召還社畜と魔法の豪邸

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第三十一章 究極の先へ、賑やかに

チッキーパンチ

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 ノアの大魔力がパソコンの魔法に使えることになって、状況が大きく改善した。
 パソコンの魔法の処理速度が大幅に向上したのだ。
 いままでは、超巨大魔法陣の解析か、魔法の究極を作るためか、どちらかの目的のために皆の魔力をかき集めてパソコンの魔法を集中してぶん回す状況だった。
 それが、ノアの魔力を使うことで一変した。
 大型の開発にはノアの魔力を、そこまででは無い開発には、個々人の魔力を……そういった使い分けをすることで、皆が気楽にパソコンの魔法を使えるようになった。
 加えて数多く取り込んだ黒本を記録……基礎魔法陣と呼ばれるプログラム言語でいうライブラリを使うことで、プログラムも一気に作り安くなった。
 もっとも基礎魔法陣を使うと、やたらとプログラムが巨大になる。
 これは基礎魔法陣をプログラムに取り込む仕組みが未完成のためだ。一応、サムソンが取りかかっているが、手間がかかるため、いずれオレ達に作業を割り振るつもりだという。

「新しい魔導具を作ったっスよ」
「最近、こってるよね」

 プレインが昼ご飯の席で、報告する。
 ここ最近は、魔導具を作った話題がよく上がる。
 パソコンの魔法を使いやすくなったことによる開発力の向上。
 色んな場所に伝手ができて、材料が集めやすくなったこと。
 これらの要因によって、高性能な魔導具が簡単に作れる事が理由だ。
 上機嫌でプレインが、テーブルに腕輪を置いた。

「宝石がはまった腕輪……すっごく凝ってるじゃん」

 腕輪を見て、ミズキが驚きの声をあげた。
 確かに綺麗な装飾がされている。
 彼の説明によると、これを身につければ格闘技の達人となれるらしい。
 攻撃を受けると自動的に作動し、5秒程度稼働するという。
 緊急時に勝手に体が動いて迎撃するといった趣旨の魔導具だ。

「まぁ、クローヴィス君が持っている剣を再現したものだ」

 サムソンがプレインの説明に補足する。
 クローヴィスが持っている剣……前に帝都で見たアレか。
 彼はその剣を使い帝国兵を相手に大立ち回りを演じた。泣きながら剣を振り回すクローヴィスの勇士を思い出す。
 そして、いつものように試すことにした。
 皆で庭へと繰り出し、チッキーが魔導具を身につける。
 チッキーが使う理由は、実戦経験が一番無いため、魔導具の効果がわかりやすいと思ったからだ。

「これで良しと……、実験は何度かしてるけれど、人に対して初めて使うんで、お手柔らかにしてくださいっスね」

 チッキーの腕に魔導具を取り付けたプレインが、オレに向かって言う。
 近づいて攻撃をすれば魔導具は作動するらしい。
 クローヴィスの剣とは違って、効果は短いという。さすがに龍神が作ったものと同じというわけにはいかないようだ。
 さっそく、チッキーに近づいて軽くチョップする。
 プルプル震えている彼女に「ゴメンね」と小さく呟き手を振り下ろす。
 直後。

『ドゴォ』

 打撃音が聞こえ、腹部に強烈な痛みが走った。
 ミシミシと骨が砕ける感覚があって、オレは空を見ていた。
 やや遅れて、自分が宙を舞っていることに気がつく。
 それから、背中が地面に当たった。遅れて痛みが襲いかかってくる。

「ぐぅ……」

 呻き声がでた。グッと体を起こし息を吐く。

「大丈夫?」
「えっ? ちょっと!」

 ミズキとカガミが焦った声をあげる。

「あぁ、大丈夫だ」

 痛みに我慢しつつ手を軽く振る。思った以上の衝撃に驚きはしたが、エリクサーを飲めば大丈夫。
 それにしても、2人があんなに心配するなんて、それほどヤバい感じだったのかな。
 思いもかけない優しい心遣いが嬉しい。涙がでそうだ。
 と思って、周りの状況をみると、オレの周りには誰もいなかった。

