召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十一章 究極の先へ、賑やかに

4つめのいさん

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 本筋とは関係ないのかもしれないが、一度でも気になると、考えてしまうことがある。
 今考えているのが、まさしくそれだ。
 ノアのご先祖さまが残した4つの品。そのうちの一つ、遊戯箱。
 床部分と天井部分に対応するA3サイズの板を、4つの円柱で支える構造の、木製の魔導具だ。
 普通に使えば、小箱の中にある人形を動かして模擬戦ができる魔導具。
 小箱の中にある人形を、格ゲーのように動かして対戦できる遊び道具だ。
 ところが、これがノアの祖先が残した品物ということになると、裏を考えてしまう。
 何かあるのではないかと考えてしまう。

「うーん」

 自分の部屋に転がった遊戯箱を見て、思わずうなり声がでる。
 何かありそうだと思ってはみても、よくわからない。
 遊戯箱は分解してバラバラにできるが、妙な所は無い。
 だが、オレの勘は正しかった。
 遊戯箱には秘密があった。

「幽霊劇場?」

 ここ最近の日課でもある超巨大魔法陣の解析について、自分の作業結果をサムソンに報告していたときのことだ。
 ごちゃついた彼の部屋で、汚部屋の主人サムソンが、気になるキーワードを口にした。
 遊戯箱は幽霊劇場という魔導具に、作り替える事ができるという。

「ウルクフラ氏は、遊戯箱の床板を変えることで、違う魔導具にする仕組みを考えていたようだぞ」

 赤い手帳を読んでいたサムソンは、ウルクフラの研究に、それらしいものを見つけてくれた。
 床部分を差し替えることで、遊戯箱は幽霊劇場という魔導具に変わる。
 これは、物尋ねの魔法を、強化する魔導具らしい。
 物尋ねの魔法は、古い遺跡などに使うと、白黒の3次元動画のように昔の風景を写してくれる魔法だ。
 ところが、この魔法で再生される当時の様子は無音だ。
 それに音が付くらしい。
 物尋ねの魔法の欠点である無音状態。それが解消される魔導具。
 是非とも試してみたい。
 というわけで、すぐに制作に乗り出す。
 必要な材料は、ウィルマの偽金貨という遺物、金銀銅といった貴金属、ミスリル銀に、最後に木材。
 これらの材料はすぐに揃った。
 遺物扱いの材料は、1円玉を使う。元の世界から持ち込んだ小銭は、万能触媒にして魔導具の材料としても有能だ。
 加えて、ミスリル銀もすでにある。金に、銅、他の材料も手元にある。木材は、外の木を切ればバッチリだ。
 サムソンから赤い手帳の写しを受け取った日には、制作を開始することができた。

「遠巻き男が手をつかぬ大きさで切る……?」

 何度読んでも、よく分からない表現もたまにあるが、なんとかなるだろう。
 そう思って、適当に作業を進めていたら、思わぬ援軍があった。

「おいら達も手伝います」

 庭先で魔導具を作っていると、ピッキー達が手伝いを申し出てくれたのだ。
 木々の細工は彼らの独壇場となった。
 メモのわからない表現もすぐに解決した。

「遠巻き男が手をつかぬ……は、大きさを示す言葉です」

 ピッキーが自信満々に答える。
 なんでも長さを測る生活魔法に、そういうキーワードがあるのだとか。

「えっと。2コッフ3フペ4ペスになります」

 追加で、トッキーが長さを手で示しながら教えてくれた。
 コッフは元の世界におけるミリに似た単位らしい。
 フペはセンチに当たる単位、ペスは大体30センチだったかな。
 とはいえ説明をうけても、こちらの世界における長さの表現はピンと来ない。
 たよりになる2人に任せておけば大丈夫だろう。
 他にも魔法のお陰で、サクサク作業が進む。ミスリル銀を溶かすのは、サラマンダーに頼めば楽勝だし、熱さから身を守るのは魔法で鎧を作れば万事OK。
 気がつけば3日で、魔導具の換装部品を作る事ができた。
 これを遊戯箱の底板と入れ替えれば、物尋ねの魔法がパワーアップする魔導具である幽霊劇場は完成する。

「やっとできたか」

 そして、完成したと同時に、待っていましたとばかりにサムソンから提案があった。
 地下室での使用だ。

「以前、地下室で使った時に、あの超巨大魔法陣を調べていた一団がいただろう? 何か話をしていたらと……そう考えた」

 理由を聞くと、サムソンはそう答えた。
 前回使った時は、兵士の一団が超巨大魔法陣を調べているところに、狼の獣人が現れて戦いになったんだよな。
 めちゃくちゃ狼の獣人が強かったといった印象がある。
 というわけで、まずは地下室で試すことにした。
 超巨大魔法陣がある地下室に、四角い箱型の魔導具である幽霊劇場を置く。
 魔力を魔導具に流し起動させて、その間に物尋ねの魔法を使えばいいらしい。

「なんかさ、楽しみだよね」

 なんだかんだと言って、皆が楽しみにしていたようだ。
 試すと知って、ゾロゾロと全員が集合する。

「箱の中にある人形がしゃべるの?」

 どうなのだろう。
 説明がなかったけれど、箱の中にある人形が喋るのかな。もし、そうだとしたら、声が小さすぎて聞こえなかったどうしよう……などと心配になる。
 もっとも、試してダメだったら改善すればいいだけだ。
 軽い気持ちで試すことにする。

『ガタッ……カタカタ』
 
 物尋ねの魔法を使ってみると、幽霊劇場がカタカタと揺れ出した。
 そして、辺りの景色が変わる。前と一緒だ。白黒の立体映像が浮き上がる。

「黄金兵団? 金貨を複製することで存在確率を減らし、そして作った隙間にホムンクルスを忍ばせたか。たしかに金貨は守り手に認識されぬ。小賢しい手は相変わらずだな、ス・スよ」

 音が鳴った!
 声は幽霊劇場から聞こえる。まるでスピーカーのように、細かく振動する幽霊劇場から、はっきりと声が聞こえた。そして、幽霊劇場の木枠の中に置いた人形のうち一体が兵士の格好をしていた。
 でも、誰の声なのだろう。兵士かな?

