651 / 830
第三十一章 究極の先へ、賑やかに
閑話 不穏な日々(ギルド職員視点)
しおりを挟む
それは庭で掃除をしていた時のことでした。
綺麗になった場所で掃除をはじめた職員がいました。
オレンジ色のくせっ毛が丸い顔に乗っかったニッキウスです。
「そこは……あっ、ニッキウス、逃げてきたの?」
私と同じように、商業ギルドから派遣された彼に声をかけます。
彼は少しだけ肩をすくめて、ギルドの館に目をやりました。
ここ最近、ニッキウスに限らずよく見る光景になりました。
魔術士ギルドで働く貴族の八つ当たりから逃げる平民の職員達。
かくゆう私も、逃げるように距離を取ることが最近は増えました。
「触媒が痛んでたんだと」
私を見つけて近づいてきたニッキウスは、おどけたように舌を出しました。
「そんな事は無いわ。だって、朝早くに、皆で確認したんですもの」
触媒の整理整頓が出来ていないと怒鳴られ、今朝見直したばかりです。
私だけでは無く、皆で確認したのです。魔術士ギルドでの経験は浅くても、多くは他のギルドで修行した身です。見る目はあります。
だから自信をもって言えます。痛んでいた触媒は無いはずです。
「失敗したから、触媒のせいにしてるのさ」
ニッキウスがオレンジ色のくせ毛をガリガリと掻きながら言いました。
ちらりと館を見る表情に、不満がありありと出ていました。
「ヘイネル様はいつまで忙しいのでしょうね」
「うーん。バーラン様が帰るまでは……やっぱり忙しいままだろうね」
ギルドが立ち上がったばかりの頃は、ここまで酷くありませんでした。
多少の摩擦はありましたが、ギルド長のヘイネル様が睨みをきかせていたので平和でした。
貴族達が私達に絡むようになってきたのは、バーラン様がやってきてからです。
立ち上げたばかりの支部を確認するため、魔術士ギルド本部から視察にやってきたそうです。
本部からの使者であるバーラン様をもてなすので、ヘイネル様は手一杯。
そんな状況で、貴族の人達が増長をはじめました。
どうやら彼らはバーラン様の前で良いところを見せたいようです。
ということで、失敗は私達の責任、功績は自分達の才能……実力は大した事ないのに。
「早く帰ればいいのに」
「本当、バーラン様が来てからもうすぐ1ヶ月だよ。長過ぎだっての」
いつまでいるのかと思ってはいましたが、1ヶ月……。
ギルドが立ち上がって3ヶ月、バーラン様が来てから1ヶ月、月日はあっという間にすぎていきます。
「確かに長すぎるわ。ヘイネル様もお疲れのようだし心配ね」
「顔色がずいぶんと悪いよなぁ。そういや、うちにも副ギルド長がって何してるんだろ。見たことないけど」
「副ギルド長って、あれよ。山の上にいる……」
魔術士ギルド支部に籍を置く2人の副ギルド長。
それは2人とも聖女ノアサリーナの従者です。
つまり、山の上にある屋敷に住む5人の大魔法使いのうち2人。
彼らは皆、主である呪われた聖女ノアサリーナに絶対の忠誠を誓う魔法使いです。
突如として出現した彼らは、圧倒的な力で様々な事を成し遂げました。
ギリアの町においても、ゴーレムをもたらし、不正を働いた奴隷商を打ち倒し、町の犯罪者を一掃しました。
彼女達の活躍はギリアに留まりません。
西の海では大魔獣を倒し、南方では有名な闘技場を制し、帝国では大軍をつれ魔物の群れを討ち滅ぼしたと聞きます。
その活躍を、各地の詩人は詠い、芝居小屋では常に話題の演目。
あの勇者エルシドラス様も、彼らの話はお気に入りだと噂です。
そんな摩訶不思議な一風変わった英雄達。ノアサリーナ様と5人の大魔法使いを、世界で知らない人はいないでしょう。
そのような彼女達に、ヘイネル様も遠慮しています。
「これ以上、彼らに迷惑をかけるわけにもいかない」
私が応援を頼むことができないのかと尋ねた時、ヘイネル様は言われました。
「大丈夫。無理を言って、知人に応援を頼んでいる。バーラン様ももうすぐ帰還されるそうだ。一月……あと一月もすれば私も余裕ができよう」
さらに追い縋り尋ねる私に、ヘイネル様は青い顔のまま静かに答えました。
綺麗になった場所で掃除をはじめた職員がいました。
オレンジ色のくせっ毛が丸い顔に乗っかったニッキウスです。
「そこは……あっ、ニッキウス、逃げてきたの?」
私と同じように、商業ギルドから派遣された彼に声をかけます。
彼は少しだけ肩をすくめて、ギルドの館に目をやりました。
ここ最近、ニッキウスに限らずよく見る光景になりました。
魔術士ギルドで働く貴族の八つ当たりから逃げる平民の職員達。
かくゆう私も、逃げるように距離を取ることが最近は増えました。
「触媒が痛んでたんだと」
私を見つけて近づいてきたニッキウスは、おどけたように舌を出しました。
「そんな事は無いわ。だって、朝早くに、皆で確認したんですもの」
触媒の整理整頓が出来ていないと怒鳴られ、今朝見直したばかりです。
私だけでは無く、皆で確認したのです。魔術士ギルドでの経験は浅くても、多くは他のギルドで修行した身です。見る目はあります。
だから自信をもって言えます。痛んでいた触媒は無いはずです。
「失敗したから、触媒のせいにしてるのさ」
ニッキウスがオレンジ色のくせ毛をガリガリと掻きながら言いました。
ちらりと館を見る表情に、不満がありありと出ていました。
「ヘイネル様はいつまで忙しいのでしょうね」
「うーん。バーラン様が帰るまでは……やっぱり忙しいままだろうね」
ギルドが立ち上がったばかりの頃は、ここまで酷くありませんでした。