「凄い音がしたよ!痛く無い?」
「チッキー、手は大丈夫?」

 ミズキはチッキーに駆け寄っていた。
 カガミも。
 ノアはオロオロと焦った様子でオレとチッキーを交互に見ていた。

「あの、オレも……痛い……んですけど」
「もう、大げさだって。エリクサー飲めば治るって」
「チッキーが困るので、シャンとして欲しいと思います」
「ごめんさいでち」

 ささやかながら痛みアピールをするが、ミズキもカガミも冷たい。
 逆にチッキーは涙目になっていた。
 恐縮し縮こまって謝るチッキーを見ると何もいえない。
 駆け寄ってきた涙目のノアからエリクサーを受け取り飲み込む。
 オレの味方はノアだけだ。
 エリクサーのおかげで痛みが引いていく。

「ごめん、ごめん。大丈夫だったよ、チッキー。それにしても、凄い威力だな」
「少し危ないと思います。軽く叩いたくらいで、あんな反撃があったら……ちょとと兄妹喧嘩で、怪我人が出そうだと思います。思いません?」

 確かにそうだよな。兄妹喧嘩で、大怪我するような状況はさすがに辛すぎる。
 最終的に、設定を見直して後日あらためて挑戦することにした。
 というわけで、失敗もあったが、沢山の魔導具を作っていった。
 壊れてしまった魔剣に代わるミズキの武器や、空中に浮かびオートで守ってくれる盾。
 あらゆる毒や病原菌に対応したマスク、それから空気を洗浄する空気清浄機。
 持ち主を自動追尾する荷車。
 くだらないジョークグッズ。
 昔から色々作ってきたが、最近作っている物は、ジョークグッズですら高性能になってきた。
 放った水量の千倍の水を幻術で見せる水鉄砲は、あまりのリアルさに、やり過ぎだと反省した。
 そして、そうやって魔導具作りに勤しんだ効果は、妙な事で実感できた。

「それでは、竹とんぼ作りを始めたいと思います」

 ある日、オレは竹とんぼ作りの講習会をすることになった。
 場所はファラハの屋敷。正確には屋敷の前に広がる庭に用意をしたテーブル。
 メンバーはファラハとノア、タハミネにエスメラーニャ。
 きっかけは、ノアとファラハのお茶会だった。
 魔導具の話から、魔法を使わないで空を飛ぶ不思議な道具として竹とんぼが話題に出たのだ。さらに、その不思議な道具は、オレが短時間で作ったこともノアが説明した。
 もっとも詳細は、その場にオレがいなかったのでわからない。
 ところが、ノアのした話をきっかけに、オレが講師をすることになった。

「みてみて、リーダ! 飛んだ……えと、飛びました」

 ノアは自分が作った竹とんぼが飛んだ様子をみて、大興奮だ。
 結局のところ、講師とは名ばかりで、実演するだけで全員が簡単に作り終えた。
 作りが簡単なうえ、こちらは道具がすごい。
 小刀は魔導具だったり、魔法をかけてあったりで、バターのように木が切れた。
 それに、この世界の人は皆が上手く刃物を扱う。というわけで皆が苦労せず作りあげた。
 ついでに作ったオレも、簡単に上手く作ることができた。
 ノアが鞄から取り出した竹とんぼ……オレがこちらの世界にきて最初に作った竹とんぼよりもずっといい出来だ。
 魔導具作りで、チマチマとした工作を延々としてるうちに、オレの物作りの才能も開花したらしい。

「ほ、ほ、本当に飛びましたぞ」
「面白いですね。タハミネ」
「ん、ゴホン。いや……少々、大きな声が出ただけでございますよ。姫様」

 作っている途中は半信半疑といったタハミネはかなり驚いていた。
 こちらの人は、物体は魔法で浮かすものだと思っているので、それ以外の方法は考えないらしい。
 不思議なものだ。
 オレ達は魔導具に驚き、現地の人は竹とんぼに驚くのか。
 はしゃぐノア達を見ているだけで、すごく面白かった。
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