召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十一章 究極の先へ、賑やかに

ほんぶのひと

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「2番と、5番の方は、難しいそうです」

 オレはギルド職員の言った言葉に頷く。
 魔術士ギルドで働き始めて5日が過ぎた。
 今日も魔術士ギルドで日中を過ごす。

「了解。その2人は私の方で対応しましょう。念のために、番号が前後することを伝えてください」

 オレが答えると職員はすぐさま持ち場へと戻っていった。
 仕事を始めて、日々工夫を凝らしていった。
 複製の魔法には、特に力を入れて工夫を凝らす。マヨネーズを触媒に使う事はもちろん、いろいろな伝手を頼って情報を集めた。
 カロンロダニアからは、針金をつかって、枠を作る方法を聞いた。
 複製の魔法は、増えた後の状況をイメージする事が大切らしい。増えた先をイメージして、それに重ねるように複製した物を魔法で作り出すのだとか。
 オレ達はパソコンで絵や文章をコピペするイメージで魔法を使っているが、現地の人はコピペがイメージできないから大変だということのようだ。
 鏡を使えばいいと思ったが、鏡は自分が映ったりして使い勝手が悪いそうだ。
 だったら魔導具を使えば……そう思ったが、他の魔力が混じるため複製の魔法は失敗する事が増えるらしい。
 ということで、針金で簡単なアウトラインを作り、それを補助にする。
 ファラハ皇女達には、香りを使う方法を聞いた。穀物や果物などは、部屋に匂いを充満させることで、複製した物品の品質が上がるのだとか。
 加えて、触媒の対応表をもらった。勇者の軍で使われている表で、複製の魔法で効率よく増やすために、使い勝手のいい触媒をリスト化したものだ。
 ちなみにリストは語呂合わせで暗記しやすく工夫してある。この語呂合わせの暗記法を思いついたのはノアだ。ギルドの人達にも、語呂合わせの暗記法は大好評で、なんだか自分の事のように嬉しかった。

「鍛錬を積めば、農作物程度であれば複製は容易い。その程度の事ができない能なしは雇うのを止めれば良いだけでしょう」

 もっとも、これだけ工夫したのに、タハミネのコメントは辛辣だった。
 仕事が出来る人には、出来ない人の気持ちが分からないのだ。多分。
 魔法以外にもいろいろと手を加える。
 来客の用件を聞いたうえで用意できるように受付票を作った。
 これは魔導具になっていて、対応する木片を客に持ってもらう。
 順番が来たら震える魔導具の木片。
 フードコートでよくあるやつを参考にした。
 受付票は、先に用件を聞くことで、複製であれば難易度ごとに担当を変える事ができる。
 こちらは病院の受付票を参考にした。

「今日は平和です。制服のお陰です」

 難しいと言われるチーズの複製を済ませたとき、隣で複製魔法を唱えていた職員が服の襟を摘まんで笑う。
 制服を作ってみたが受け入れてもらえてなによりだ。
 これは貴族のお客対策だ。
 貴族は身なりがみすぼらしいと、それだけで上を出せと騒ぐヤツが多いのだ。オレが出ると逃げるくせに、声だけは大きいので困る。
 そんな奴ら対策で制服を作った。
 制服といっても、古着屋で似たような服を買って、仕立て直しただけのものだ。
 それでも多くの職員の身なりが良くなり、貴族との対応もなんとかこなせるようになった。
 もっとも、ほとんどの貴族はお城に行っている。
 ギリアの町にある魔術士ギルドは、貴族の居ないまがい物のギルドだということらしい。
 少し前、ギリアの町に魔術士ギルドができるまでは、ギルドが行う仕事はお城でやっていた。だからオレ達のことを、まがい物のギルドと考える貴族はお城に行って複製の魔法などを依頼している。貴族達がお城へと行くことは、あらかじめフェッカトールに伝えて了承を得ているので、問題無い。
 貴族のお客が少ないおかげか、ギルドの雰囲気はとてもいい。
 気楽な雰囲気で、日々良くなる環境。誰も辞めることなく通ってくれるギルドの人達も、日々成長していて、ずいぶんと頼れるメンバーとなった。
 加えて、ささやかな助っ人がいる。精霊達だ。

「先日は、リーダに助けてもらったので、皆が協力するのでアル」
「ゲェコ」
「ギャウギャウ」
「皆、頑張り屋さんなのでやる気があるのです」

 そんなことを言って、目立たないけれど十分な手助けをしてくれている。
 水が必要な時は、すぐに壺を水で満たし、暖炉の火は常に丁度良い。
 暖かい風はギルドを吹き抜け、外は寒いのにギルドの周りは常に丁度良い。
 快適な環境に、頼れる仲間、良い感じで進む。
 とはいえ休む暇は無い。

「リーダ様に、クストンさんが面会したいとおこしになっています」
「今からいきます」

 ギルド長の席に座った途端、すぐに立ち上がる。
 いつまでたっても忙しいのは変わらない。
 クストンは、ピッキー達が大工仕事を習っているレーハフの子供だ。
 現役バリバリの大工。
 社宅を作ってもらっているのだ。
 職員がギルドで寝泊まりしているので尋ねると、家が無く、安宿が埋まっているという理由を聞いて、作る事にした。
 社宅に詰め込んでしまえば、少しは職員が定着してくれると思っての対策だ。
 近くにぼろい建物があったので、そこをリフォームして社宅にする。
 そんなわけでクストンに仕事を依頼したのだ。

「急ぎの手間賃、材料費込みで、前金で金貨80枚……確かに」
「よろしくお願いします」
「ハッハッハ。楽しい仕事を次から次へと任せてくれて楽しいよ。今回も安心して任せてくれ」

 金貨を渡すとクストンは嬉しそうに笑った。
 お金はギルドの予算から出している。貴族の職員が来ないので、彼らに給料を払う必要が無くなり予算が余っているのが幸いした。
 他にも馬車を買ったり、本当に沢山の事をやった。
 おかげで辞めた職員はいないし、オレの負担も随分と減った。
 一時はどうなるかと不安ばかりだったが一安心だ。
 さらに明日には、複製の魔法をより効率的に使うための工夫も出来上がる。
 このままヘイネルさんが復帰するまで、平和に日々が過ぎればいい。
 ……と思っていたが、そうは問屋が卸さなかった。
 のんびりギルド長の部屋で過ごしていたら、フッと目の前にトーク鳥が出現した。

「魔術士ギルド本部から、バーランという名の者を応援として送ったと連絡がありました。彼の前では、危険……いや、特別な魔法を使わないように気をつけてください」

 そのトーク鳥はフェッカトールの声で言葉を発し飛び去った。
 口調から、酷く警戒している様子を抱く。少しばかり不安だな。
 それにしても……トーク鳥は透明化の魔法をかけた状態で飛んできたのか。いきなり出現するとビビる。
 そして直後、ギルドの職員が飛び込んできた。

「魔術士ギルド本部のバーラン様が来られました。いかが致しましょう?」

 さっきの話にあった人か。
 早すぎるよ。

「分かりました。私が参りましょう」

 心の準備が出来ていないまま、ギルドの入り口へと向かう。
 マジかよ。多過ぎるだろ。
 そこで見たのは偉そうなローブ姿の男を先頭とした10人近くいる集団だった。
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