多少の摩擦はありましたが、ギルド長のヘイネル様が睨みをきかせていたので平和でした。
貴族達が私達に絡むようになってきたのは、バーラン様がやってきてからです。
立ち上げたばかりの支部を確認するため、魔術士ギルド本部から視察にやってきたそうです。
本部からの使者であるバーラン様をもてなすので、ヘイネル様は手一杯。
そんな状況で、貴族の人達が増長をはじめました。
どうやら彼らはバーラン様の前で良いところを見せたいようです。
ということで、失敗は私達の責任、功績は自分達の才能……実力は大した事ないのに。
「早く帰ればいいのに」
「本当、バーラン様が来てからもうすぐ1ヶ月だよ。長過ぎだっての」
いつまでいるのかと思ってはいましたが、1ヶ月……。
ギルドが立ち上がって3ヶ月、バーラン様が来てから1ヶ月、月日はあっという間にすぎていきます。
「確かに長すぎるわ。ヘイネル様もお疲れのようだし心配ね」
「顔色がずいぶんと悪いよなぁ。そういや、うちにも副ギルド長がって何してるんだろ。見たことないけど」
「副ギルド長って、あれよ。山の上にいる……」
魔術士ギルド支部に籍を置く2人の副ギルド長。
それは2人とも聖女ノアサリーナの従者です。
つまり、山の上にある屋敷に住む5人の大魔法使いのうち2人。
彼らは皆、主である呪われた聖女ノアサリーナに絶対の忠誠を誓う魔法使いです。
突如として出現した彼らは、圧倒的な力で様々な事を成し遂げました。
ギリアの町においても、ゴーレムをもたらし、不正を働いた奴隷商を打ち倒し、町の犯罪者を一掃しました。
彼女達の活躍はギリアに留まりません。
西の海では大魔獣を倒し、南方では有名な闘技場を制し、帝国では大軍をつれ魔物の群れを討ち滅ぼしたと聞きます。
その活躍を、各地の詩人は詠い、芝居小屋では常に話題の演目。
あの勇者エルシドラス様も、彼らの話はお気に入りだと噂です。
そんな摩訶不思議な一風変わった英雄達。ノアサリーナ様と5人の大魔法使いを、世界で知らない人はいないでしょう。
そのような彼女達に、ヘイネル様も遠慮しています。
「これ以上、彼らに迷惑をかけるわけにもいかない」
私が応援を頼むことができないのかと尋ねた時、ヘイネル様は言われました。
「大丈夫。無理を言って、知人に応援を頼んでいる。バーラン様ももうすぐ帰還されるそうだ。一月……あと一月もすれば私も余裕ができよう」
さらに追い縋り尋ねる私に、ヘイネル様は青い顔のまま静かに答えました。
0
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
異世界召喚されました……断る!
K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】
【第2巻 令和3年 8月25日】
【書籍化 令和3年 3月25日】
会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』
※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない
あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理!
ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※
ファンタジー小説大賞結果発表!!!
\9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/
(嬉しかったので自慢します)
書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン)
変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします!
(誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願
※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。
* * *
やってきました、異世界。
学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。
いえ、今でも懐かしく読んでます。
好きですよ?異世界転移&転生モノ。
だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね?
『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。
実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。
でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。
モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ?
帰る方法を探して四苦八苦?
はてさて帰る事ができるかな…
アラフォー女のドタバタ劇…?かな…?
***********************
基本、ノリと勢いで書いてます。
どこかで見たような展開かも知れません。
暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる