召還社畜と魔法の豪邸

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第三十二章 病の王国モルスス、その首都アーハガルタにて

いっしょうねてろ

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「終わった」

 ミズキがそう言うなり仰向けに寝転んだ。

「今回ばかりは、もうダメでござる」

 続いてハロルドもしゃがみこんだ。
 来るときには、このメンバーで苦戦なんてしないだろうと思っていたが、とんでもなくギリギリだった。

「なんだよ、アレは」

 オレもようやく安心して悪態を吐いた。

「どうしたの? ノアちゃん」

 カガミがノアを見て声を上げる。
 ノアは飛行島の端でこちらを見たまま動かなかった。
 ジッと、無言でオレ達を見ていた。

「どうしたんだい?」

 泣きそうな顔をしたノアに優しく声をかけ近づく。

「ごめん……なさい」

 どうしたわけか、ノアは涙声でそう言ってオレの服を掴んでうつむいた。
 小さな手がブルブルと震えていた。

「何かあった?」
「ごめんなさい。ごめんなさい」

 そう繰り返し言ったかと思うと、ノアはガクンとオレにもたれかかるように倒れた。

「ノアノア!」

 少し離れて様子を窺っていたミズキが駆け寄ってくる。

「ノア」

 ノアを抱えあげて呼びかけても返事がない。

「ちょっと待って……あぁ、魔力枯渇ね。しばらく休めば目が覚めるわ」

 焦るオレのそばにミランダがやってきて、ノアの額に手を当て断言した。

「ノアが魔力枯渇か」
「暗黒卿の影響下で、聖魔の炎を使っただ。仕方ないだよ」

 さらに、近寄ってきたゲオルニクスが言う。

「ノアサリーナは、しばらく寝かせてあげれば大丈夫。それにしても……神殺しをするとはね……」

 2人とも焦った様子は無い。魔力枯渇という判断は間違いないのだろう。
 それからノアをベッドに運び、同僚とゲオルニクスは広間でカガミの入れたお茶を飲む。

「やっと生き返った感じっス」

 プレインがにこやかに笑う。確かにな、ようやく落ち着いた感じだ。

「さて、これからどうしようか」
「そうだな。もう、さすがにあのレベルの敵はいないと思うぞ」
「だよね」
「でも油断はできないと思います。神託の魔法ではあと3体と出ていました」
「最初に一人倒してさ、次にさっきあれ倒したじゃん。残り一体だよね」
「今、襲われたらひとたまりもないな」

 同僚達と話をしつつ、先を考える。さてどうしたものか。
 最後の一体。残っているモルススの残党について、それを考慮した上でどうするのか。
 それを考えていた時だった。

「あら、丁度良かった。たぶんあと一体は、すぐ側にいるようよ」

 いつの間にか、広間に入ってきたミランダが言った。

「側?」
「外に出てみると分かるわ」

 そう言われ、ミランダに案内されるように外へと出る。

「私は念の為、飛行島に残ろうと思います」

 留守番をかってでたカガミに頷き、家から外へと出て、飛行島の敷地から飛び降りた。
 飛行島の外は、異様な光景だった。
 透明な磨りガラスのような床が延々と続いていた。
 例外は、ポツンと立っている小さな祠だ。
 壁面に続く、神殿にも似た街並みとはうってかわり、底は質素だった。
 延々と壁面の街並みを伝わり流れている水は、底にぶつかると霧となって消えている。
 霧はうっすらと立ちこめていたが、視界はクリアだった。

「外なんかあるぞ。下」

 しばらく下を覗き込んでいたサムソンが驚きの声を上げる。
 床は透明だ。何処までも続きそうな穴が見えた。
 本来なら真っ暗な穴を何かが照らしていた。
 ほんのりと、床に、地中に埋まった何かが光っていた。
 目を凝らしてその正体にようやく気づくが理解が追いつかない。

「骸骨っぽい」

 しばらくしてミズキがつぶやく。
 それは確かに骸骨だった。
 それも超巨大な骸骨。骸骨は地中に立った状態だ。
 ローブを着ていて両手を軽くあげて、上を見上げたしゃれこうべが、オレ達を見ているようだった。

「こいつは死んでないだァ」

 両手の親指と人差し指で四角を作って骸骨を眺めていたゲオルニクスが言う。

「死んでいない?」
「あぁ。看破で見るとわかるがス・スだ」

 ス・スって……モルススの王様じゃないか。

「なんだって、こんなところに埋まってるんだろう」
「私には何も表示されないのだけれど……もっとも、見れば味方出ない事はわかるけど」

 下を覗き込んだミランダがゲオルニクスに向かって言う。

「オラは普通の看破じゃなかっただ……うっかりしてただ」

 そういや、そうだった。オレ達が日常に使う看破の魔法は、モルススのやつらが細工していたのだよな。奴らに都合の良い結果を表示するように、ロクでもない細工がしてあったんだった。

