21 / 26
21
しおりを挟む「それでわざわざ私を訪ねて来たという訳ですか」
「うぅ……こんなことエリザベスさんにしか相談できないわ」
決意を固めた私はエマーソン家の屋敷にやって来た。
(とりあえず何とかしようと思ってみたものの、どうアシュレイ様をその気にさせたらわからないんだもの)
今まで私はずっとアシュレイ様にリードされてきた。ここに来て自分からアプローチをかけるなんて少し……いやかなり難易度が高い。
そんな時ふと親友の顔を思い出したのだ。
「お願い、何か方法があるなら教えて!」
「もぉ……」
そう言ってエリザベスさんは困りながらも微笑む。
「まず、グラシャさんたちはお会いする時はいつもどのような感じなのですか?毎日お屋敷には出向いているのでしょう?」
「え?えっーと……アシュレイ様が学校を終えるまでお屋敷で待って、戻られたら一緒にお茶をしたり街へ散策に行ったり、あっ!たまにお義母様たちと一緒に夕食をご馳走になったり」
「なるほどなるほど」
「それから少しお話して、でも遅くならないうちに馬車で送り届けて下さって」
思い出すだけで頬が緩んでしまう。
アシュレイ様は紳士だ、遅くなれば私の両親が心配するからと門限までには必ず送り届けてくれる。そういう気遣いの一つ一つが大事にされている証拠みたいで気恥ずかしい。でも、そんな私とは対照的にエリザベスさんの表情は固く曇っていた。
「?何か変かしら」
「ちなみに二人きりになる時って?」
「二人きりって…………あ、あれ?」
最近二人きりになったのはいつだ?
屋敷には常に世話役の侍女が付いてくるし、デートで訪れる場所はどこも人がいるカフェや美術館、ショッピング、食事も必ず義両親が同席しているから……。
「……パーティー以来、二人きりになってないわ」
「ハァ、間違いなく原因はそれですわね」
大きなため息をつかれ私はサァっと血の気が引いていく。そうよ、そもそも他の誰かが側にいれば私やアシュレイ様のことだから絶対に適切な距離を保つはず。かと言って、わざわざ人払いをしてまでいちゃいちゃしたい訳でもないし。
(お互いの気遣いが仇となったんだわ)
「まぁご卒業までわずかですし、正式に夫婦となればそんなの大きな問題ではありませんが」
「そ、そうかしら」
「……スプラウト様の性格上、結婚してもすぐには手を出しそうにないですけどね」
エリザベスさんの言葉が確信すぎて辛い。
「アシュレイ様はいつも私を気遣って下さるから……そ、その、」
「初夜もお預けなさるかもですね」
「っ!そ、そんなはっきり言わなくても!」
恥ずかしさのあまり両手で顔を押さえた。
「でも可能性はゼロじゃありませんわ。そんなことがあれば大切にされているどころか、逆に妻として、女としてのプライドがズタズタです!」
「……おっしゃる通りですわ」
「幸せな新婚生活に向けて、まずはお互いの距離感をグッと縮めておきましょう!」
立ち上がりそう宣言するエリザベスさんが頼もしすぎるわ。
「私はどうしたら良いのかしら。アシュレイ様が少しでも触れたいと思える女性になれれば良いのだけど……」
「無理に性格や容姿をいじる必要はありません。まずはそのお気持ちをしっかりお伝えすることが大事なのです」
「気持ちを、伝える?」
「ええ。例えば」
そう言ってエリザベスさんは立ち上がり、私の首に腕を回してギュッと抱きついてきた。
「え、え、エリザベスさんっ?!」
「好きです」
「へっ?!」
「私はもっとグラシャさんのことが知りたいのです……どうかあなたも、私に触れて?」
「なっ!」
至近距離で見つめられ、甘い言葉を囁くエリザベスさんに同性だけどドキドキしてしまう。密着しているからか、私の鼓動もエリザベスさんの鼓動もうるさいくらいに聞こえた。
「ね?伝わったでしょう?」
「す、すごく」
「好きな女に言い寄られて嫌な男はおりません。大胆に、そして照れを捨てて挑みましょう!」
にこっと微笑むエリザベスさん。それを聞いて自分の中のモヤモヤがちょっとだけ晴れた気がする。
「エリザベスさん、本当にありがとう。私頑張ってみるわ!」
「その意気ですわ!」
「ところで君たちは一体何してるんだい?」
バッと振り返れば怪訝そうな顔で私たちを見つめるミハエル様。そして今、私たちは熱い抱擁をしている真っ最中で……。
「「お、おかえりなさいませ」」
56
お気に入りに追加
4,072
あなたにおすすめの小説
溺愛を作ることはできないけれど……~自称病弱な妹に婚約者を寝取られた伯爵令嬢は、イケメン幼馴染と浮気防止の魔道具を開発する仕事に生きる~
弓はあと
恋愛
「センティア、君との婚約は破棄させてもらう。病弱な妹を苛めるような酷い女とは結婚できない」
……病弱な妹?
はて……誰の事でしょう??
今目の前で私に婚約破棄を告げたジラーニ様は、男ふたり兄弟の次男ですし。
私に妹は、元気な義妹がひとりしかいないけれど。
そう、貴方の腕に胸を押しつけるようにして腕を絡ませているアムエッタ、ただひとりです。
※現実世界とは違う異世界のお話です。
※全体的に浮気がテーマの話なので、念のためR15にしています。詳細な性描写はありません。
※設定ゆるめ、ご都合主義です。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても
亜綺羅もも
恋愛
クリスティーナ・デロリアスは妹のエルリーン・デロリアスに辛い目に遭わされ続けてきた。
両親もエルリーンに同調し、クリスティーナをぞんざいな扱いをしてきた。
ある日、エルリーンの婚約者であるヴァンニール・ルズウェアーが大火傷を負い、醜い姿となってしまったらしく、エルリーンはその事実に彼を捨てることを決める。
代わりにクリスティーナを押し付ける形で婚約を無かったことにしようとする。
そしてクリスティーナとヴァンニールは出逢い、お互いに惹かれていくのであった。
義母たちの策略で悪役令嬢にされたばかりか、家ごと乗っ取られて奴隷にされた私、神様に拾われました。
しろいるか
恋愛
子爵家の経済支援も含めて婚約した私。でも、気付けばあれこれ難癖をつけられ、悪役令嬢のレッテルを貼られてしまい、婚約破棄。あげく、実家をすべて乗っ取られてしまう。家族は処刑され、私は義母や義妹の奴隷にまで貶められた。そんなある日、伯爵家との婚約が決まったのを機に、不要となった私は神様の生け贄に捧げられてしまう。
でもそこで出会った神様は、とても優しくて──。
どん底まで落とされた少女がただ幸せになって、義母たちが自滅していく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる