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おまけ 男爵令嬢の後日談

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「ほんっっっとに最低!」

パーティー会場を出た私は叫ぶ。
すれ違う令嬢たちが不思議そうに見てくるけどそんなの関係ない!
私は今日、大恥をかかされた。

最初に声をかけたのは私。
付き合いで参加した夜会にすっごく好みの男がいたから話しかけた。そしたら相手は王太子で、相手も満更じゃない態度だったしこれは夢の玉の輿?なんて思ってたんだけど。

「何なのよあいつらーっ!」

あの場面で婚約破棄しないとかあり得る?え、それまで私に言ってた言葉はなんだったの?!

『エリー、お前はこの国で一番可愛らしい』
『お前と出会ったのは運命だったのだ』
『これが真実の愛なんだろうな』

「っ……信じてたのにぃっ!」

最初は金目当て、でもそんな熱烈に口説かれれば誰だって好きになっちゃうでしょ?たった数日だけど、あんなに可愛がってもらったら誰だって……。
気付けば周りに人が居るのも忘れてポロポロと泣いてしまった。

「あーーー!!良かったまだ居たよ!」

遠くから叫び声が聞こえ急いで涙を拭く。
顔を上げれば、遠くから数人の令嬢たちが私の方を指差して向かってくる。
にこにこ笑いながら近付く彼女たち……確か、全員男爵令嬢だった気がする。しかも全員同じように目がまんまるで可愛らしい。

「良かったぁ!もう帰っちゃったかと思った」
「急いで追いかけた甲斐がありましたね!」
「ほんとほんとっ!」

彼女たちはニコニコ笑っている。

「な、何よ……振られた私を笑いに来たのっ?!それとも、公爵令嬢さまに報復してこいとでも命令されたのかしら?!」

あの無様な姿は参加者全員、しかも国王陛下にも見られてしまった。そんな私をきっとバカな女って言いに来たんだわ!ほんと、これだから貴族は……

「ああ違うのよ!そういう訳じゃないの!」
「え、ロザリア様が?まっさかぁ!」
「ふふふっ、あのお方はそんなに心が狭くないわ」

3人とも笑いながら首を振る。何よこの和やかな雰囲気は……私はたった今、失恋したのよ?
公爵令嬢さまの使いでないとしたら彼女たちは何故私を追いかけて来たの?

「私たちはね、の貴女を励ましに来たのよー!」
「同じ境遇?」
「そう!強いて言うなら王太子に振られた者同士?」
「!!!」

その言葉に他の2人もうんうんと頷いている。

「どういうことよっ?!」
「ちょっ!落ち着いてよぉ!」

落ち着けるわけない。
私は一番頭の悪そうな子に詰め寄ると、ケホケホと軽く咳払いをしながら観念して話し始める。

「ルイーズさまは、オオカミ少年なのぉ」
「は?」
「ロザリア様に構ってほしくて、好きでもない女を口説いては婚約破棄をちらつかせてるの」
「え、……好きでもないって……」
「その証拠に、ルイーズ様が選ぶのはロザリア様と正反対の目が大きくて幼顔の女ばっかり!しかもそのあとめんどくさくならない様に男爵令嬢ばかり選んでるんだから確信犯なのよ」

ハァと大きなため息。
って事は、私は最初から愛されてなんか……

「何それ、最低じゃない!」
「最低よ?最低なのがルイーズ様だもん」
「そんなの王太子だからって許されるの?!陛下も、周りの貴族たちも何でそんな好き勝手させてるのよ?!」

要約すれば、王太子が気ままに女遊びをしてるってだけじゃない!気を引きたい?そんな子供みたいな理由のせいで?!
彼女たちも困ったように笑ってる。

「でもね、それもあと少しだから」
「ハァ?!」
「ルイーズ様はね、結婚したら全ての権利を失うの。表向きはこの国の王だけど、決定権も実行権も全て奪われる名ばかりの王となるのよ」
「名、ばかりの?」
「そう。そしてルイーズ様に代わって国を治めるのは、実質的には王妃となるロザリア様。頭が良くてお美しい、筆頭公爵家の令嬢であるあの方が全てを持つことになる」

そんな話、今まで聞いたことがない。
当たり前が、私はこの間まで平民だったんだもの。そんな雲の上の話、耳にすらしたことないか。

「だからそれまでのルイーズ様の茶番にみんな付き合ってあげて欲しいと、ロザリア様はわざわざ頭を下げたそうよ!」
「なんてお優しいのかしら!」
「あんなオオカミ少年、廃摘にするなどロザリア様なら出来そうなのに!」

3人は愛していたルイーズ様よりも公爵令嬢さまの話をうっとり顔で続ける。
その異常な雰囲気に冷や汗が流れてしまう。

「あ、あなたも安心してね。いずれオルテイル公爵家から莫大な慰謝料が届くはずよ」
「慰謝料?」
「馬鹿な婚約者の嘘に付き合ってくれたお礼としてね」

クスクスと笑う彼女たちにゾッとしてしまう。
ここまで人は、愛した人を無下に出来てしまうのね。

「大丈夫よ。全部ロザリア様に任せておけば!」
「………そうね」

私はただ頷く事しか出来なかった。
公爵令嬢さまに勝つ?そんなの最初から出来るはずなかったんだわ。

弱い私は周りに合わせるように笑顔をはりつけた。
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