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後日談 その3 終章のあと、ミランダがノアと再開するまでのお話
その21
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竜を模した箱型の飛空船は、黄金の大地にも見える砂漠を飛び進む。
「では、一旦着地しましょう」
そして昼を過ぎた頃、モリオンが宣言のあと飛空船は着地する。
目的地であるイクゥアまで、あとわずかという場所だ。
少しだけ歩くことになる。
だけれど、それは仕方がないことだった。
ベアルド王国にある街はどれもアイスゴーレムに守られていて、空からの侵入はできないからだ。
ミランダであれば、アイスゴーレムに指示することもできたが、そっと街へと入りたかった彼女は地上から進むことにした。
モリオン達は、ここから東に向かうらしい。
「レオパテラ獣王国へも行かねばならないのです。故に、ここでお別れです」
「助かったわ」
礼をいいつつミランダは飛空船を見上げる。
箱型の船はミランダが知っているどの船よりも異質なものだった。
――スルフェシュは王が発掘した船ゆえでしょう。
モリオンの言葉をミランダは思い出した。
統一王朝時期の船を地中から掘り起こしたという話だ。半壊していた船だったが、動力部となる魔石ノイタイエルが生きていたので修復したという。
「本当に底がしれないわよね。ヨラン王国は……」
ジワリと浮き上がる飛空船を見上げつつミランダはつぶやく。
そして、あたりを見回すジムニとシェラへと視線を移した。
二人はどこまでも続く砂漠で騒いでいた。
「今回はそこまで大騒ぎじゃないのね」
言いながらミランダは二人へと近づいて行く。
サエンティとパエンティの二人と別れるときには泣いたシェラだったけれど、今回はあっさりしたものだった。
「師匠! あとどれくらい?」
「そうね。あと……少しよ。あれに乗ればね」
ミランダが指を延ばした先に、巨大なラクダがいた。
国土の殆どが砂漠であるベアルド王国で、馬車の代わりに使われるラクダ。
彼女が指さした巨大なラクダは、ウムータという名前で乗り合いの乗り物だった。
ウムータは3階建ての家より大きいラクダだ。
リーダ達であれば、ビルのように高くそびえるラクダだと驚いただろう。
それは足が長くて背中は普通のラクダより硬く、力が強い。その巨体の首に樽に似た小屋を括りつけて、そこに乗って利用する。
「トーク鳥でお呼びされたヘレンニア様でございますね」
3人がウムータへと近づくと、小屋から小柄なオークが顔を覗かせ大声をあげた。
「えぇ」
頭上の小屋に向かってミランダは答える。
ウムータの御者であるオークは、前金を頂いているので準備済みだと言った。
どうやら、モリオンが手配してくれていたらしい。
「リフトを降ろしますんで、お待ちを~」
「要らないわ」
そう言って、ミランダは魔法を使い3人で空を飛び小屋へと飛び乗る。
小屋の中には数人のオークが乗っていた。
ベアルドはオークの国だ。これからミランダ達が向かうイクゥアだけは人族が多いが、ほかの街は住民のほとんどがオークで占められている。
「あっ、うごいた。すっごい高いよ、師匠!」
3人が乗り込んでしばらくすると小屋が揺れた。
さきほどまで乗っていた飛空船のほうが高い場所を飛んでいたはずなのだけれど。
シェラの言葉にミランダは内心で応え、それから頷いてみせた。
「師匠! 遠くに何か見える! キラキラ光る……門?」
今度はジムニが声をあげる。
「イクゥアを守る氷の蛇ですよぅ」
それに答えたのは、両肩に小さな太鼓を乗せたオークだった。
「氷の蛇?」
「そうよぅ。ベアルド王国では、女王様が沢山のアイスゴーレムを作り街や城を守っているのです。イクゥアには蛇。街を取り囲む巨大で凜々しい蛇の姿をしたアイスゴーレムがいるのですー」
「すげぇ」
「皆様は、ベアルド王国は初めてですかー?」
「この子だけよ。せっかくだから歌って貰えるかしら」
ミランダは金貨の欠片をオークへと手渡す。
それを握ったオークはニンマリと笑って、肩の太鼓を叩いた。
