召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十八章 素敵な美談の裏側で

せいまのほのお

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 ミランダとやりとりをした後、自己封印魔法を試すことにした。
 魔法自体は、ギリアの屋敷にあった本に載っていた。
 とてもシンプルな魔法陣だ。
 どうやら自己封印魔法というのは、いわゆる冬眠のような状態らしい。
 魔法をかけると一定時間寝ることになる。
 そして生命活動が停止する。その場で対応不能な大怪我をした場合や、病や毒に侵された場合に使うそうだ。
 このような時に魔法を使い自身を封印する。その後、安全な場所で自己封印を解除することで、毒や怪我の治療を安全に行うことができる。
 解除の条件は術を使う前に、日数などの条件を設定する。もしくは他人に解除を依頼する。
 そのような内容が書いてあった。
 応用として、自己封印を中途半端な形で実行し、病気の進行を遅らせつつ行動する方法も書いてあった。
 どうやらミランダは、この方法を使っているようだ。
 自身を封印しつつ行動していたということだ。
 自己封印中の行動は、この魔法がもたらす苦痛に抵抗し続けることで実行可能らしい。
 厩舎の側で、自己封印というものを試すことにした。
 物陰で、封印魔法の描かれたページを広げ、準備を進める。
 飛行島の広間では、ノアがクローヴィスと遊んでいる。
 なんとなく、ノアの側では試したくなかった。
 だから、物陰で試す。

「これがうまくいけばさ、解決だよね」

 茶釜に座ったミズキがオレを見て笑う。
 本には危険性はないと書いてあった。
 だが、念には念を入れることにして、ミズキについていてもらうことにしたのだ。
 加えて、茶釜とロバもオレの様子を見守っていた。
 触媒は特に何もない。魔法陣を描いて詠唱するだけ。
 特にこの魔法陣には大きさなども定められていない。だから、ギリアから持ってきた本そのものを使うことも可能だ。

「ちょっと……ノアには無理だな」

 自己封印はあっけなく使えた。
 簡単な魔法だ。
 いや、魔法は、簡単だった。自己封印中の行動もできた。
 だが話は簡単ではなかった。
 自己封印をしながら行動するというのがすごく辛いのだ。
 まるでギブスをつけているように体がうまく動かせない、加えて気持ちの悪い眠気を感じる。
 しかも自己封印を解除した後とんでもなく疲労した。
 体感5分も経っていない。

「顔、真っ青だけど……エリクサー飲んどく?」

 ミズキからエリクサーを受け取りゴクッと飲み干す。

「で、実際のところ……これで気配を絶てるのかな」

 エリクサーを飲んだおかげで身体が楽になった。
 肩をくるくると回してみて問題ないことを確認する。もっとも、疲労感は残っている。エリクサーでも疲労感は拭い去れないようだ。

「どうなんだろうね。ところでさ、ノアノアの気配が怖いと思ったことある?」
「いや、ないな」

 以前から不思議に思っていたことがある。度々聞くことになる呪いが放つ嫌悪感。
 それをオレ達は感じない。
 ピッキー達に聞いたことがあるが、人間以外は嫌悪感を抱くことはないらしい。
 ただし、呪い子が放つ強力な魔力は、すぐに分かると言う。
 カロメーを食べているせいかと思ったが、どうやらそういうわけでもないらしい。
 サムソンやプレインが言うには、聖女の行進中には参加者が、呪い子に嫌悪感を抱いていた様子を見かけたそうだ。
 もっとも聖女の行進に参加してきた人間は、嫌悪感を抱いた自分を恥じていたとも聞いた。
 そもそも、そのような状況だったので、参加者がノアを邪険に扱うことはなかった。
 ノアに対する言葉も「聖女様、聖女様」といった調子で悪いものではなかった。
 ところが、ノア自身は、嫌悪感を抱かれている認識があったようだった。
 だから、それほど海亀の背にある小屋から出ることはなかった。

「とりあえずよさげなアイデアがあったら、使ってみて、バルカンあたりに聞いてみちゃう?」

 バルカンか……。
 呪い子が放つ気配について、面と向かってオレ達に言った事がある人間は少ない。
 彼であれば、信用できるし、的確な印象を言ってくれる気がする。
 ミズキの考えは悪くない。

「それが良さそうだ。とはいえ、自己封印は棚上げかな」

 そういうわけで、ミズキの意見に同意する。
 だけど自己封印を試してみた感触は悪い。
 その日の深夜、同僚達にミランダが来たこと、それから自己封印の魔法について伝えておく。

