召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十四章 途方も無い企み

おもいで

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 究極を超える究極が完成しても、まだまだ準備は続く。
 オレ達の企みを完遂するための準備は続く。
 協力してくれた人達は、粛々と去って行った。オレの言葉を聞いて、ある種の決意をもって、去って行った。
 去りゆく人を、屋敷の外で見送る。

「皆様、お気を付けて」

 ノアの言葉の後、オレ達はそろって頭を下げる。

「お見送りありがとうございます。ノアサリーナ様も、ご武運を」

 魔神の復活に備えるために、故郷へと帰る人達をオレ達は必ず見送った。
 深々と頭を下げて見送った。
 大部分の人は帝国や勇者の軍が派遣してくれた飛空船の手助けもあって順調に帰ることができた。
 歩きの人も、冒険者が護衛を買って出てくれたことで安全に帰ることができた。
 10日もしないうちに、あれだけ沢山の人がいた山の斜面はガランとした空間になった。
 帰らない事を選択した人は、カロンロダニアと行動することになった。
 あっと言う間に人が去った中、オレ達は最後の日にむけて行動を続けた。
 それぞれの願い事を書き出したり、詳細な打ち合わせをしたり、魔導具を作ったりして過ごす。
 サムソンとカガミは、自分達が居なくなった後の事を考えて本を書いた。
 ハイエルフの双子とピッキー達は協力して、飛行島の完成度をより上げる作業に邁進する。
 飛行島は一回り大きくなって、小さなお城が建っている。まるで遊園地にありそうな真っ白い小さなお城。それはノア専用のお城だ。
 全てが順調に進む。
 だけど、カガミの命約数はゼロになった。オレは残り1。時間はあまりない。
 そんななか、来客はほとんど無かった。
 頻繁に、やってくるのはイオタイトだけ。
 魔神復活の5日まえからイオタイトが毎日、確認のためやってくる。
 それは日付を間違わないための確認と、手助けが必要なら聞いてくるように言いつけられているためらしい。

「とうとう明日だな」

 魔神復活の前日、早起きしたつもりだったが、広間に行くと、同僚達は勢揃いしていた。
 そして、いよいよ、明日が最後の日という日がやってきていた。
 前日は、ゆっくりと皆で過ごすことにした。
 最終確認を軽くして、ご飯を食べて、のんびり過ごす。いつもと同じように、本を読んだりしてゆったりと過ごした。
 明日には魔神が復活し、大災害が起こるというのに、いつまでも平和な日が続くように、おだやかな一日を過ごす。
 昼食後、少し早めに温泉に入った。早めに夕食をとる。豪勢な食事に、たっぷりのマヨネーズ。
 最後に、デザート。

「ごめんなさい。アイスクリーム、もう少し時間がかかると思います」

 ところがデザートだけはうまくいかなかった。いつもより、早めの夕食って事で勘が狂ったのかもしれない。

「まぁ、急ぐでもなし、出来たら教えて」

 夕食後、デザートを前に、少しだけ広間から抜け出す。
 ふと、思ったことがあった。オレは確認するため屋敷の最上階へと足を運ぶ。
 円筒状をした屋敷の4階。
 操舵輪を彷彿とさせる円形のテーブルに、手をかざす。ノアから借りたマスターキーの力で、テーブルに宿った魔導具の力が放たれる。
 燭台の幻、そして地図。オレがテーブルの端を掴み回すと、幻は姿を変えて地図になった。

「ノアを……憎む者は?」

 索敵の能力を持った地図は全く変わらない。笑みがこぼれる。

「ノアの、味方は?」

 地図は、まるで燃えているように真っ赤に輝く。それは夕日の差した部屋をさらに赤く染めた。
 今やノアの味方は世界に溢れているのだ。

「もし……」
「リーダ」

 オレが思案に更けていたときロンロが背後から声をかけてきた。
 即座にテーブルの魔導具を停止し、振り向く。

「何かあったのか?」
「ううん。アイスクリームがぁ、出来たらしいわぁ。それからノアがプレゼントだってぇ」
「プレゼント?」

 広間に戻ると、ノアがテーブルに、一冊の本を置いた。
 思い出。
 それはノアの文字で、思い出というタイトルの振られた本だった。

「これは?」
「日記。ずっと書いてた日記をまとめたの」

 ノアの日記?