『カッ、カッ』

 靴音が響き、そして一人の兵士が顔をあげて、地下室にある階段状になった祭壇を見た。
 そういえば、前はあの祭壇から足が見えて、それから狼の獣人が姿を現したんだよな。
 そして立体映像は前回とまったく一緒だった。
 狼の獣人が姿を現し、兵士が彼をみた。

「カハハハハハ。理解が早い、いつ聞いてもさすがだと思うよ。ところで、ウルクフラ……これは魔法の究極だろう? なぜ、このような複雑な設計をしている?」

 顔を上げた兵士だけでなく、その場にいた兵士が一斉に同じセリフを口にする。

「世界を浄化し、お前の野望を打ち砕く……願いのためだ」

 そこで最初に聞いた声は、狼の獣人の声だったことに気がついた。
 彼がウルクフラらしい。
 一方のス・スが口にする言葉は、その場にいる全員が声を揃えて話していた。無音の時には気がつかなかったが、全員の口が全く同じように動いていた。
 そこから先も、以前と同じだ。
 ローブ姿で杖を持った狼の獣人ウルクフラが、魔法や噛みつき、杖での打撃と多彩な攻撃で、襲いかかる兵士をなぎ倒していく。
 会話の音以外の音声も再現されている。
 臨場感たっぷりに、地下室中に激しい戦いの音が響き渡った。

「強いな。さすが万能の天才と呼ばれるだけはある」
「……」
「魔法の究極で何を望む?」
「……」

 戦いの最中、兵士の群れは口を揃えて、ウルクフラに問いかけるが、彼は返事をしない。
 そして、戦いはウルクフラの圧勝に終わる。

「カハハ。そうだ、お前の子、いや孫か……少し辛そうだった。病が流行っている。気をつけたほうがいい」

 最後に打ち倒された兵士がそう言い「ス・スー!」とウルクフラが叫んで立体映像は終わった。

「やっぱり、あれは魔法の究極だったのか」

 立体映像が終わった直後、サムソンが大声をあげる。

「やっぱり? 何か思い当たることがあれば、教えて欲しいと思います」

 確かにカガミの言う通りだ。
 超巨大魔法陣の正体が分かったのなら知りたい。

「あの超巨大魔法陣は、大きくわけて3つの部分から成り立っているが、その一つが魔法の究極と似た作りだった」
「似たというと……データ通信ですか?」
「そう、カガミ氏の言う通りデータ通信だ。そして2つめの部分は、そのデータに何かの加工を施しているようだった」

 全体の流れを検証していたサムソンならではの感想だ。
 あの超巨大魔法陣は、オレ達全員が分担して解析していたが、全体像となると理解不能だった。
 思い当たるふしはいくつか思い浮かぶ。確かにデータ通信ぽい処理があったと思い出せるし、データ変換や、データの先頭に符号を付けるプログラムが繰り返しあったと気がつく。

「3つめは?」
「まだ途中だが、最後の3つめは、他の2つと違って思いつきで足されたように感じる」

 これも、言われると納得だ。
 後半は、もうぐちゃぐちゃだった。似たような変数が繰り返しでてきていたし、使われた形跡の無い支離滅裂な関数も見つけた。機械の中に使わない部品を詰め込むような所業。仕事であんなプログラムを書いたら、わりとガチで怒られそうな出来だった。

「まだまだ、先は長いっスね」

 本当に、そうだよな。資料を揃えてプログラムは読めるものになったけれど、膨大な量を理解するまでには至っていない。

「いや。ゴールは近いかもしれないぞ」

 ところが、プレインの言葉を笑顔のサムソンが否定した。

「近いって?」
「ウルクフラ氏の手帳だ。いま、カガミ氏とミズキ氏に頼んで……ブラウニーに転記をお願いしている。魔法と、魔導具、兵器、人体、その他……こんな感じでテーマごとに分けた本を作っているところだ。それが完成すれば、作業ははかどると思う。それに、超巨大魔法陣の設計図らしき記述を見つけた」

 設計図。
 ガイドラインがあれば、一気に読みやすくなる。場合によっては、手分けしての解析の効率も上がる。

「使えそうですか?」
「あぁ、少し記述方法が独特だが、使い慣れた記述に書き換える目処も立った」

 頼りになるサムソンに任せる事にする。
 最近は何事も上手く進んで良い感じだ。

「ところでさ、リーダは、この魔導具で何を見るつもりだったの?」
「いや、特に何も……」

 遊戯箱に何か裏があると気になっていて、その答えが見つかったので作っただけだ。
 なんというか、作るのは楽しかったけれど、使い道は思いつかない。

「じゃさ、ちょっと借りるね。ほら、いろいろ見たいしさ」

 そんなわけで、幽霊劇場は、楽しげに箱を持ち上げたミズキに任せることにした。
 なにか面白い物があったら教えてもらうことにしよう。
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