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しおりを挟むそして月日は流れ、私はだんだん穏やかな生活を取り戻していた。
最初は何も出来なかった領地の仕事も少しずつだが一人でこなすことも増え、領民たちとも直接意見を交換できるくらい着々とスキルアップしている。学園の勉強や王宮での仕事より何十倍も楽しくて、自分にはわいわい楽しく仕事をする方が合っているのだと知った。
そして空いた時間はコフィやお母様たちとお茶をしたり、忙しくて会えないファリス様への手紙を書いたりしている。
そして今日も予定を終わらせて、お母様と一緒に中庭でティータイムをしていた。
■□■□■□■□■□
「そういえばこの間、貴婦人会に行ってきて面白い話を聞いたわ」
お母様は穏やかな表情でそう言う。
「面白い話ですか?」
「ええ。2週間前くらいに学園の最終試験があったでしょう?そしたら試験内容に納得のいかない生徒たちが集団で暴動を起こしたそうよ」
「ぼ、暴動っ?!」
衝撃的なワードに思わず声が裏返る。
仮にも名のある貴族たちの通う学校で暴動が起きたなんて、今まで一度も聞いたことないわ。
「『試験が難しすぎる!学園は生徒をまともに卒業させる気がない!』ってね。校舎の窓ガラスを割ったり教師を殴ったり……散々だったみたいよ?」
「……なんて愚かな」
抗議と暴動では全然意味が違ってくる。
理性の元に言葉で訴えかけるのが抗議、暴力で制圧するのが暴動。彼らのしたことは幼稚で……とても許されるような行動じゃないわ。
「しかも問題を見直したらテスト内容は全部履修範囲内。結局は勉強を疎かにしていた生徒たちによる逆恨みってことで収まったらしいけど……」
お母様は少し楽しそうに笑う。
「暴動隊を先導していたのがあのバカ女……んん、トータス家のご令嬢さんらしいわ。しかも取り押さえられた時、王太子殿下の名前を口にしたもんだからもう王宮内はパニックよ」
お母様、今バカ女って言わなかったかしら……?
「殿下が関与していたかどうか知らないけど、暴動を起こすような人間と懇意にしていた説明責任はあるわよね」
「……そうですね」
これであのお嬢さんは犯罪者になった。そんな彼女を殿下はどうするんだろう……。
「まぁあのバカップルは放っておいて。サラちゃんはこれからどうするの?」
不意の質問に「へ?」と気の抜けた返事をしてしまった。
「結婚よ。私たちは別に無理してする必要はないと思ってるけど、もしサラちゃんに願望があるなら……国内で探すのは難しいと思うの」
そう言って困ったように眉を下げたお母様を見て何も返す言葉がなかった。
端からみれば王家の縁談を断った女、そんな私を娶れば何かしらの報復を受けるかもと邪推する貴族は少なくないはずだ。コンシェナンス家の後ろ楯があると言えど、さすがに王家の顔を潰すような真似を率先して引き受けないでしょうね。
「お母様、もちろん覚悟はしてますわ。こうなった以上、責任ももって独身のまま公爵家を……」
「だからね!サラちゃんにはもうリリーシア卿しかいないと思うの!」
「………、えぇええっ?!」
一瞬フリーズし、すぐに大声で叫んでしまった。
「彼ってどういう方なの?ご兄弟はいるのかしら?魔術師ってそもそも結婚とかってしてもいいお立場なの?」
「ちょ、ちょっと待っ」
「一度ゆっくり考えてみても良いんじゃない?デートはどう?それともお食事?あ、演劇なんかも良いわよね!植物園でまったりするのも良いし、手なんか繋いだりしちゃって……あっ!それ以上はダメよ!お母様許さないから!」
乙女モード全開のお母様に圧倒される。
お母様と恋愛話なんて今まで一度もしたことはない。ルシアン様のことは何とも思っていなかったし、魅了がかけられてからはそんな話ができる状況ではなかった。
お母様って……意外に暴走するタイプなのね。
「……あの、ま、まだそこまでは考えられないというか」
「あらそうなの?まだってことは可能性があるのね!」
ものすごい目がキラキラしてる……!!
「そ、それに!彼のことは何も知らないというか……そもそもあの人も、私のことを知りたいと思ってくれているかどうか」
だんだん自分の言葉が尻つぼみになっていくのが分かった。
ファリス様にとって私は、単に魅了に巻き込まれただけの公爵令嬢。それ以上の関係は望んでいないかもしれない。
────じゃあ、私は?
「サラちゃん………可愛いわっ!!」
「うぐっ!お、お母様っ?!」
対面に座っていたはずのお母様は突然立ち上がり、私をむぎゅっと抱き締めた。
「沢山言いたいことはあるけどアドバイスは一つ。自分の気持ちに正直にね?日が浅いとか立場がどうとか関係なく、今度こそちゃーんと見極めるのよ!」
「あ、えっとその………は、はい」
「ふふふふっ!」
な、何の話だったっけ?
楽しそうなお母様を見てたら最初の話がなんだったのかすっかり忘れてしまった。
「失礼致しますお嬢様!お嬢様宛てに王宮から手紙が届いておりますっ」
突然の呼び声にピタッと談笑を止めると、息を切らしながらやって来たコフィが一通の手紙を持ってきた。
お母様と顔を見合わせた後、ゆっくりと封を開け中身を確認する。
「サラちゃん……?」
「招待状です、一ヶ月後に行われる王宮のティーパーティーに招待されました」
「!!!それって……」
「ええ。恐らく向こうから仕掛けてきたのでしょう」
ご丁寧にシュチュエーションは5年前と一緒。
これは私に対する挑発なのか、あるいは……自分の力を過信しているのか。
でもこれはチャンスだ、全てはこの日にかかってる。
「そうそう何度も同じ手に引っ掛かるもんですか」
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