召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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後日談 その2 出世の果てに

進路

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 部屋を後にしたオレは、窓から飛び降りる。
 王城はひたすら大きくて、外へ出るだけでも馬車を呼んだりと面倒なのだ。
 馬車を呼ぶくらいなら、飛び降りたほうが早い。幸いオレは願いの力で空を飛べる。

「リーダー!」

 フワリと緑の庭へ着地し、大きく伸びをしていると、声が聞こえた。
 ノアの声だ。
 声がした方を見ると、ノアが小走りでこちらに向かってきていた。カーバンクルが、ノアの足元を跳ねるように走っている。
 その後には、プリネイシアとエティナーレがいた。

「ノアも散歩? ピッキー達は?」
「うん。プリネイシア様とお話しながら散歩。ピッキー達はね、飛空船を作るところを見たいって」

 そういえば、飛空船を作っているんだっけ。オレ達専用の飛空船。
 もっとも船では無く島がある。空飛ぶ島、飛行島。飛空船はあんまり使わないと思う。
 スピードも快適性も飛行島の方が上だからな。

「あのね、来年からスプリキト魔法大学に行くの」

 適当に散歩しながらノアの話を聞く。
 星読みであるプリネイシアの推薦で、来年からスプリキト魔法大学に行く事にしたらしい。
 行きたいと聞いていたけれど、来年とは……予想外に早い。
 ノアの頑張りならば、入学して最初の試験で4級も夢ではないのだとか。
 うんうん。ノアは自分の事をきちんと考えている。外野が、許嫁などと言わなくても大丈夫なのだ。
 そうやって話を聞きながら歩く途中で「いきなり飛び降りられると焦る」と言いながら駆け寄ったイオタイトも加わり、散歩を続ける。

「カボゥ!」

 そんな散歩中の事だった。
 ノアの足元をうろちょろしていたカーバンクルが、大きく鳴くと、庭の一方に向けて走り出す。

「待って」

 慌てて追いかけるノアの後をついて行くと、体格のいい1人の男が横たわっていた。
 足早にオレ達を追い越したイオタイトが男の側によって、手を取る。
 それで気が付いた男が「うぅ」と小さく呻いた。

「怪我も無いようですし、死ぬ……という事はございません。空腹と疲労により力尽きたかと。腰に下げた符丁から舞踏会場を整える職人のようです」

 男の側に跪き、しばらく観察した後でイオタイトがそう結論づけた。
 腰のベルトに下げた工具などから、工事現場にいる職人というのは間違い無いようだ。

「食べる物を用意しなきゃ」

 ノアがオレを見て言った。
 すぐに頷き、コップと皿、そして小さなパンを影から取り出す。
 まずは手当だ。それから話を聞けばいいだろう。

「庭では無く、どこか……ベッドに運びましょうか」
「いいえ。この程度の者に対し、それは過剰な対処になりますわ。状況が確認できるまでは騒ぎを大きくしないほうがいいでしょう」

 オレの提案をエティナーレが却下する。イオタイトもプリネイシアも頷いているところから、その判断は妥当のようだ。
 それにしても、この程度の者か……身分制の世界とはいえ、どこまでいっても慣れない。
 もっとも男は水をゴクゴクと飲み、パンを口にすると落ち着いたようだ。
 イオタイトの質問にたどたどしく答え、立っている様子を見てもふらつきなどは無い。
 どうやら男は、舞踏会場の修繕をしている職人らしい。そういえば、城のどこもかしこも魔神復活の際に破損しているからな。舞踏会場もその例に漏れないそうだ。
 修繕にかかる納期が厳しく不眠不休で作業していたところ、とても身体が怠くなり、現場から少し離れた木陰で休むことにしたそうだ。そこをオレ達が発見したらしい。
 これだけなら、オレにとっては他人事だったかもしれない。ところが、次の一言で事態が変わる。

「聖女ノアサリーナ様が御自らの誕生日までの完成を望まれているとかで……それで職人はもう死に物狂いで」

 ノアの言い出した事で職人が酷い目に遭っているという言葉。
 もちろんそんなことはない。ノアも、プルプルと首を振る。

「あぁ、それは大変だ。急ぎ戻るのがいいだろうねぇ」

 オレやノアが口を開く前に、プリネイシアがそう言って、男を追いやる。

「私、そんな事、言ってない」
「そうさね。ノアサリーナが言うわけが無いねぇ。困ったもんさね」

 本当に困った話だ。放置はしておけない。

「舞踏会場……でしたっけ? さっきの男の人も心配だし、行ってみるか」

 現場監督なり誰かがいるだろう。詳細を知りたいと考え、提案する。

「遠くは無いですし、行くのは構いませんが、王子がお見えになるとなれば隠されるのでは?」

 エティナーレが提案にコメントした。確かにそうだな。オレでなくとも部外者が行けば隠される可能性がある。

「そっと見てきます。王子達はしばらくここで」

 続けてイオタイトが言ったかと思うと、黒い鳥に姿を変えて舞い上がる。そして大空で一回転した後、飛んでいった。
 舞踏会場に向かったのだろう。鳥になって空から様子見か。

「イオタイト様……詠唱などしていませんでした。あれは魔導具ですか?」
「いいえ、ノアサリーナ様。あれは魔導具ではありません。イオタイトの力。呪いを支配し、彼は自由に鳥の姿をとれるのです」
「呪い?」
「左様です。ハロルド様と同じ獣化の呪い。それをたゆまぬ鍛錬の末、完全に支配下に置いたのです。故に、王剣ですらイオタイトのはばたきを遮る事はできません」

 ノアの疑問に、エティナーレが答える。
 ス・スとの戦いでも見たけれど、あれは呪いだったのか。そして王剣の……つまり領主権限による制約は無視と。
 タダ者じゃないのは分かっていたつもりだけど、あらためて聞くと凄い特技だ。それはそうとして……早く詳細を知りたい。
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