召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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最終章 リーダと偽りの神

ねかま

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 あたりが真っ白になった。
 背後からビュゥと冷たい風が吹き抜け、自分が真っ白い床に立っていると気がついた。
 明るく真っ白い部屋だ。
 服装も変わっていた。元の世界でいうビジネススーツ。その上にロングコート。
 だけど、シャツからコート、靴にいたるまで真っ白だ。わりと趣味が悪い。

「いつまで呆けておるか」

 目の前に男がいて、オレの顔を覗き込み言った。
 瞬間移動だ。
 急に目の前に出現するとビビる。
 褐色の肌をして、すね丈のズボンにサンダル。そして上半身裸。まるでサーファーだ。顔つきに陽気なヤンキーっぽさがあって、それがさらにサーファー感を増している。真っ赤な指先と肩まである髪がユラユラと揺れている。

「ここは?」

 オレの言葉に男は応えることなく、パッっと大きく後に飛んだ。そして空中に座り込んだ。
 よく見ると、空中に白い板が浮かんでいた。
 男に近づいていくと、彼が座っている板だけではなくて、まるで2重らせんを描いて、大量の板が上へ上へと配置されていると気がついた。
 他の板に横たわったり立ったりしている人が何人もいた。
 あれは、板のあつまりというより、らせん階段だ。
 真っ白く、巨大な、どこまでも続くらせん階段。

「まったく、覇気が無いでおじゃる」

 大きな緑色のリュックを枕にして、寝っ転がった女の子がオレを見下ろして言った。
 小学生のような格好だ。白いシャツに、黒いスカート。

「イレクーメの言葉もっとも。常在戦場。生とはそうでアール」

 らせん階段に仁王立ちした巨漢の男が言った。黄色い金属鎧に、ライトつきの黄色いヘルメットを被った男だ。
 だけど「パフパフ」とライトが音を立てたことで、それはライトではなくて楽器だと気がついた。

「そろそろ本題に入るニャ」

 女性の声が聞こえる。
 白いもふもふを付けた深茶色をした厚手のコートを着た女性が、らせん階段に座り、あぐらをかいてジッとオレを見ていた。

「なかなか本題に入らない。だが、それがいい」
「よくないニャ」

 らせん階段にいる奴らから言い争うような声が聞こえる。
 本当に、何だこいつら?

「まぁまぁ、何の説明も無しでは、狼狽するのも無理はありません」

 右側から男の声が聞こえた。ふと見ると、素足で薄手の白い衣を着た男が近づいていた。
 若く親切そうな優男だ。手入れのされた茶色の髪がさらりと揺れた。
 素足の男があるくと、ペチャリ、ペチャリと足音が鳴り、茶色い足跡が残った。

「ここは、一体?」

 よく分からない状況にオレは困惑していた。

「ここは神界。そして私はルタメェン。最初に貴方に声をかけたのはケルワッルですよ」

 素足の男がおだやかな声で言った。
 神界。
 ルタメェン、ケルワッル。

「神様?」
「ようやく気付いた。一目でこの神々しい姿を見抜けぬとは、ダメでおじゃるよ」

 オレのあげた声に、女の子が馬鹿にしたように言った。
 ほっぺを膨らませて怒る様子は、見た目どおりの年をした女の子といった様子だ。
 断じて神様とは思えない。

「神界において、神の姿は自らの魂が反響して見える姿。きっと貴方には人としての姿を持った我らが見えるでしょう。意外に思うのも、神を想起できないのも、無理はありません」

 ルタメェン神が静かにいって微笑み言葉を続ける。

「考え、選択する時間を与えるために、我らは貴方を招きました」
「選択……ですか?」
「えぇ。上をご覧なさい」

 言われるがまま上を見上げると、白く輝く光の球体があった。
 すごく大きく、真っ白の球体。
 あたり一面が真っ白なので言われるまで気がつかなかった。表面は白い炎が揺らめいて、液体のようにうねっているのがわかる。そして、パチパチと小さな放電音が鳴っている。

