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翌日。

いつものように講義を終え、教室で荷物をまとめている時だった。後ろから唐突に肩がぶつかってくる。

「あら、ごめんなさいノーストス嬢」

チラッと見れば彼女はシルビア嬢の取り巻きの一人だった。

(なるほど、分かりやすい嫌がらせね)

階級のあるこの世界だからこそこういった陰湿ないじめは存在する。私は伯爵令嬢、彼女は子爵令嬢。立場は私が上だが彼女たちにとってそれは大きな問題ではないらしい。
むしろ、弱い立場を逆手に取ってあたかもわざとじゃないというスタンスを保っている。

「……いえ、大丈夫よ」
「まぁ、流石懐が深いノーストス嬢ですこと。お優しくてわたくし感激ですわ」
「余裕のある方は大違いね」
「そりゃそうよ、資産もあんなにカッコいい婚約者も手に入ったんだから!」
「ふふふっ」

幼稚や攻撃にため息が出そうになる。
彼女たちは何故私に嫌がらせをしてくるんだろう、シルビア嬢のためというのは本当かしら。
私はさほど相手にせず帰ろうとする。が……

「ちょっと!無視だなんて感じが悪いんじゃないかしら?!」

彼女たちは悪態をつきながら後をついて来る。
靴を履き外に出る私からああでもないこうでもないとギャンギャン言っていた。

(まさか家までついて来ないわよね)

流石にそれはないと思うが執念深い彼女たちに少し怯えてしまう。
すると、正面からこちらに歩いて来るシルビア嬢と目があった。彼女は一瞬真顔になるものの、すぐにニコッと王子様スマイルを浮かべて小走りでやって来た。

「やぁ、君がグラシャ嬢だね?」

彼女は気さくに私に話しかける。
通常、男爵令嬢であるシルビア嬢は私に敬語でなければならない。それが貴族界の暗黙の了解だけど……

「私はシルビア=バレイン。アシュレイ=スプラウトの幼馴染だよ」
「まぁ……そうですか」
「アッシュから聞いてないかな?昔からスプラウト家とは仲良くさせて貰っててね、まぁ最近はなかなか会えていないんだけど」

親しげに話して来るシルビア嬢は私の背後にいる取り巻き達に気付き目を丸くした。

「君たち、どうして……」
「わ、私たちはその!」
「ノーストス嬢と仲良くなりたくて!」
「そうです!これからカフェでもご一緒しようかと」

あたふたとする彼女たち。この反応からすると、シルビア嬢の指示で嫌がらせしていた訳じゃないのね。

「へぇ、私も同席してもいいかな?」
「「「もちろんですわ!」」」

勝手に進んでいく流れに流石に私も見逃せない。

「ちょ!ちょっと待ってください、私行くなんて言ってませんから」
「ノーストス嬢、空気読んでくださる?!」
「せっかくシル様がお茶をご一緒してくださると言ってるのに」
「私は別にお茶をしたいと思わないわ」

ぐいぐいと腕を引っ張られ強引に連れて行かれそうになり、私は勢いよく腕を振り払った。

(何なのこの人たち、勝手にも程があるでしょ)

彼女たちにとってシルビア嬢は雲の上のような存在なのかも知れないが、私からしてみれば馴れ馴れしい男爵令嬢にすぎない。
盲目的にシルビア嬢を崇拝する彼女たちが気持ち悪く思えた。

「……グラシャ嬢、君は少し我儘な人なんだね」
「意味が分かりません」
「みんな君と仲良くなりたいだけじゃないか。なのにそんな言い方をするなんて」
「一方的に押し付けられれば誰だって怒ります。例えそれが好意でも、嫌なものを嫌と言って何が悪いのですか?」

するとそれまで穏やかだったシルビア嬢の顔が段々鋭くなっていく。

「やっぱり、君にアッシュは任せられないな」

口元は笑っているが、その目は私をキッと睨みつけていた。王子様と呼ばれている彼女がまさかこんな嫉妬剥き出しの顔をするなんて……。取り巻きたちもビクッと肩を震わせる。

「アッシュにはもっと相応わしい女性が婚約者になるべきだ。君のように、自分のことしか考えない女性はダメだね」
「……それってご自身のことですか?」
「!!!」

何故それを……と驚きながらシルビア嬢は言う。

「……そこまで分かってるなら話は早い。君は婚約破棄するべきだよ、このままだと恥をかくのは君だ」
「ご忠告どうもありがとうございます」
「知ってるんだよ、君たち上手くいっていないんだろ?婚約してから数年経つのにデートもしないなんてよっぽど君に魅力がないんだね」

(これが王子様の"本性"か)

シルビア嬢は決壊したダムのように私への悪口を浴びせる。よほどアシュレイ様を取られたのが悔しかったのか、周りの視線などお構いなしに語り続けた。

「アッシュも可哀想だ、君を婚約者に迎えて。私ならアッシュの全てを支えてあげられるのに……なんで君なんかと」
「もう良いですか?失礼します」
「待てっ!話はまだ……」

これ以上彼女に付き合っていられない。
身を翻しその場を離れようとした時、ガッと腕を力強く掴まれた。


「何をしている」
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