召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十一章 究極の先へ、賑やかに

閑話 不穏な日々(ギルド職員視点)

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 それは庭で掃除をしていた時のことでした。
 綺麗になった場所で掃除をはじめた職員がいました。
 オレンジ色のくせっ毛が丸い顔に乗っかったニッキウスです。

「そこは……あっ、ニッキウス、逃げてきたの?」

 私と同じように、商業ギルドから派遣された彼に声をかけます。
 彼は少しだけ肩をすくめて、ギルドの館に目をやりました。
 ここ最近、ニッキウスに限らずよく見る光景になりました。
 魔術士ギルドで働く貴族の八つ当たりから逃げる平民の職員達。
 かくゆう私も、逃げるように距離を取ることが最近は増えました。

「触媒が痛んでたんだと」

 私を見つけて近づいてきたニッキウスは、おどけたように舌を出しました。

「そんな事は無いわ。だって、朝早くに、皆で確認したんですもの」

 触媒の整理整頓が出来ていないと怒鳴られ、今朝見直したばかりです。
 私だけでは無く、皆で確認したのです。魔術士ギルドでの経験は浅くても、多くは他のギルドで修行した身です。見る目はあります。
 だから自信をもって言えます。痛んでいた触媒は無いはずです。

「失敗したから、触媒のせいにしてるのさ」

 ニッキウスがオレンジ色のくせ毛をガリガリと掻きながら言いました。
 ちらりと館を見る表情に、不満がありありと出ていました。

「ヘイネル様はいつまで忙しいのでしょうね」
「うーん。バーラン様が帰るまでは……やっぱり忙しいままだろうね」

 ギルドが立ち上がったばかりの頃は、ここまで酷くありませんでした。
 多少の摩擦はありましたが、ギルド長のヘイネル様が睨みをきかせていたので平和でした。
 貴族達が私達に絡むようになってきたのは、バーラン様がやってきてからです。
 立ち上げたばかりの支部を確認するため、魔術士ギルド本部から視察にやってきたそうです。
 本部からの使者であるバーラン様をもてなすので、ヘイネル様は手一杯。
 そんな状況で、貴族の人達が増長をはじめました。
 どうやら彼らはバーラン様の前で良いところを見せたいようです。
 ということで、失敗は私達の責任、功績は自分達の才能……実力は大した事ないのに。

「早く帰ればいいのに」
「本当、バーラン様が来てからもうすぐ1ヶ月だよ。長過ぎだっての」

 いつまでいるのかと思ってはいましたが、1ヶ月……。
 ギルドが立ち上がって3ヶ月、バーラン様が来てから1ヶ月、月日はあっという間にすぎていきます。

「確かに長すぎるわ。ヘイネル様もお疲れのようだし心配ね」
「顔色がずいぶんと悪いよなぁ。そういや、うちにも副ギルド長がって何してるんだろ。見たことないけど」
「副ギルド長って、あれよ。山の上にいる……」

 魔術士ギルド支部に籍を置く2人の副ギルド長。
 それは2人とも聖女ノアサリーナの従者です。
 つまり、山の上にある屋敷に住む5人の大魔法使いのうち2人。
 彼らは皆、主である呪われた聖女ノアサリーナに絶対の忠誠を誓う魔法使いです。
 突如として出現した彼らは、圧倒的な力で様々な事を成し遂げました。
 ギリアの町においても、ゴーレムをもたらし、不正を働いた奴隷商を打ち倒し、町の犯罪者を一掃しました。
 彼女達の活躍はギリアに留まりません。
 西の海では大魔獣を倒し、南方では有名な闘技場を制し、帝国では大軍をつれ魔物の群れを討ち滅ぼしたと聞きます。
 その活躍を、各地の詩人は詠い、芝居小屋では常に話題の演目。
 あの勇者エルシドラス様も、彼らの話はお気に入りだと噂です。
 そんな摩訶不思議な一風変わった英雄達。ノアサリーナ様と5人の大魔法使いを、世界で知らない人はいないでしょう。
 そのような彼女達に、ヘイネル様も遠慮しています。

「これ以上、彼らに迷惑をかけるわけにもいかない」

 私が応援を頼むことができないのかと尋ねた時、ヘイネル様は言われました。

「大丈夫。無理を言って、知人に応援を頼んでいる。バーラン様ももうすぐ帰還されるそうだ。一月……あと一月もすれば私も余裕ができよう」

 さらに追い縋り尋ねる私に、ヘイネル様は青い顔のまま静かに答えました。
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