「あれは?」
「人が造りしデイアブロイの心臓、そしてモルススの王ス・スが育てた魔力の塊……貴方には第2の月といえばよろしいでしょうか」

 あれが第2の月。CGで見る太陽を真っ白くしたような……そんな感じだ。

「あのまま放置していたら、地上には制御する者がいない。月は暴れて壊れるところだった」

 ケルワッル神が言った。

「壊れてしまえば、余波で地上は3度は滅びたでおじゃる」
「人々が息絶えるのは不味いニャ」

 らせん階段にてくつろぐ神々が次々と語る。

「故に、我らが回収した」

 最後に神々は声を揃えた。

「ですが我らは回収しただけ。変に奪い合うような真似をするのも意味がありません。勝者である貴方が使い道を決めるのが道理。故に、この地に貴方を招きました」
「はい」

 返事はしたが、どうやって使えというのだろう。
 魔力の塊……魔法の究極とかを使わせてくれるというのだろうか。

「さて、後は我らの代表と話をしてください」
「代表?」
「遠い昔の事です。我らは我らで争いました。多くの神々が死に、生き残ったのは我らだけ。その後、取り決めをしました。その取り決めに従い、貴方との交渉は、貴方が最初に関わった神に委ねられます。さぁ! タイウァス! 貴方の出番です」

 そう言ってルタメェン神はゆっくりと距離を取った。
 代わりに前にあるらせん階段の根元から一人の男が歩いてくる。
 シルクハット状の深い青色をした帽子、つばのある帽子を被った男だ。水色の燕尾服に革靴を彷彿とさせるが真っ青の靴。
 男は「やぁやぁ、どーもどーも」とニコニコ顔で近づいてくる。片手を胸元で立ててかがんであるく様子が、飲み会に遅れてやってきた人に見えた。

「初めましてリーダさん。私が水と眠りを司るタイウァスです」

 彼はニコニコ顔で言った。
 何かがひっかかる。うさんくさい顔とか、そんなのでは無いが、何かがひっかかる。
 顔に力を入れ無理に微笑み警戒心を抑えた。

「それで……話というのは?」
「あの魔力。ただの人であるリーダさんには、ポンと渡されても困りますよね。なので相談いただければ私が対応しますよって話です」

 なるほど。頼めば叶えてくれるって事か。
 魔法の究極みたいだな。だけれど、魔法と違って今回は目の前にいるタイウァス神に言うことになる……と。
 目の前……って、あれ?

「ところで、あの、タイウァス神って女神なんじゃ?」

 何気なく言葉がでた。ひっかかりの理由を口にする。
 いつもタイウァス神殿では、女神像が鎮座していた。あそこは女神推しがトレードマークなのだ。

「もう、バレたでおじゃる」
「やはり隠せないだろ、やはり」

 オレの言葉にらせん階段でくつろぐ神々が反応する。

「バレた?」
「タイウァス神は、人々が天の蓋によって神と人の世を切り離す直前、自らを可憐な女神と吹聴したのだ。大地に生きる者達に」

 口にした疑問に、ケルワッル神が笑いながら答えた。

「女神の方が受けがいいと、そのような些末な考えだったようです」
「信徒を増やし、自らの力を高めるための姑息な手段でおじゃる」
「いや、あの時は、これほどまで長く人の世と離れるとは思わなかったのですよ」
「ダメでアール。それは言い訳でアール」
「そうだニャ。酷いニャ」

 タイウァス神は振り向いてらせん階段にいる神々と口論する。
 彼が身振り手振りで行う会話の内容が、酷い。神様のイメージぶち壊しだ。
 というか、目の前のタイウァス神って、コイツ、性別を偽って……ネカマをしてやがったのか。
 最後の最後で、とんでもないインチキ神が出てきた。

「ハハハ、まぁ、そうです。神々とはいえ過ちを犯すものです。そうして優しさを学ぶのですよ」

 口論が終わり、こちらを向いたタイウァス神がそう締めくくった。
 良い話のように言っているが、とどのつまり、笑って誤魔化しただけだ。
 まったく……。
 なんか悲しくなりつつも、頭を切り替える。オレはオレの目的を果たしたい。

