召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十章 過去は今に絡まって

おひめさまのべっそう

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 屋敷から出ると、めざとくオレを見つけたロンロが飛んでくる。

「やっと出てきた。リーダ、すごいのよぉ」
「ロンロ、言っちゃダメ!」

 両手をブンブンと振り回し、ロンロに対しノアが口止めする。
 ノアは凄いものとやらを後少しだけ内緒にしておきたいようだ。
 外に何かあるのか。
 そのまま屋敷から外へとしばらく歩くと、それはあった。

「あっ、リーダ。これ、凄いと思います。思いません?」

 カガミに頷き巨大な建物を見上げる。
 それは建築途中の建物だった。
 オレ達の屋敷より豪華だ。それに、ギリアではあまり見ない作りをしている。黄土色の壁……帝国っぽいな。
 そこではまだ朝方だというのに、沢山の職人が働いている。
 ところが音がしない。魔法で騒音対策をしているようだ。こういう魔法の使い方もあるのだな。魔法が存在する世界というのは、これだから面白い。
 静かだからこそ、帰ってきたばかりの時には気がつかなかったのだろう。
 無音で作業がすすむ風景を、皆で見上げていると、向こうのオレ達に気がついたようで1人の男が近づいてきた。

「これは、これは。戻られたのですね。こちらから挨拶すべきところ、申し訳ありません」

 そして男はノアに跪き言葉を続ける。

「わたくし、フェズルード帝国臣民ハシャルと申します。こちら、帝国皇女ファラハ様の別荘にかかる全権を任されている者です」
「ファラハ様……ですか?」
「はい。こちらが完成し次第、お越しになる予定です。また、改めてご挨拶をさせて頂くことになるでしょう」

 柔やかに軽い挨拶を交わした後、彼は去って行った。
 できるだけ早く作りあげたいようだ。仕事に戻るなり、すぐに指示を飛ばす様子が見て取れた。

「凄かったね」

 確かに、テンション高めのノアに同意だ。
 見ている間にも、壁にスルスルと模様が浮き上がり、庭の木が整えられる様子は圧巻だった。

「あれで別荘とはね」
「ファラハ様って人はどうしてここに別荘を建てるんでしょう? さすがに何の理由もなしに……もしかして温泉?」

 バッと振り向いたカガミが、一点を見つめた。
 何を見ているのかと思ったら、ロープウェイが増設されていた。
 キンダッタに続いて、3つめか。確かに、ロープウェイを考えると立地的に良い場所にあるよな。
 それにしても、どいつもこいつも我が物顔でロープウェイを使う。

「温泉かもね」

 いちいち、こんな所に別荘を建ててまで温泉に入らなくてもいいのに。そう思いカガミに同意する。温泉も、ロープウェイも、混むような状況は避けたいのだ。

「あのね、お姫様ってキラキラしてるんだよ」

 ところがノアは嬉しそうだ。
 お姫様という言葉に憧れでもあるのかな。
 どんな人かは分からないが、そのお姫様といかいう人がノアと仲良くしてくれる人だったらいいな。
 それにしても、出かけて戻ってくる度に家が建っている。
 とは言っても、その後は平和なものだった。
 荷物整理などをしているとあっという間に夕方になった。
 それまで、ピッキー達は働いていて、プレインは新しい魔導具を試していた。
 サムソンは、部屋にこもって研究。
 ちなみにプレインの魔導具は、銀色に輝く機械仕掛けの隼の模型。
 銀色に輝く手っ甲と対になっているそうで、念じたら自由に飛ばせる物だ。
 彼は模型が作る影に潜り込み、高速移動を考えているらしい。
 凄い物をつくったものだ。
 飛んでいる様はラジコン飛行機を彷彿とさせ面白そうだ。
 広間に残ったヒンヒトルテはというと、丸一日ぶっつづけで資料を読みふけっていたようだ。
 それから夕食はカガミがメインで作る事になった。
 手持ち無沙汰になったので、広間で再び資料に目を通す。
 ノアはオレの隣で算数の勉強。ロンロと何やら話ながらウンウンと唸り考え込んでいる。
 本当に何にでも一生懸命だ。

「どうしても、分からない事があったら教えてね」
「うん」
「すまない。一つ頼みがあるのだが……」

 悩むノアに声をかけた丁度その時、ヒンヒトルテが声をあげた。

「何でしょうか?」
「この……遺跡を調査している人達へ、紹介状をしたためてもらえないだろうか?」

 資料を指さしヒンヒトルテが言う。

「それはかまいません。やはり歴史が気になりますか?」

 あの資料には、魔法の事はほとんど書いていなかった。
 あるのは歴史の事ばかりだった。
 読んでいて印象的な事は、世界中に蔓延する奇病はモルススが引き起こしたこと。
 それを問いただすため、代表ウルクフラとモルススの王が会談をしたこと。
 会談は物別れに終わり、戦争が始まったこと。
 そのくらいだ。

