召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十四章 途方も無い企み

閑話 執務室にて

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 それは、リーダとノアが、人を集め魔法陣を作る計画を立てた日。
 領主の城を訪れた日の事だった。
 窓から、綺麗な山肌と静かな湖が見える執務室で、領主であるラングゲレイグへフェッカトールが静かに頭を下げた。
 それは、リーダ達が立ち去ってしばらくしての事だった。

「すまない。強引に話をまとめてしまった」
「いいえ、かまいません。私は兄上が情報を引き出すのかと思っておりましたので、黙っていただけです」

 頭を下げたフェッカトールに対し、ラングゲレイグが笑みで返す。

「そうか」
「ですが、理由を聞かなかったのはどうしてなのです?」

 ラングゲレイグはそばのテーブルからツボを手に取り、中に入った水をコップに注ぎつつ質問を投げた。

「私はかって、王都に命じられるまま、理由を知ろうともせず、ノアサリーナを追い詰めた。ずっと考えていたのだ。もし彼女が助けを求めてきたのならば、何も聞かず可能な限り助けようと」
「左様でしたか。それにしても魔法陣とは。それも膨大な数の積層魔法陣」
「私の知る限り、現存する最大の積層魔法陣は、カーバンクル生成の際の600枚だ。それを超えるようなものは聞いたことがない。そもそも積層魔法陣は、使い勝手が悪い」
「あの様子では、1000や2000では足りぬでしょう」
「おそらく相当な人数を集めることを想定しているはずだ。今や彼女の近くには、帝国や魔法王国の者もいる。他国の物を招き入れるとなれば、それはギリアだけの問題では済まなくなる」
「そうとなれば、やることが増えますな兄上」
「だろうな。今であれば、まだ其方は聞いていないと、切り捨てることができるぞ」
「はっ。そんな気はありません。もとより私は彼女達にかけているのです。家はおろか、私自身の未来を」
「そうか……何かあったか?」

 何かを語ろうとしていたフェッカトールが笑みを消した。
 それは、ラングゲレイグが一変したことに気がついたからだった。

「私の……領主権限が回収されております」
「何時からだ?」
「わかりません。先ほどまでは確かにこの身へ宿っていたのに……」

 ラングゲレイグの告白に、フェッカトールも先ほどまでとはうってかわって緊張した面持ちになった。
 領主権限の回収。それは本来、王都で儀式と共に行われるものだった。例外は、領主が反逆した場合、ただそれだけのはずだった。

 ――領主権限が回収されているということは、何らかの理由で反逆が疑われたということになる。

 フェッカトールは考える。
 そして彼の脳裏には、先ほどのリーダとの会話が思い起こされた。

「そんなはずはない」

 すぐにフェッカトールは、自分に言い聞かせるように呟いた。
 追い討ちをかけるように、門番からの報告が入る。

「黒騎士がこちらに?」

 駆け込んできた役人からラングゲレイグは報告を聞く。その報告の途中に、四人の黒騎士が執務室へとなだれ込む。

「ギリア領主ラングゲレイグ、そしてフィオロインの2名を残し他の者は下がれ」

 黒騎士の1人が部屋に入るなり部屋の者に命令する。
 先ほど執務室に駆け込み黒騎士の訪問を伝えた役人は、慌てた様子で前のめりになって部屋から出て行った。

「私の正体がばれている……」

 フェッカトールことフィオロインは確信した。彼の鼓動が早くなる。一部の者を除いて彼は自分の正体を隠していた。だが、今この部屋に入ってきた黒騎士は彼の正体を把握していた。
 ラングゲレイグもまた緊張した面持ちをさらに厳しくした。

「テーブルを」
「はっ」

 黒騎士の一人が、別の黒騎士に命令する。直後、執務室にあったテーブルと椅子が部屋から消える。
 洗練された魔法の行使に、フィオロインは息をのんだ。

「ラングゲレイグそしてフィオロイン。そこに跪き、王の言葉を受けよ」

 黒騎士の一人が、先ほどまでテーブルのあった場所を指さし言葉を発した。
 ラングゲレイグ達は従うほかなかった。
 二人が跪いたのを見て、黒騎士の一人が口を開く。

「ギリア領主ラングゲレイグ。前ギリア領主フィオロインに命ず。ノアサリーナ、及びリーダの計画に協力し、その隠蔽に努めよ。隠蔽ができぬ場合は、矮小化に努めよ。王の言葉は以上」
「はっ。王の臣下として、言葉に従うと誓います」

 ――王は、ノアサリーナ達の計画を知っている?

 ラングゲレイグとフィオロインは同じ感想を持った。
 自分たちが先程きいたばかりの事について、王都にいる王は把握している。何か繋がりがあるのかと、二人は考えた。
 ところが、状況は二人に考える隙を与えない。
 黒騎士のもたらした王の言葉が終わり、顔をあげようとしたラングゲレイグの視界に、剣が見えた。
 かって王都にある第3騎士団副団長であった彼が反応できないほど自然に、彼の肩に剣の腹が置かれていた。真っ白い剣は、キラキラと白い煙にも似た光を立ち上らせていた。

「真の王剣……」

 横目でその剣をみたラングゲレイグが小さくつぶやく。
 彼を見下ろし、真っ白い剣を手にした黒騎士が口を開く。

「かってお前に与えた力は回収した。代わりに別の力を与える。古い昔、ギリアと呼ばれた地における王剣の全てであり、望めば黒騎士でさえ排除できるものだ。その力をもって、使命を果たせ」
「死力を尽くし、王命を果たします」

 白い剣を持った黒騎士に、ラングゲレイグが震える声で答える。
 一方の黒騎士は、彼の言葉に反応することなく剣を消し去り、部屋から出て行った。

「その力は、王の命があるまで秘匿せよ。決して、悟られぬように全力をつくせ。守れなかった場合は、我らのいずれかが其方達を消しにくるだろう」

 最後に黒騎士の一人がそう言い残し去っていく。
 執務室に残された2人は無言だったが、しばらくして、フィオロインが尻餅をつくようにへたり込み天井を見上げた。

「ハハッ、ハハハ」

 そしてフィオロインは笑った。

「兄上?」
「わけがわからない。強大な何かに絡め取られた気分だ。しかし悪く無い。退路は絶たれたが力は手に入れた。あとは覚悟だけだ」
「覚悟ならすでにできていますよ、兄上。我ら兄弟が力を合わせれば、恐るものはありません。我らは我らの戦いをしましょう」

 笑うフィオロインにつられラングゲレイグも笑う。
 それは、ある意味やけくそ気味の乾いた笑みだった。
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