ポンポンとリズミカルに太鼓を鳴らしながら、オークは歌う。
「砂漠を彩る不思議な空間。3つのオアシスがきらめく美しきベアルド。涼しく青いオアシスで、ボートが浮かんで遊んでいる。魚は皆のために楽しく泳ぐ」
歌うオークに合わせて、乗り合わせたオーク達は手を叩く。
それはさながら即興の音楽会だ。
「師匠、これ何の歌?」
「ベアルド王国を紹介する歌よ」
シェラの問いにミランダが小声で答える。その間も歌は続く。
「支配するのは明るく大胆な女王様。氷が大好きな女王様。彼女は無口な引きこもり。だけれど、砂漠に魔法をもたらした」
歌を聴きながら、本当に好き勝手に歌われているのね、私……とミランダは苦笑する。
「さあ旅立ちましょう! 壮大な砂漠の国ベアルドへ! 氷の女王の国の美しさと共に!」
最後は大仰なセリフと、鳴り響く拍手で歌は終わる。
「本当だ! オアシスが見えた! すげぇ!」
「あれはイクゥアですよぉ。3つのオアシスのうち、一番小さいけれど、一番青いオアシス」
「あんなに大きいのに、一番小さいのか! 船がいっぱいあるのに」
「ですですぅー。ちなみにですねー。あの三角帆の船は緑色をしているでしょう?」
「あぁ、初めて見る船だ」
「あれはヤシの葉を編んで作っているのですぅ」
軽快なオークの説明を聞きながらもジムニは外を凝視する。
「あのね、お兄ちゃん。泳いだりもできるよ」
「すっげー。あれが空から見たときにキラキラと光っていたのか」
そして巨大ラクダのウムータが止まった。
目的地である街イクゥアへとたどりついたのだ。
乗った時と同じように空を飛んでウムータから降りた3人の前には、門のように見える巨大な蛇型アイスゴーレムの身体があった。太さだけでも、ミランダの身長の何倍もある巨大な姿。
それはグルリと街を取り囲むように横たわり、くねくねと上下に波打つ身体は、門のような隙間を地面とのあいだに作っていた。
「シェラ、何処に行くの?」
街の中に入るかとミランダが考えた直後、シェラが街とは逆方向へと走り出した。
彼女の進む先にはラクダのキャラバン。
「おぉ、シェラ!」
そして褐色肌の老人がそこから飛び出してきて、叫ぶ。
老人はかがんで、駆け寄るシェラを抱きしめた。
「では、一旦着地しましょう」
そして昼を過ぎた頃、モリオンが宣言のあと飛空船は着地する。
目的地であるイクゥアまで、あとわずかという場所だ。
少しだけ歩くことになる。
だけれど、それは仕方がないことだった。
ベアルド王国にある街はどれもアイスゴーレムに守られていて、空からの侵入はできないからだ。
ミランダであれば、アイスゴーレムに指示することもできたが、そっと街へと入りたかった彼女は地上から進むことにした。
モリオン達は、ここから東に向かうらしい。
「レオパテラ獣王国へも行かねばならないのです。故に、ここでお別れです」
「助かったわ」
礼をいいつつミランダは飛空船を見上げる。
箱型の船はミランダが知っているどの船よりも異質なものだった。
――スルフェシュは王が発掘した船ゆえでしょう。
モリオンの言葉をミランダは思い出した。
統一王朝時期の船を地中から掘り起こしたという話だ。半壊していた船だったが、動力部となる魔石ノイタイエルが生きていたので修復したという。
「本当に底がしれないわよね。ヨラン王国は……」
ジワリと浮き上がる飛空船を見上げつつミランダはつぶやく。
そして、あたりを見回すジムニとシェラへと視線を移した。
二人はどこまでも続く砂漠で騒いでいた。
「今回はそこまで大騒ぎじゃないのね」
言いながらミランダは二人へと近づいて行く。
サエンティとパエンティの二人と別れるときには泣いたシェラだったけれど、今回はあっさりしたものだった。
「師匠! あとどれくらい?」
「そうね。あと……少しよ。あれに乗ればね」
ミランダが指を延ばした先に、巨大なラクダがいた。
国土の殆どが砂漠であるベアルド王国で、馬車の代わりに使われるラクダ。
彼女が指さした巨大なラクダは、ウムータという名前で乗り合いの乗り物だった。
ウムータは3階建ての家より大きいラクダだ。
リーダ達であれば、ビルのように高くそびえるラクダだと驚いただろう。
