召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十三章 未来に向けて

はーもにー

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 超巨大ゴーレムをみて満足したオレ達は、村人からの歓待をうけて、夜を過ごした。
 カガミは遺跡の研究を熱心に聞いていた。
 サムソンは、超巨大ゴーレムの資料をヒンヒトルテからもらってご満悦だ。
 オレは、村で作っているという漬物が大いに気に入っていた。
 翌日、村を後にする。名残惜しいが、やることもあるし、気になるならまたくればいい。
 村を出発して数日、行きと同じで平和な日々が続く。
 ノアは超巨大ゴーレムで皆が勢揃いしている絵を描いてすごしている。
 広間で描いている様子をチラリと見ると、ずいぶんと絵が上手くなっていて、完成が楽しみだ。

「あのゴーレム、もしかしたら動かせそうだぞ」
「エアロバイク漕がなくても?」
「俺達は、大量のミスリル銀をもっているだろ? あれを使えば、出来そうだ」
「へぇ。じゃあさ、超巨大ゴーレムで魔神も倒せるかもね」
「勇者の軍がありますし、でも、お手伝いはできると思います」

 帰りの話題はもっぱら超巨大ゴーレムの事だ。やっぱり皆、巨大ロボが好きなのだ。
 そんな平和な日々、海亀の背にある小屋を取り巻く柵によりかかり外をみていると、ノアが近づいてきた。

「お土産よかったね」

 ノアは、オレがぽりぽりと漬物を食べているのを見て、笑って言った。

「そうだね」

 笑顔でうなずき、ぽりぽりときゅうりの糠漬けに似た漬物を食べる。
 オレが美味しいと食べていたら、お土産にくれたのだ。
 塩のきいた旨味が上手い。
 カガミはピクルス代わりに、ハンバーガーに合いそうだと言っていた。確かに、合いそうだ。ハンバーガー……しばらく食べていないな。カガミにねだろう。あれ、作るのめんどくさいし。

「そういえば、プレインお兄ちゃんが秘密兵器を作っているんだって」
「秘密兵器?」
「そう、秘密なの」

 ノアに言っている時点で秘密も何もないけど……何を作っているのだろう。
 そういえば、昨日もほとんど部屋に閉じこもっていたな。
 サムソンもそうだし、個室が充実すると、皆が広間に集まる時間が減るようだ。
 秘密兵器のことをノアから聞いた夜に、少しだけ聞いてみると、魔導具を作っていると教えてくれた。

「ずっと、自分は何ができるんだろうと試行錯誤してたっスけど。物を作るのが好きみたいで、楽しいんスよ。こんな、手を動かして、作っていく、工作みたいなのが」

 そう語る彼は楽しそうだった。
 好きなことができるのはいいことだ。帰りは平和だし、みんなが好きにすればいい。
 それから数日後、御者台に座り、茶釜に乗るミズキとノアを眺めつつ進んでいるときの事だ。

「ノアちゃんとミズキ姉さん、あっ先輩も、ちょっと来て欲しいっスよ」

 小屋の窓から身を乗り出したプレインから声がかかった。
 広間へといくと、テーブルは片付いていて、A4サイズで辞書くらいの厚みがある箱が置いてあった。それは中央にチューリップが描いてあり、その周りには色違いのビー玉に似た宝石があつらえてある木箱だった。

「できたっス」
「秘密兵器ができたの?」
「そうっス。秘密兵器」

 ノアの質問に、プレインが笑顔で答える。
 彼が箱を手に持って、ノアに向かって少しだけ傾けると、小さく音が鳴っていることに気がついた。

「あっ、これって」
「ちょっと見てくれは悪いっスけど、全部の機能をつめこんだ。ノアちゃんのための魔道具……名付けてハーモニーっス」
「私のための?」
「というより、皆のための魔道具っスね。神様の音楽を奏でて、それから空気が綺麗になって、ノアちゃんが使うと星振りまで使えるんス」

 少しだけ考えた後、ノアの質問にプレインが答える。その様子から、呪いの中和については、実装しているがノアには言わないつもりだと気がついた。そのあたりは、後で詳しく聞けばいいかな。

「前に言っていた他の機能は?」
「それもばっちりっス。詳しくは資料をまとめてるっスよ」

 そう思っていたら、サムソンがノアをチラリと見て質問を重ねた。
 プレインが静かに微笑み頷く。呪いの中和も大丈夫らしい。

「ところで、ハーモニーってどういう意味なんだっけ?」
「和音って意味っス。もともとは昔の言葉で、調和とか一致なんて意味らしいっスよ」
「いいね。じゃ、沢山作る方法と配ることも考えなきゃな」

 そこで話は一旦おしまい。
 やはり、後でプレインに聞いたら呪いの中和についても実装されていた。
 ミズキはもうすこし見てくれをよくする方法を考えているらしい。
 その日の夜、広間で夕食を食べている時、これからの話になった。

「帰ってからのことになるが、究極を超える究極の製作のことだ。現状は、すでに究極を超える究極は完成している。だけど、現実的ではない数の積層魔法陣なので、サイズを縮める努力をしてきた。ここまではいいか?」
「え? 完成してたんスか?」

 プレインが驚きの声をあげる。なんとなく、一通り動くものができているとは思っていたが、完成していたのか。
 カガミは知っていたのか冷静に頷いていた。

「あぁ。プログラムとして見れば、動く。だが、今のままでは現実的な量じゃないから、手作業で無駄を省くアプローチをとっていた」

 それは当初の打ち合わせ通りだ。
 まずは動くプログラムを作る。それから、テストを繰り返しつつ、現実的なサイズに落とし込む。最初に決めた方針は今でも間違っていないと思う。

 サムソンが「帰ってからの予定だが」と前置きして言葉を続ける。

「手作業でサイズダウンすることに、限界があると思う。そこで究極を超える究極は一旦置いておいて、開発環境の強化を優先したい」
「でさ、結局のところ、魔法の究極ってそのまま書いたら何枚?」
「112、008、748枚」

 夕食の鍋をつつきながらミズキが何気なく質問した言葉に、サムソンが即答した。
 いちいちに……あとなんだっけ。
 さらりと言われたので分からない。
 大きな数だとは思うけれど。

「え? 一億?」

 その言葉の意味をきちんと理解していたのは、カガミだけだった。
 他の皆が首をかしげる中、彼女が大きな声をだす。

「いまのままではゴミの部分が多いから、数が膨れ上がる」
「ゴミ……ですか?」
「パソコンの魔法は、基礎魔法陣の存在を想定していないからな。基礎魔法陣は、なんというか独特の形式をしたモジュールで、いろいろと使いづらい。だから、パソコンの魔法に、基礎魔法陣の中から必要部分のみ取り出して、再構築する仕組みを入れないと、無駄な部分が沢山ある魔法陣が作成されてしまう」
「えっ? でもさ、魔法の究極は? 魔法の究極もそうだったの?」
「あっちは手作業でなんとかなったが、究極を超えるやつはだめだ。いままで手作業でやってきて、ちょっと見直してみたが、あと何年もかかりそうだ。かといって、屋敷の地下にあるバグだらけの魔法陣を、デバッグするのも、つらい」
「だからこそ開発環境の強化……パソコンの魔法を強化って事っスね」
「そういうことになるな」

 矢継ぎ早にされる同僚の質問に、サムソンは的確に答えた。

「その作り直しに、どれくらいの期間をサムソンは想定していますか?」
「1年くらいになりそうだぞ」

 1年か……。

「基礎魔法陣から必要な要素のみを抽出するってやれば、もっと短く作れたりしなっスか?」
「プログラミング言語から、魔法陣へのコンバート部分だけを効率化できると思います」

 やはり1年という期間が気になるのだろう。プレイン、カガミが、別の案を出した。

「1から作ったほうがいいと思うんだが……」
「とりあえず、安全に早い、そんな手段を検討しよう」

 少しだけ考えたが、時間が惜しい。
 ということで、作業時間の見積もりをしてから、どういうアプローチで進めるかを決めるという方針にした。
 いずれにせよ、サムソンとしては、究極を超える究極は1万枚程度の積層魔法陣に落とし込みたいらしい。
 それでも1万。究極を超えるというだけあって、やはり道は険しい。
 食後になっても皆の話は続き、最終的にちょっとした会議になった。その成果としてメモ書き程度ではあるが計画書も出来上がった。

「何度考えても、やることは一杯だな」

 話し合いから数日後、オレは小屋の屋根に寝そべってつぶやいていた。
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