召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十二章 病の王国モルスス、その首都アーハガルタにて

かんしゃのことば?

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 その日の会話はすぐに終わった。誰がいうともなくそれぞれが広間を出て行った。
 皆が疲れていたので仕方のないことだ。文字通り、死力を尽くして戦ったのだ。
 それからロンロ。
 あの戦いの後、ロンロは姿を消していた。

「あいつにも聞きたい事があったんだがな」

 夜中、ベッドで仰向けになって1人呟く。セ・スとの戦いで消えたっきりで、もしかしたらロンロは……。
 オレの頭を最悪のケースがよぎったときのことだ。

「リーダ」

 狙っていたかのように、ロンロが部屋へとやってきた。

「ノアが目を覚ましたわぁ」
「そっか。良かった」
「ずっと泣いているの。皆を呼ぶって聞いても、怖いって言ってて。お願い、助けて」

 頷き、ノアの部屋にいく。
 きっとレヴァナントとやらに、ロクでも無い事をいわれて傷ついたのだろう。
 1人で抱え込む必要はない。いや、もしかしたら無事なノアをみてオレが安心したいのかもしれない。
 ノアの部屋に行く途中、ロンロに今まで何をしていたのかを聞く。
 セスが指を鳴らした直後から憶えていないらしい。気がついたら、暗い場所をノアが歩いているところだったという。オレ達の姿は見えなかったというから、状況が少し違う。

「死んでも良いからセ・スを倒さないとって、ノアが思い詰めた様子で、光の柱をくぐったのねぇ。そして、ノアが死ぬくらいなら私が代わりにって、大きな声が聞こえて……私もぉ、ノアを止めようと光の柱に飛び込んだわぁ」
「死んでも良いか……」

 セ・スが指を鳴らしたときは、オレ達がまだ優位にあった。確かにタイマーネタは失ったが、それだってすぐに回収する策を思いついていただろう。ノアが悲壮な決意をするほどの状況に無かったと思う。
 そうこうしているうちに、ノアの部屋へとたどり着く。飛行島の家は、小さい2階立てなので階段を上がればすぐにノアの部屋だ。

「どうぞって」

 ノアの部屋の前で、一足先に乗り込んだロンロが扉から半身を出して言った。
 扉を静かにあけてみると、月明かりだけが差し込む暗い部屋で、ノアはベッドの隅で膝を抱えていた。

「起きたってロンロに教えてもらって、ホッとしたよ」
「うん」
「大丈夫? 喉とか渇いてない?」
「うん。あのね……」

 ノアの声は震えていた。

「なんだい?」

 だから、できるだけ優しく、そして軽い口調で聞き返す。
 随分と長い間、ノアは何も言わなかった。
 オレは、急かさず、静かにずっと待った。

「あの、私のせいだったの……」

 そして、ノアは消え入りそうな声で言った。

「私のせい?」
「リーダ達は私がお願いしたから来ちゃったの。遠いところから、ギリアのお屋敷に」
「そっか。ありがとう。助かったよ」

 オレが即答した言葉に、ノアが表情を変えた。
 もっとも、取り繕った答えではない。オレは本当に感謝している。
 ノアはこちらを向いてジッとオレを見た。

「ありがとう……?」

 そして、ポツリと言った。

「最初はびっくりしたけど、カロメーも美味しいしね」

 そんなノアに笑顔で答える。

「うん。ハロルドもびっくりしたって……」
「そりゃね。いきなり違う場所にいるんだもんな、驚くよな。だけど後は楽しいことばっかりだ」
「皆もそうなのかな。怒らないかな」

 オレの言葉に小さく笑うも、まだノアは不安そうだった。
 皆か……。
 随分前にミズキが、ちょっぴり長めの海外旅行だと言っていたのを思い出す。
 少しだけ考えたが、他のやつらも怒りそうにない。

「皆も楽しいだろ」
「そうなの?」
「最近だと、カガミをみてみろ。あいつ魔法で無茶してまで、猫……キンダッタ達にケーキの作り方を教えにいっただろ。ウキウキ気分で」
「うん。すっごく楽しそうだった」
「それからミズキ、あいつは、大金使って服を買ったんだぞ。茶釜達の」