それは足が長くて背中は普通のラクダより硬く、力が強い。その巨体の首に樽に似た小屋を括りつけて、そこに乗って利用する。
「トーク鳥でお呼びされたヘレンニア様でございますね」
3人がウムータへと近づくと、小屋から小柄なオークが顔を覗かせ大声をあげた。
「えぇ」
頭上の小屋に向かってミランダは答える。
ウムータの御者であるオークは、前金を頂いているので準備済みだと言った。
どうやら、モリオンが手配してくれていたらしい。
「リフトを降ろしますんで、お待ちを~」
「要らないわ」
そう言って、ミランダは魔法を使い3人で空を飛び小屋へと飛び乗る。
小屋の中には数人のオークが乗っていた。
ベアルドはオークの国だ。これからミランダ達が向かうイクゥアだけは人族が多いが、ほかの街は住民のほとんどがオークで占められている。
「あっ、うごいた。すっごい高いよ、師匠!」
3人が乗り込んでしばらくすると小屋が揺れた。
さきほどまで乗っていた飛空船のほうが高い場所を飛んでいたはずなのだけれど。
シェラの言葉にミランダは内心で応え、それから頷いてみせた。
「師匠! 遠くに何か見える! キラキラ光る……門?」
今度はジムニが声をあげる。
「イクゥアを守る氷の蛇ですよぅ」
それに答えたのは、両肩に小さな太鼓を乗せたオークだった。
「氷の蛇?」
「そうよぅ。ベアルド王国では、女王様が沢山のアイスゴーレムを作り街や城を守っているのです。イクゥアには蛇。街を取り囲む巨大で凜々しい蛇の姿をしたアイスゴーレムがいるのですー」
「すげぇ」
「皆様は、ベアルド王国は初めてですかー?」
「この子だけよ。せっかくだから歌って貰えるかしら」
ミランダは金貨の欠片をオークへと手渡す。
それを握ったオークはニンマリと笑って、肩の太鼓を叩いた。
ポンポンとリズミカルに太鼓を鳴らしながら、オークは歌う。
「砂漠を彩る不思議な空間。3つのオアシスがきらめく美しきベアルド。涼しく青いオアシスで、ボートが浮かんで遊んでいる。魚は皆のために楽しく泳ぐ」
歌うオークに合わせて、乗り合わせたオーク達は手を叩く。
それはさながら即興の音楽会だ。
「師匠、これ何の歌?」
「ベアルド王国を紹介する歌よ」
シェラの問いにミランダが小声で答える。その間も歌は続く。
「支配するのは明るく大胆な女王様。氷が大好きな女王様。彼女は無口な引きこもり。だけれど、砂漠に魔法をもたらした」
歌を聴きながら、本当に好き勝手に歌われているのね、私……とミランダは苦笑する。
「さあ旅立ちましょう! 壮大な砂漠の国ベアルドへ! 氷の女王の国の美しさと共に!」
最後は大仰なセリフと、鳴り響く拍手で歌は終わる。
「本当だ! オアシスが見えた! すげぇ!」
「あれはイクゥアですよぉ。3つのオアシスのうち、一番小さいけれど、一番青いオアシス」
「あんなに大きいのに、一番小さいのか! 船がいっぱいあるのに」
「ですですぅー。ちなみにですねー。あの三角帆の船は緑色をしているでしょう?」
「あぁ、初めて見る船だ」
「あれはヤシの葉を編んで作っているのですぅ」
軽快なオークの説明を聞きながらもジムニは外を凝視する。
「あのね、お兄ちゃん。泳いだりもできるよ」
「すっげー。あれが空から見たときにキラキラと光っていたのか」
そして巨大ラクダのウムータが止まった。
目的地である街イクゥアへとたどりついたのだ。
乗った時と同じように空を飛んでウムータから降りた3人の前には、門のように見える巨大な蛇型アイスゴーレムの身体があった。太さだけでも、ミランダの身長の何倍もある巨大な姿。
それはグルリと街を取り囲むように横たわり、くねくねと上下に波打つ身体は、門のような隙間を地面とのあいだに作っていた。
「シェラ、何処に行くの?」
街の中に入るかとミランダが考えた直後、シェラが街とは逆方向へと走り出した。
彼女の進む先にはラクダのキャラバン。
「おぉ、シェラ!」
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老人はかがんで、駆け寄るシェラを抱きしめた。
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