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7 リアンナ視点
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「クビよ」
最低。
「貴女もクビ」
どいつもこいつも、
「アンタもいらない、そこの貴女もよ。というか全員クビよ、出てってちょうだい」
部屋にいた侍女たちに一斉に言い放つ。
中には突然職を失い泣く女もいたけど、そんなの私の知ったことじゃない。
あの日以来、従順だった侍女たちの態度も変わった。
こそこそと陰口を叩いたり、中にはあからさまな態度をする人間もいた。
(そんなの私が許すと思ってんの?馬鹿女たちめ!)
「おやおや、ずいぶんと人が減って寂しくなったね。コルトピア伯爵家も」
侍女たちがいなくなり静かになった部屋。
ドレッサーの前でジュエリーを吟味していれば、鏡越しに赤髪の男と目があった。
「……イーサン、何しに来たの」
「慰めに来てあげたんだよ。かの有名な美人令嬢も、大衆の前でああもこっぴどく振られたとなれば流石に傷ついてるだろうと思ってね」
振られたですって?
私をカチンとさせるのはイーサンの特技のようなもので、これまでだってこの男は何度もイラつかせてはニヤニヤとその反応を楽しんでいた。
(その生意気な性格もまぁまぁかわいいと思ってた時期もあったかしら……今は不愉快でしかないけど)
ついこの間までは恋人だった。いや、恋人にしてやってたという方が正しい。
「私が男に振られるわけないでしょう?あれね、きっと怖じ気づいたのよ」
もう!忘れてたのにまた思い出しちゃったわ!
この国の女であれば、まず間違いなくルドルフ=ヴィアイントの名前と顔に食いつく。
国王陛下の甥っ子で次期国王のセオドラ殿下の従兄弟。王族の血が流れる彼は高位貴族の中でも珍しい、婚約者がいない優良物件だった。
おまけに顔も良く、未婚の令嬢たちはどうにか彼と接点を持とうと必死になっていた。
そんな彼が決闘に参加すると聞いた時、ようやくお 来たかと笑みがこぼれた。
騎士だろうが所詮はただの男、やっぱり私の美貌には勝てないんだと思った。なのに……
「まさか、リゼリアに男を盗られるなんて!」
それまで一切異性への興味を示さなかったくせに、最後の最後で大物を持っていかれた。これがどんなに屈辱的なことかっ!
「おかげで私はいい笑い者よっ」
「まぁ、君に婚約者を奪われてきた令嬢たちからしてみれば気分いいだろうねぇ」
「何それ、不細工のひがみじゃない!」
逆恨みも甚だしい!
ソファーに移動し冷めきったアイスティーをぐびっと流し込む。
(そうよ……このまま見過ごすわけにはいかないわ!)
ルドルフ様は今まで奪ってきた男たちとは違う。
彼らが小粒のルビーだとしたら、ルドルフ様は両手で持てないほど大きなダイヤモンド。そんな男を落とせないだなんて、私のプライドが絶対に許さない。
「イーサン、いつもみたいに協力しなさい」
「何で僕が……めんどくさ」
「いいの?このままルドルフ様にリゼリアを取られても」
イーサンの耳がピクッと反応する。
(よしよし、分かりやすい男ね相変わらず)
「きっと毎晩おたのしみでしょうねぇ?ほら、ルドルフ様って体が大きいからきっとあちらもご立派でしょうし」
「………黙れ」
「リゼリアは生娘だから初夜は上手く済んだかしら。意外に初めての快楽にハマったりして……」
「黙れって言ってんだよ!」
グッと腕を引かれソファーに投げ飛ばされる。
起き上がろうとすれば馬乗りになったイーサンが乱暴な手つきでドレスを脱がしに来た。
(ホント男って単純よねぇ)
こうして組み敷けば自分が上だとでも思ってるのかしら?
「あの子は聖女のように清く、騎士のように凛々しいんだ。お前のような売れ残りと一緒にするなよ」
「んっ……その売れ残りを抱こうとしてるのはだぁれ?」
「お前はリゼリアの代わりだ、彼女を手に入れたらすぐに貧民街の男どもにくれてやる」
ハッと嘲笑うイーサンが私には間抜けにしか見えない。
どんなに強がってもカッコつけても、結局はこうして欲に溺れてしまう。こうして私を抱こうとしている時点で、勝敗は決まったようなものなのよ。
「だったら協力して。近々ヴィアイント家に乗り込むわ」
「……協力って、何をすれば」
「とびっきりのドレスと宝石。それから……そうね、下町で売ってる焼き菓子なんか良いかも」
「焼き菓子?なんでそんな安物なんか……んんぅっ?!」
(あぁー……何とかなんでとかうるさいわね)
イーサンの価値は顔と商会の金だけ。あとは無能。
今ここで説明してあげてもお馬鹿には理解できないんだから、いちいち聞いてこないで欲しい。
黙らせる目的で後頭部を掴み、そのまま深く口付ける。
「大丈夫よ。公爵のことは私に任せて?イーサンは今から言うことを忠実に守るのよ」
「っ……あぁ、わかった」
強くなる刺激にイーサンの生意気な目がとろんと蕩け始める。
あぁ、とーっても気分が良いわ!
男を思い通りにするのはいつだって晴れやかな気持ちになる。だからこそ、ルドルフ=ヴィアイントという例外は許さない。
最高の男を、絶対に服従させてやる。
(だからねリゼリア。妹だろうが許さないのよ)
可愛くて、可哀想な私の番犬。
大人しく私の騎士で居続ければ悪いようにはしなかったのに……どうしてそんな生意気なことしちゃったのかしら。
手癖の悪いコにはとびっきりのお仕置きをしなきゃ。
「ふふっ……楽しみに待っててね、リゼリア」
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