「例えば、私がこの地に留まりたいと願えば?」

 そこで自分の希望を切り出してみた。

「大丈夫ですよ。あの魔力を使えば神の座も得られます。神々として神域に留まり世界を導くことも可能です」

 いきなり神になれると軽く返されてビビる。
 そういうつもりで言ったのでは無いが、本当に、簡単に言うな。

「あ、いや、ギリアの……」
「なるほど、早合点しました。そんな事なら」

 ギリアの地に留まりたいというオレの言葉に、タイウァスは自分の手の平へ何かを書いて、言葉を続ける。

「うん、終わりました。あの魔力を使うまでもない」
「終わったって?」
「地上、湖畔の地でしょう? 召喚による効果が無くなった後の心配を貴方はした。それに対処したのです。魂の座標を、湖畔の地に変えました」

 オレの願いはあっさり叶った。
 もう、元の世界に帰還することは無いらしい。

「神様はやはり凄いのですね。私達ではどうにもならなかったのに」
「天の蓋により、其方の魂は排除される運命にあった。天の蓋が無ければ、そこまで高度な問題でないのだ」

 感心するオレに対し、らせん階段に腰掛けたケルワッル神が答えた。

「とまぁ、そんなわけです。さて、あの程度の望みでは月の魔力は尽きる事が無い。もう少し派手な望みをおっしゃってください」

 ケルワッル神を一瞥して、タイウァス神がニコリと笑う。

「では、私が元いた世界とギリアを繋げる……例えば扉のような物は作れますか?」

 少し考えて、ちょっとした思いつきを口にする。
 ミズキとかは、戻りたいという気持ちと留まりたいという気持ちの両方で揺れていた。
 他の同僚達も大なり小なり似たようなものだった。
 それは扉で行き来ができれば解決だ。
 オレの質問に、タイウァス神は少し考えた後、振り返りらせん階段を見た。
 そしてらせん階段に向けて両手を開いたり閉じたりして、他の神々と打ち合わせのような事を始めた。

「4日いけますかね?」
「遠いニャ。2日が限界では無いかニャ」
「効率を考えれば5はいけるでおじゃる」
「気合いで180時間を目指すのでアール」

 しばらく続いたやり取りの後、タイウァス神はオレの方へ向き直る。

「4日、うまくすれば5日。それだけの時間、2つの世界を繋ぐ扉を維持できます」
「開いていても、閉じていても?」
「はい。状態は関係ありません。4日、もしくは5日です。我らの力はこの地だけ、他の世界にまで干渉はできませんので」
「そうですか……」

 2つの世界を繋ぐ事はできても、いつまでもという訳にいかないらしい。
 世の中、上手くはいかない。

「神とはいえ力には限界があります。2つの世界を繋ぐ力を維持するには、我らはやや力不足です」
「力が有れば……」
「えぇ。力が有れば可能です。ですが、アレには介入させるわけにいきません。とすれば我らの力が限界となります。そう、神とて終わりではないのです。我らは皆、いつまでも高みを目指します。最果てにて、原初の光……栄光の光を目指して」
「故に、お前が神の座を手に入れ、神を超えれば、扉を望むほど造り維持することも可能だ!」

 タイウァス神が申し訳なさそうに語り、ケルワッル神が神を超える道を示した。

「我らのように信徒を増やし祈りと捧げ物により魔力を得る方法、人や神を殺し魔力を得る方法……それらにより力を得るのです。リーダさんだったら、1万年もあればいけるかもしれませんね」

 常識であるかのようにニコニコ顔でタイウァス神が付け加える。
 1万年って、そんなに暢気にはいられない。
 だけど、2つの世界を繋ぐ扉も、僅か数日しか存在できない。
 さて、どうするか。オレは真上をみる。
 そこには先ほどと変わらず、真っ白い太陽のように、第2の月が輝いていた。
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