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後編

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「どうしたロザリアっ!ほら!」
「ね、ねぇルイーズ様……私はもう良いですから」

流石にルイーズ様のやりすぎな態度に疑問を持ったのか、エリーさんは遠慮がちにルイーズ様の袖を引っ張ります。
ただルイーズ様と結婚がしたいだけの彼女からしてみれば、ここでわたくしを強引に懲らしめて大ごとにはしたくないのでしょう。懸命なご判断ですね。

「ならぬっ!私の気が済まんのだ!」

こうなったルイーズ様は面倒ですからね。
ゲストの何人かは退屈そうにしていますし、今日の主役である国王陛下なんか欠伸してますよ。全く。
こうなってしまえばわたくしが何とかしないといけないんですよねぇ。

「ルイーズ様」

わたくしは深々と頭を下げる。

「偉大なる貴方様の気を害してしまい、公爵家令嬢として大変申し訳御座いません。もし今後も貴方様の婚約者としてお側には置いて下さるのであれば、このようなことのないよう、この国のため持てる全ての力で尽力しとうございます」

こんな大勢の前で頭を下げるなど、令嬢としてのプライドがズタボロです。でもこれで良いんです。これがわたくしたちの中での正解なのでちっとも落ち込んではいません。

「ふっ、ようやく分かったか。自分の立場が」
「はい。ルイーズ様のおかげで目が覚めましたわ」
「お前はこうしてやらねば分からぬ女だからな、全く……いちいち手のかかるやつだ!」
「お手間をおかけしました」

満足そうなルイーズ様の顔。わたくしもニコリと笑い返します。国王陛下もホッとしたような顔をしています。うんうん、良かった良かった。

「まぁ良い。お前は筆頭公爵の娘として令嬢や婦人たちをまとめ上げた実績があるしな、今回はお前の頑張りに免じて許してやろう」
「恐れ入ります」
「だが次はないぞ?次やったら婚約破棄だ!」
「肝に銘じておきますね」

そう言ってルイーズ様はわたくしの側にやって来てそっと抱き寄せます。ふふっ、人前で恥ずかしいですが大事にされるのは悪い気しないですね。
周りの方々も国王陛下も一安心したのか、仲良くなったわたくしたちに笑顔で拍手を送って下さいます。本当にお騒がせして申し訳ないです。

「ま、待ってよ!」

ここで存在を忘れていたエリーさんが再登場します。ですよね、だってこれ、完全に仲直りしちゃった流れですもんね。

「ルイーズさまっ私たちの真実の愛は?!」
「何だ、まだ居たのか」
「居たのかじゃないわよ!生涯を共にすると言って下さったのに……私を捨てるんですか?!」
「捨てる?」

ルイーズ様の眉がピクリと動きます。

「そもそもお前は私のものじゃないだろう?」

あらら、なんて痛烈なことを。
エリーさんは目にいっぱいの涙を溜めています。

「そんなぁ……」
「大体男爵令嬢の身分で何故私に気軽に話しかける?不敬にも程があるだろう。これまではその愛らしい見た目に免じて許してきたが、今となってはお前など塵ひとつの価値もない」
「っ!!」
「大人しく去れ。これ以上付き纏うならすぐに牢へぶち込むぞ」

まぁまぁなんて辛辣なのでしょう。エリーさん、カタカタと歯を震わせて怯えています。
理不尽?そうです、それこそがルイーズ様です。
ですがそんなのこの貴族の世界では当たり前なのですよ?そう、貴族の世界ならば。

案の定、エリーさんは何も言わずにパーティー会場を走って出て行きます。もちろん誰も声をかけません、これはお決まりのパターンですから。

「ロザリア」
「はい、何でございましょう」
「その……少し、私も言い過ぎたかもしれぬ」

ルイーズ様は気まずそうに視線を逸らします。これ、実はいつものパターンなんですよ。散々わたくしを罵った後、彼はいつもやりすぎた!と後悔しながらわたくしの表情を伺ってきます。何だか子犬みたいですよね。

「いえ、わたくし気にしませんわ」
「本当か?」
「ええ。ルイーズ様はわたくしを思って言ってくださったんですもの、むしろ感謝しております」

ニコッと笑えば安心したようです。まぁなんて扱いやすい……いえ、可愛らしいお方でしょうか。

「それよりルイーズ様はいつエリーさんとお知り合いになられたのですか?」
「ん?ああ、数日前の夜会で声をかけられた」

あら、なんて不躾なんでしょう。まぁ平民出身の彼女なら玉の輿を狙ってそれくらいの無礼はおこないそうですよね。でも、昨日今日の付き合いの女に愛という言葉を使うなんて……

例え、婚約破棄をしたいとはいえ無茶苦茶ですねこの人は。

「ロザリア?」
「……何でもありませんわ」

ルイーズ様はおかしな人。
でも、そんなお馬鹿な彼を突き放せないわたくしもおかしいのでしょう。

今はただ、嘘をついて私を翻弄する彼に付き合ってあげるとしましょうか。
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