 そうなのだ。初めて聞いたときは驚いたが、金貨を10枚近くつかって服を作っていた。
 ちなみにオレの服は銀貨8枚だ。平民としては立派な服なので困らないが、畜生共に服の値段が負けている事に、微妙に納得できない。

「あのね、グンフィは帽子も作ったんだよ」

 ノアがジェスチャーでシルクハットを表現する。
 グンフィは……茶釜の子供で、一番のんびりしているやつか。そのわりに、食い意地がはっていて、オレがカロメーを食べていると、横取りしようとするんだよな。

「ほんと。茶釜の服で、オレの服が沢山買えるらしいからな。酷いもんだ」
「えへへ。プレインお兄ちゃんに、サムソンお兄ちゃんもそうかな」
「プレインは……あいつはマヨネーズ飲んどきゃ大丈夫だろ」
「マヨネーズを飲むの?」
「知らないけど飲むんじゃないかな。あっ、ノアは飲んじゃダメだよ」
「うん。サムソンお兄ちゃんは……」
「あいつも楽しんでるよ」

 オレは続けて、スプリキト魔法大学でサムソンがしでかした悪行をノアにチクる。
 ノアにとって初めて聞く事も多かったらしく、途中から目を白黒させて驚いていた。

「私も生徒会長が踊って歌うのを見たかった……かも」
「きっと、そのうち、見られる」
「皆と一緒に?」
「きっとね」

 それからノアと笑い合って、ス・スを永久封印したことを伝える。

「ずっと封印するの?」
「そうだね。もう一生寝てろってやつだ。これで平和」
「うん」
「だから、大丈夫。上手くいってる。それもノアの活躍があったからだよ。有り難う」

 しばらくとりとめのない話をした後、途中からノアの話は母親との思い出話になった。
 母親についてノアは饒舌だった。
 黒の滴に襲われて2人になってからの話は、辛い内容にもかかわらずノアはとても良い思い出として語っていた。
 ノアの母親であるレイネアンナは、貴族令嬢ゆえか日常生活にかかる素養はあまりなかったようだ。
 焼きすぎて真っ黒になったパンを2人で食べた話。
 狩った鳥を調理魔法で途中まで調理して、最後の味付けで失敗した話。
 ロバに揺られて街道を行く途中で雨にうたれ、木の陰に避難した直後、揺れた木から大量の雨水が落ちてきてびしょ濡れになった話。
 ノアの髪をうまく結えなくて諦めた話。
 魚を魔法で捕ろうとしたけれど上手くいかず、通りがかったリザードマンが代わりに捕ってくれた話。
 ちょっとした失敗談を、ノアはとても楽しそうに語った。
 ほかにもカロメーを作って母親に褒められた話。初めて作ったカロメーをバッグに宝物としてしまっていたら消えた話。
 ギリアの屋敷について、二人でゴロンと床に寝転び笑い合った話。
 ノアは一生懸命に話てくれた。
 両親の思い出が無いオレにはノアの話は新鮮で、少しだけ羨ましくもあった。
 そして、それはノアが寝るまで続いた。
 この部屋に入った時とは違い、笑顔で寝たノアに安心して廊下に出る。

「いたのか」

 扉の外には、カガミがいた。
 壁にそっと寄りかかっていた彼女は照れたように微笑んでいた。

「ノアちゃんの声が聞こえたから、気になったんですが……邪魔しちゃ悪いかなって」
「そっか」
「少しだけ聞いてしまいました。ノアちゃん、お母さんに会いたいんですよね、きっと」
「多分ね」

 ノアの母親レイネアンナは死んでいない。あの妙な世界にいるのを知っている。
 状況はわからないが、居なくなってはいない。

「魔法の究極で……試して見たいと思います」
「ノアの母親を呼び寄せること?」
「えぇ」
「それは良い考えだな」

 カガミの提案に笑顔で賛同し、オレ達はノアの部屋を後にした。
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