「確かに、歴史も気になる……だが、私はこれを調べたい」

 オレの問いにヒンヒトルテが頷き答え、一つの資料をテーブルに置いた。
 中央に人型のイラストが描いてある。ゴーレムかな……。

「エンノルメ計画?」

 題名には、そう書いてあった。3期計画とある。

「あぁ。どうやら私が眠りについた後で立案された計画のようだ。人造神デイアブロイが盗まれた後、それに対応するために立案された計画」
「盗まれた?」
「詳細は、こちらの資料にある。共和国内のクタが迫害を恐れ、デイアブロイの研究を盗み、モルススに投降したそうだ。結果、共和国はデイアブロイに対抗する必要に迫られた。それが、エンノルメ計画。天にも届く巨体を持ったゴーレムを作る計画だ」

 天にも届くって……相当な大きさだよな。
 超巨大ゴーレムか。
 話を聞くだけでもワクワクしてくる。

「おっきなゴーレム」

 顔をあげ、ヒンヒトルテの言葉に反応したノアが呟く。
 そして、驚くノアとオレに、小さく頷きヒンヒトルテが言葉を続ける。

「私はエンノルメ計画を……何があったのか調べたい。彼らは少し、見当違いの場所を調べているように思う。当時の、ティンクスペインホルを私は知っている。協力したいのだ」

 紹介状くらいお安いものだ。
 すぐに紹介状を書くことにした。
 とりあえず、ヒンヒトルテは旅の学者で、彼の研究とテンホイル遺跡に関連がある事という設定にした。
 旅の学者としたのは、彼がヨラン王国で使われる文字を読めないからだ。
 言葉については、ヌネフが他のシルフを紹介してくれることになった。
 ノアの署名付きの紹介状に、言葉もバッチリ。これで大丈夫だろう。
 ダメ押しに、お金も渡す。無いよりあったほうが絶対にいい。

「世話になりっぱなしだ。すまない」

 ヒンヒトルテは深く頭をさげて、紹介状とお金を受け取った。
 彼にはできる限りの協力をしたい。
 オレは、彼の境遇が他人事には思えない。
 気がついたら、途方もない月日が過ぎて居て、自分の事を知る者が居ない状況。
 それが、なんとなくオレ達に被って見える。
 同僚達、そしてノアが居ない状況で、この世界に来たらと思うと、彼の境遇が他人事には思えないのだ。
 そうこうしているうちに、晩ご飯も準備ができていた。

「今日は、グラタンです」
「ほえー。カガミは沢山の料理を作れるだなァ」

 一仕事を終えて、ピッキー達と汗を流してきたゲオルニクスも合流する。
 それから、サムソンにプレイン。それからミズキも加わり晩ご飯だ。

「あのね。カガミお姉ちゃんは、白いお料理が得意なの。それで、リーダは茶色い料理。プレインお兄ちゃんはマヨネーズが得意で、ミズキお姉ちゃんは、おつまみを沢山つくるんだよ」

 食べたことが無い料理がいっぱいあると、大喜びのゲオルニクスに、ノアが楽しげに説明する。
 オレの作る料理は茶色か。カレーに、煮物、キノコ料理……確かに茶色が多いかも。

「そうだ! 温泉に入りましょう」

 食事中にあったカガミの提案により、食後は温泉に行く。

「さっき、身体を洗っただ。もういいだよ」

 そういうゲオルニクスも一緒にだ。
 途中、ロープウェイの設備が立派なものになっている事に気がついた。
 ロープは金属製になっていて、それを支える柱は装飾が施されたものになっていた。

「どいつもこいつも、好き勝手にしやがって」
「まぁまぁ、立派になったからいいじゃん」

 それをやったのは帝国の人らしい。
 出迎えてくれたバルカンの親戚が教えてくれた。
 温泉は変わりが無かった。
 久しぶりに入る温泉は気持ちがよかった。
 景色も凄くいい。
 しばらく温泉を楽しみ、それから屋敷にもどってまったりと過ごす。
 ノアは、とてもはしゃいでいた。
 そうして何事もなく、平穏無事に一日が終わる。
 一足先に広間で眠ってしまったノアをベッドに運び「お休み」と扉を閉める。
 やっぱり屋敷は落ち着くな。
 広々として静かな屋敷の廊下を歩きつつ、そう思った。
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