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12 シスター(?)視点
しおりを挟む※暴力、流血シーンがあります。苦手な方はお控えください。
「おいっ!話が違ぇじゃねぇかこのクソ女ぁっ!!」
バキッと頬が殴られる。
「電流は止めたって言ってたよなぁ?おいっ!」
「と、止めたわ!ちゃんとやったわよ!」
連続で殴ろうとしてくる男に必死で叫ぶ。
コイツはこの辺りを狩り場にしてる野盗の首領。コイツの女になってからこうして殴られるのは初めてじゃないけど、流石に今回は本気でぶちギレている。
(何で?!なんでスイッチオンになってんのよ?!)
この教会に潜入して1年。
神父からこつこつ信頼を勝ち取り、やっとの思いで知り得た解除方法だった。
今日の夜襲のために、ちゃんとスイッチとなるあの本は外してきたはずなのに!
「チッ!残ってんのは何人だぁ?!」
「じゅ、10人っス」
「2人は寝てるガキん中から一番小せぇのさらって来い。いざとなりゃそのガキ人質にして逃げんぞ、念には念を入れとく」
下っ端に命令した後、残った私たちはまっすぐ神父の部屋を目指した。
(金庫の場所は把握してるし、価値のありそうなのも目星はつけてある。出るときにまた鉄線の電流を切って……)
「うわっ?!なんだこの部屋、汚ぇなぁ!!」
(え、汚い……?)
先に入っていった男の叫び声にハッとする。
後に続いて中に入ると、神父室は私が出ていった時と違い物が乱雑していた。
段ボールがいたるところに積まれ、足元には本やゴミらしきものが散らばっている。視界が狭く、まるで迷路のような部屋の中。誰が故意に荒らしている。
誰が?そんなの……1人しか思い付かない。
「ね、ねぇ…おかしいわこの部屋。やっぱ今日は止めに」
前にいる首領の袖を掴もうとした瞬間……
「ぎゃぁぁああああああっっ!!!!」
前の方から叫び声が聞こえた。
「は?え、え、え、なに?」
「おいっ!どうしたっ?!」
「あ、足、あし、あ、あしがぁ…っ!」
足?
人のすき間から中を確認すると、先頭にいた男が足を押さえてうずくまっている。手で押さえる足からはどくどくと血が溢れていて、思わずひぃっと声をあげてしまった。
「あぎゃあああっ!」
「うげぇっ?!!」
「は?お、おいっ!!」
間抜けな声が1人、また1人と増えてどんどんその場に倒れていった。
電気をつけようと入り口付近まで戻ろうとするけど物が多すぎて上手く進めない。
(確かこっちに……あ、あった!)
手探りでなんとか見つけ出し、すぐにパチンと電気をつけた。
「「「!!!」」」
明るくなった部屋には何人もの男たちが倒れ、みんな足や腕から血を流していた。
そして部屋の中央には、血濡れの剣を握る金髪の女。
(嘘でしょ…だって、あの女は……)
第一印象は平和ボケしてそうな感じ。
貴族の女なんか大抵そうだけど、この女も大した苦労もせず綺麗事の中で生きてきたって雰囲気だった。
でも、何……この禍々しい殺気は?!
「なっ!誰だテメェは?!」
「聞いていませんか?本日ここに泊まっているヴィアイントです。初めまして」
けろっとした顔で公爵夫人は話しかけてくる。その不自然な空気に男たちもビクッと震えた。
(何で公爵夫人が剣を……まさか、あんな一瞬で?)
「残りはシスターを含め5人ですか。あれ、あともう2人居たような気がしたんですけど……」
「おいっ!さっさとやっちまえよ!」
「「「は、はいっ!」」」
呆気にとられていた手下は公爵夫人に飛びかかっていく。振り下ろされた剣は夫人に当たることなく、床に突き刺さったり横の段ボールにぶつかったりした。
あっという間にやられた手下たちは無様に倒れるのを見て、首領の苛立ちが止まらない。
「どけぇっ!」
「ま、待って……!」
勝てる予感がしない!
制止する私を無視して走っているアイツは、使いなれてない剣をブンブン振り回した。いつも手下に命令ばっかりしてアイツは全然強くない。
案の定、ひらりひらりとかわされた首領は後半へばって膝からガクンと崩れ落ちた。
「そういえば今月厳しいんですってね。あなたたち、一体どこの誰と取引してるんですか?」
「はぁ…っ、い、言わねぇよ」
「へぇ」
見下ろした公爵夫人は勢いよく剣を床に突き立て、その刃があいつの腿に当たるようにゆっくり押し込んでいった。
「きゃああああっ!」
「あがががががっ!!!」
ぷつりと皮膚が裂けてじわじわと血がズボンに染み渡っていく。痛々しくて見てられない……!
「盗品を横流しするのは労力がかかりますから、チンピラ程度じゃさばけないと思うんです。だから裏に協力者がいるはず、教えてくれればちゃんと2本足で帰してあげますよ?」
話している間も剣がどんどん足に入っていく。
「だ、だめだめだめだめぇっ!ねぇお願い、見逃してよぉ!あたしたちはお金が欲しかっただけなのぉ!」
「んー……」
「わ、私が知ってる!ほらこれ、ここ!」
このままじゃ足が千切れちゃう!!
首領の胸ポケットに手を突っ込み、くしゃくしゃになった紙切れを公爵夫人に投げつける。
「これは……」
「と、取引相手との伝票!それ調べれば分かるでしょ?!」
「お前……ふざけ、んな…」
「そんなこと言ってる場合?!死んじゃうよ!」
これで見逃してくれるかは分からない。でも一か八か頼み込んでみる価値はある!
公爵夫人はしばらく紙を見つめた後、ニッコリと微笑みかけてきた。あまりにも綺麗な笑顔に、女の私もついドキッとしてしまった。
「運が良かったですね、首領さん」
「た、助けてくれるの……?」
やっぱり神様は私たちを見捨て……
ガンっ───!!
首の後ろに強い衝撃を感じ、そのまま床に倒れた。
「ごめんなさい。助けるかどうかは神様じゃなくて、私の旦那様が決めますから」
あぁ…、やっぱり神様なんて……信じ、ない……!
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