「読んでもいいの?」
「うん。表紙はトッキーとピッキー、それからチッキーに作ってもらって、タハミネ様にくっつける魔導具もらったの」

 満面の笑顔でノアは語り、ピッキー達が自慢げな顔でオレを見ていた。

「そっか」

 立派な木製の表紙を捲る。
 ざらりとした紙には文字が書いている。
 普段ノアが書いている字とは随分と違って、大きさも形も揃っていない文字で書いてある文章。
 それだけで昔を思い出し目頭が熱くなる。
 ノアは日記と言っていたけれど、そこに日付は無かった。

 さいしょのひ。

 日記は、日付のかわりに、最初の日という見出しから始まっていた。

「最初の日?」

 日記を書き始めた最初の日だから、最初の日なのかと思いつつノアに尋ねる。
 ノアは、自慢げに笑う。

「うん。皆に会った最初の日だから、さいしょのひ……なの」

 オレ達と会った日、そこから始まる日記なのか。
 そっか、さいしょのひ……か。
 サッと目を通し、次のページを見る。

「おいしいたべもの」
「えっとね、カロメー。最初の日は、沢山、いっぱいの事があったから、沢山書いたの。えっとね、最初の方は思い出しながら書いたの。だから本当とはちょっと違うかも……」

 ノアが少しだけバツが悪そうに言う。

 ――問題ないさ。

 そう言おうとしたのに、声がうまくでなかった。

「次は、じこしょうかいか。あぁ、なんだか思い出してきたぞ」

 声の出ないオレに変わって、サムソンが横から覗き込み言った。

「なになに……これ」
「あぁ、ミズキ氏、ノアちゃんが思い出を本にしたらしいぞ」
「へぇ、まほうつかい?」
「うん。皆がすぐに魔法を使ったからびっくりしたの」

 ミズキが手で自分の顔を扇ぐようにしながら、パッと上を向いた。
 タイトルが大きな文字で書いてあって本文が続くスタイルで、日付の無い日記。
 それでも、その出来事が何時の頃あった事なのかは、鮮明に思い出せた。
 たのしかったいちにち、だいぼうけん。
 誰かが、タイトルを呟く。
 ノアが身振り手振りで、その日の事を解説する。オレと同僚達はノアの動作を食い入るように見ていた。

「じゅうじんず」
「オイラ達の事だ」
「うん。ピッキーがロバの為に干し草を準備した話なの」

 ノアの語るエピソードにはオレの知らない事もいっぱいあった。

「こいぬのハロルド」
「これは、懐かしいでござるな。ふむ、拙者がいないとき、かような事があったのでござるか」

 ぶれすと、ほわいとりすと。
 いくつかの言葉には、注釈をつけていた。
 中には破れたページもあって、それは失敗したページらしい。

「まだまだ、沢山あって、読み切れないぞ」

 分厚い本に、サムソンが笑いながらも寂しそうに呟いた。

「あのね、魔法で増やしたから、皆にあげるね。でも、ちょっと失敗してるかも」

 ノアが膨らんだ鞄から数冊の本を取り出す。大きさは少しだけ違っているが、問題無い。

「大丈夫。うまく出来てるぞ。ノアちゃん」

 サムソンが笑顔で即答する。オレ達も頷く。
 それからもページをめくり、皆が目を通した。途中からイラストが付くようになった。つまり絵日記だ。
 せんかん、ふなたび。懐かしい出来事がノアの目線で語られる日記は続く。

「あのね……」

 ノアに小声で呼ばれた気がした。

「なんだい?」

 だけど、振り向いてみるとノアは床に伏せっていた。
 横顔は笑みを浮かべ、スースーと小さく息をしていた。
 いつの間にかノアは寝ていたらしい。

「フフッ、いつの間にか、皆、寝ちゃってましたね」

 カガミが、気がつかない間に寝ていたノアやピッキー達を見て笑う。

「なんだか夢中で読んでたら、時間が経っちゃった」
「熱中しすぎたぞ」
「アイスクリームも、溶けちゃいました」

 寝冷えしていなければいいなと思いつつ、オレ達は手分けをしてノア達をベッドに運ぶ。
 そして、後片づけと、少しだけ明日の事を打ち合わせして解散した。
 勝負の日を明日に控えた夜。
 それは意外なプレゼントをもらって、静かに過ぎていった。
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