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27 クロエ視点
しおりを挟むその質問に返事ができなかった私は小さく頷き、サラの向かいの椅子に座り直した。
「少し、昔話をしましょうか」
この子には伝えなくてはならない。私とロッティ、そしてこの国が隠し続けてきた深い闇について───
■□■□■□■□■□
『本日からクロエ様のお世話をすることとなりました。どうぞロッティとお呼び下さいっ!』
ロッティは没落した旧家の娘で、年も近いことと気遣いの出来る性格を買われ私の専属侍女として採用された。
とにかくロッティという少女は無邪気だった。
いつも楽しそうに仕事をし、表情をコロコロ変えながら話をする。そんな正反対の彼女に惹かれるのは当然で、数年経てば私たちは王女と侍女の関係から気心の知れた友人になっていた。
そんな時、ある縁談が舞い込んでくる。
それこそが当時まだ王太子だった、アーサー=ブルーディアとの婚約話だ。
アーサーはとても繊細で優しい人だった。
国と国を結ぶ戦略的結婚なのに、お互いのことをもっと知ろうと文通を始めた。最近楽しかった演劇や育てているインコのこと、好きな食べ物や昨日見た夢の話……些細な出来事を何十通もの手紙でやり取りする内に、アーサーという男に好意を持っていった。
晴れてブルーディア王国に嫁ぐことが決まった時、ロッティは泣いて喜んでくれたのだ。
『クロエ様、どうか私もブルーディア王国に連れてってください。貴女様に一生お仕えしたいのですっ!』
とても嬉しかったわ。
好きな人と添い遂げることが出来て、しかも親友と離ればなれにならなくていいんだもの。
でも、この決断が全ての間違いだった───
ブルーディア王国に来て2年ほど経った頃、ロッティが義母であるマリアン様の目に止まってしまった。
その頃のマリアン様は他人には興味がなく、義理の娘である私に対しても冷たいお人だった。なのに……
『ロッティ!美味しいお菓子、一緒に食べましょ?』
『侍女の仕事なんか放ってこちらにいらっしゃい』
『クロエ、ロッティを私の侍女にしたいの。良いかしら?良いわよね?ねぇ?』
何がきっかけだったのか分からないが、マリアン様は目にみえてロッティに執着するようになった。
しかし相手は義母であり王妃、やんわりと断っていたのだが……見かねたロッティが直接マリアン様に抗議したらしい。
『クロエ様と離れるつもりはありません!』
当時マリアン様からの心労でなかなか子宝に恵まれなかった私を、ロッティは誰よりも心配していた。だからこそはっきり断ってくれたらしい。アーサーも私を守るために予定を早めて国王の座についてくれた。
優しい夫が、優しい親友が守ってくれた。なのに……あの悲劇が起こってしまったの。
『クロエ様、私、アーサー様をお慕いしているんです』
突然、ロッティはそう告げた。
『ずっとずっとずーっと好きだったんです。愛しているんです。でもクロエ様はご主人様だから言えなかった、でも我慢できなくなりました。私はアーサー様が大好きです。愛しています、もう止まらないんです』
止めどなく溢れるロッティの言葉に、私は何も言い返せなかった。ただ静かに涙を流してその場を逃げ出す、そして一晩中、誰にも相談出来ずに泣き続けた。
しばらくしてロッティはマリアン様の専属侍女になった。確固たる後ろ楯を得た彼女は、次第にアーサーとの距離も近付いていく。マリアン様はロッティを側室にしようとしていたがそれをアーサーが拒否し続けていた。それだけが救いだった。でも……
『ロッティ様が陛下との子をご懐妊されました』
裏切りは、いつも突然だ。
王宮医官からの報告は私の心をズタズタに切り裂く。
どうして?どうしてみんな裏切るの?
ロッティも、アーサーも、私は2人を信じていたのに……なんでこんなに酷いことを?!
「後から知ったのだけど、アーサーは無理矢理ロッティに襲われただけだったの。痺れ薬を飲まされて、魅了にかかったロッティに跨がられて」
「そんな……」
サラは青ざめながら呟く。
無理もない、このスキャンダルは一切漏れないよう箝口令が出されたのだから。
「では、その時の子が……」
「ルシアンよ」
今思えばマリアン様がルシアンを溺愛していたのは、孫だからというよりロッティの子だから。本当に、最後の最後まで恐ろしい人だわ。
「表向きルシアンは私とアーサーの子になった。そうでなければ正統な継承権は与えられないの、マリアン様も渋々ながら認めたのだけど」
「あ、あの……でも、それってロッティさんは納得したんですか」
そして、また言葉が詰まってしまう。
私が何より苦しかったのは、ロッティに気持ちを打ち明けられたことでもアーサーに裏切られた時でもない。
「ロッティはルシアンを産んで死んだわ、私の目の前で」
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