「ところでさ、これって氷?」
「いえ……これは水晶ね」

 ボンヤリと下を眺めていたミランダが呟くように答える。氷の魔法を自在に使うミランダのいうことだから本当なのだろう。すごいな延々と続く床が透明な水晶製なのか。

「そっか」

 そのまま少しだけ歩いて祠へと向かう。
 祠の中には一枚の石版が建っていた。

「ここも透明な床か……」

 下を見るとちょうど骸骨の額の真上に祠が建っていることが分かった。
 ほんのり光るしゃれこうべは、まるで祠を見つめているようだ。

「これは何かの魔導具か。少し壊れかけてるぞ」

 サムソンが石版に頭が当たりそうなくらいに近づきつぶやいた。
 確かにサムソンの言葉通り壊れかけにみえた。ヒビが入っている。

「これは封印のようね」

 サムソンの後ろから石版を眺めていたミランダが怪訝な様子で言った。

「誰かが、下の……ス・スを封じたと?」
「そのようね。何故か知らないけれど下にいる存在は封印されている。この魔道具が壊れると封印は解ける……そういう仕組みのようね」
「なるほど」

 魔神がラスボスなら、こいつは裏ボスって所かな。でかいやつが強いとは限らないけれど、どう考えてもこいつ絶対強いよなぁ。
 さっき戦ったセ・スよりも強かったら、手に負えない。

「よし決めた」

 ちょっと考えたが、オレの考えは即座にまとまる。

「何を決めただ」
「せっかく封印されてるんだ。下の、ス・スだっけ? こいつを丁寧に徹底的に封印してしまう」
「徹底的にって言ってもどうするんだ?」
「この魔導具が壊れたら復活するんだろ? だったら、壊れかけのこいつを修理してやろう」

 魔道具の修理は、ゲオルニクスだったら、何とかなるだろうと軽い調子で提案してみる。
 魔導具が壊れたら復活する。逆に言えば、魔導具が壊れないと復活しない。
 目覚まし時計のタイマーを切るみたいなものだ。
 つまりはタイマーを切ってあげることで、いつまでもス・スは寝たままで、皆が万々歳。永遠に寝てろ作戦だ。
 敵なんていない方がいいのだ。

「だったら私がやるわ」

 オレの言葉に手をあげたのはミランダだった。

「修理を?」
「魔導具の持つ時間を凍らせる。ついでに、ここら一帯に溶けない氷を張る。もし万が一破壊された場合、私はそれを感知できる」

 溶けない氷が。そんなことができるんだったらそれが一番いいか。直している間に何か起こったらめんどくさいしな。

「じゃあそれで」

 方針は決まり、最初の目的である黒本も手に入れた。
 もうここには用はない。ノアも心配だし俺達もボロボロだ。
 ということでのんびり帰ることにした。
 ノアは夜になっても目覚めることがなかった。

「そういえばさ。ノアちゃん、謝っていましたね」

 夜中、食後にカガミがポツリと言った。
 確かに謝っていた。悪い事どころか大活躍だったにも関わらず謝っていた。

「レヴァナントが何か吹き込んだのよ」

 カガミの言葉に対して、ミランダが即答した。
 ゲオルニクスも頷いている。この2人に心辺りがあるということは、呪い子に関わることなのか。

「レヴァナントって何スか?」
「あれでしょ。あのお面つけたゴブリン」
「ゴブリン? 老婆だったと思うのだけれど」

 ミランダが首を傾げるが、あれはゴブリンだ。ちょっと妙な所はあったけれど、老婆では断じてない。少し状況が違うのか。

「レヴァナントは、仮面だでよ。体は幻だぁ。呪い子の心が作る幻の魔物だぁ。人によって、姿が違ってても不思議は無いだ」

 だけど、続くゲオルニクスの言葉であっさりと答えがでた。
 あのゴブリンは幻だったらしい。
 思いっきり殴られたりしたが……。でも、言われてみると怪我していないな。あの妙な世界での出来事だから、怪我しなかったと思ったけれど、違うのか。

「吹き込むってのは?」
「アイツは、人の記憶から心の傷を読み取って嫌な事をいうのよ。だから、ノアサリーナも嫌な事をいわれたのだと思うわ」
「人を絶望させて、自我を乗っ取るだよ」
「私も出会い頭に氷漬けにしてなかったら危なかった。あれはそういう存在」

 ミランダが遠い目をして言う。
 確かに、ノアを見つけた時、殆ど抵抗していなかった。
 戦った感じ、あのゴブリンはしぶといだけで強くも無かった。ミランダとゲオルニクスの説明は納得できる。
 後で、ノアに聞いてみることにしよう。
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