「念のために俺の方でも調べてみるぞ」

 サムソンは、何かあてがあるようだ。

「了解。何か分かったら教えてくれ」
「自己封印、封印魔法ですか……」

 カガミも何か思い当たる節があるのか、何やら考え込む様子で頷く。

「一応、プレインにも教えとかなきゃね。戻ってくるの2日後だっけ?」

 プレインは、この場にはいない。
 王都にいるのだ。マヨネーズ販売についてバルカンと打ち合わせの為にお出かけ中だ。
 何でも最近は売れ行きがいいこともあって、プレインは楽しそうだ。
 飛行島にいないことも増えてきた。
「確か、そのくらい。終わったらトーク鳥が飛んでくるだろ。それにしても、まったくあいつは、マヨネーズと金に目がくらみやがって」
「あはは、受ける」
「魔法の研究をしながら好きなことをやるっていうのは、最初からの方針だからな。俺としてもプレイン氏が戻ってこないと困るわけなんだが」

 最終的に、大学を卒業して時間ができたサムソンが、封印魔法を調べることになった。
 いいアイデアが出てくれば嬉しい。

「そういえば、リーダが写本お願いしていた巻物……あれどうだったか教えて欲しいと思います」

 もちろんオレも封印魔法の研究をする。
 だが、他にもやることがある。その一つが写本の内容確認だ。
 まずは、スプリキト魔法大学で手に入れた巻物の写し。
 それに目を通した。カガミの言葉に頷き、さっそく説明する。

「今日、読んでみたけど。物騒な話が書いてある割には実用性は乏しいかな」
「結局、あれって何の魔法だったんだ? 簡単な魔法陣に見えたが」
「書いてある通りだったら神殺しの魔法陣。昔、神々が人間と一緒になって他の神々と戦っていた話だった」

 そう。あの巻物には、神様を倒すために、こういうものを使いましたと言う内容が物語調で書いてあった。
 読み物として面白かったのだが、特に実用性はなさそうだった。
 書いてある物語には、神々と一緒に人が戦っていた時には、神を倒すために三つの手段があったらしい。
 一つが剣、一つが弓、最後が魔法。
 そのどれもが誰でも使えるようなものではなくて、選ばれし者だけが使えるそうだ。
 描いてあった魔法陣は曲者で、円の中に記号が5つだけというシンプルさ。触媒は不要。詠唱の言葉はとても短い。
 これだけなら、詠唱だけであれば、簡単に使えそうではあるが、1つ大きな問題があった。
 ただ詠唱すればいいわけではない。一人の人間が、魔力の色を、何度も詠唱中に変更する必要があるという。
 ちなみに、その魔法陣は有名なもので、ロンロも知っていた。
 子供は、誰しも一度は練習するらしい。
 話を聞いていると、子供の頃に、特撮やマンガにある必殺技を真似するのと同じノリだと思った。

「それにしても、魔力の色って久しぶりに聞いた気がします」

 オレの説明を一通り聞いてカガミが感想をもらす。
 確かにそうだな。
 強大な魔力を持つノアはともかく、大部分の人にとっては大して関係ない話だった気がする。
 そういや、ノアは水色だっけかな。ハイエルフの里で調べたことがあったはずだ。

「魔力の色って変えられるのか?」
「一応、あるけどぉ。魔力の色を変える……調律はぁ、気休め程度だしぃ。出来る人なんて一握りだわぁ」

 サムソンの問いに、ロンロが答える。
 魔力の色を変える方法は、調律って呼ぶのか。
 どうやるんだろ。念の為、知っておきたい。
 そして神殺しの魔法、聖魔の炎という名前だが、これは5回決められた順番で魔力の色を変える必要があるそうだ。

「ん? ノアノアも何か知っているの?」
「あのね、聖魔の炎はね、舞うように……魔法陣をね、足で……描いて……魔力の調律をするの」

 なんだ、ノアも知っているのか。
 他の子供達と同じように、ノアも昔、練習したことがあるのかな。

「えっとね、魔力は音で、音は色なの……それで、青は……青は……」

 もっとも、うろ覚えだったようだ。
 やり方を説明してもらおうと思ったら、口ごもってしまった。

「分かったら教えてね」
「うん……」

 方法があることはわかったのだ、のんびり調べてみよう。
 優先順位は後でいいだろう。魔力の色を意識する魔法はいままで無かったわけだしな。
 というわけで、黒本をはじめとする古い時代の資料集め、お金稼ぎは順調に進んだ。
 しかも、オレの安眠とゴロゴロライフを進めつつだ。
 素晴らしい日々。
 ところがというか、やはりというか、平和な日々は長くは続かない。

「封印……された?」

 同僚が封印されたという早朝の報告で、平穏な日々は突如終わりを告げた。
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