた。

「……そろそろ行こうか」
「はいっ!」





■□■□■□■□■□


王宮の正門前で馬車が止まり、先に降りたルド様にエスコートされながら中へと進んでいく。
会場に辿り着くまで何人かとすれ違ったけど、全員が振り返りルド様を目で追っていた。

(ただでさえお目にかかれないヴィアイント公爵が、こんなにカッコよく着飾っているんだから当たり前なんたけど……でもちょっと、)

「妬けるな」
「へっ?!」

思っていたことが口から漏れたかと思った!
慌てて自分の口元を押さえていると、ルド様は少し機嫌が悪そうに周りの人たちを睨んでいく。

「皆リゼリアを見ている。特に男、気にくわない」
「いやいやっ!みんなルド様を見ているんですよ、いつもそうですけど今日はまた一段とカッコいいから」
「何言ってるんだ、君が美しすぎるのが……」
「「…………」」

しばらく言い合った後、お互いに無言になる。

(何だろう、今とんでもないことをお互い言い合っていたような)

「……とりあえず会場に着いたらすぐに陛下に挨拶に行こう。おそらくセオも一緒にいるだろうから」
「第一王子殿下、ですか」
「ああ。デリカシーはないが筋の通った男だ、ネクト商会の取引情報もあいつが手配してくれたんだ」

第一王子殿下とは、結婚式で一度挨拶をしたっきりだ。凛々しく男らしいルド様とは対照的に、飄々としていて掴めないという印象だった。

でも第一王子殿下がこちらの味方なら心強い。

「今日はリゼの御披露目も兼ねているが出来るだけ一人にはならないように。貴婦人たちに声をかけられても、後日時間を取ると言ってうまく誤魔化してくれ」
「わかりました」
「俺はイーサン=ネクトに注意する。リアンナ=コルトピアに接触された場合はに合図を出すこと。いいな?」

くいっと顎で促されたところを見ると、給仕役の制服に身を包んだ人間が何人かこっちに頭を下げる。
その中にはこの間コンコート教会の事件で一緒だった護衛の2人も紛れていた。

これだけの警備の中で、リアンナ姉さんはどう接触してくるだろう。……謝るなんて選択肢は論外だろうけど。

ようやく到着した入り口の前で、もう一度姿勢を正す。

(大丈夫。ルド様が側にいてくれるんだから)

私はもうコルトピア家の番犬じゃない、ヴィアイント公爵夫人だ。
自信を持って、堂々とこの人の隣に立つんだ。


「それでは、ルドルフ=ヴィアイント公爵とリゼリア=ヴィアイント公爵夫人のご入場ですっ!」


扉が開き、ルド様と一緒に前へと踏み出す。


因縁を断ち切るパーティーの幕が上がった。
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