召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十七章 伝説の、真相

そつぎょうおめでとう

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 後に跳ぶノア、それを追いかけるように踏み込む黒い鎧姿。
 2人はオレのすぐ横をすり抜ける。一瞬の出来事に体が反応しない。

「姫様!」

 ハロルドが叫び、黒い鎧姿とノアの間に割り込もうと飛び出した。
 同じように、灰色の鎧に身を包んだサムソンもノアの前へと飛び込もうとした。
 さらにミズキも。
 だが、ハロルドはヴェールで顔を隠した女性に、サムソンはオレ達と一緒に部屋に入ったゴリラと数匹の猿に阻まれる。

『ガァン』

 ミズキの振るった剣は黒い鎧姿を捉えるが、その攻撃は通じない。
 突進する奴を止めることができなかった。

「ギャーッハッハ!」

 頭上から狂ったような笑い声が響く。
 そんな中、黒い鎧姿の拳がノアの顔面めがけて振り下ろされた。
 ノアは無表情で剣を横に構え、攻撃を受け止める姿勢で覚悟していた。

「カボゥ」

 ところが、ノアの背後から意外な存在が飛び出した。
 カーバンクルだ。
 黒い鎧姿の拳がノアの構えた赤い剣に当たると思われた瞬間、薄く緑に光る壁が出現する。

『ガゴォォォン』

 半透明で、半球状の壁は黒い鎧姿の拳を受け止めた。
 いや……半球状の壁と、拳の間に、真っ白い本がある。
 本越しにノアを殴りつけようとしたのか?

「ノアノア!」

 攻撃が止まった隙に、ミズキが再び黒い鎧姿へと剣を振るう。
 今度は、菱形の刃を高速回転させ、チェーンソーのように破壊力を増した状態だ。
 しかし、その攻撃は黒い鎧姿に届かない。
 フードを被った黒いローブの女性が、背後からミズキに襲いかかったのだ。
 彼女の背後から複数の腕が伸び、ミズキを襲う。
 ミズキはかろうじて攻撃を避けたが、ノアから離れてしまった。

「チィ。こやつ、手強い」

 ハロルドが苦戦している。ハロルドはなんとかノアに近づこうとがんばっていた。だが、両手に剣をもった女性の軽やかな動きに上手くいなされ近づけない。
 サムソンも力負けして、ゆるゆるとノアから離れるように追いやられていた。

『カァン』

 金属の響く音がした。
 プレインは大きく飛び上がり弓で黒い鎧姿を射ったようだ。だが、その攻撃は通じず矢ははじかれてしまった。そのうえ、同じように飛び上がった仮面を被った男に蹴り落とされてしまう。
 カガミは?
 彼女は網に絡み取られていた。鳥かごに座った人物が、杖をカガミに向けている様子から、奴がやったようだ。
 この状況で、イオタイトを始め動かず、様子を見ている数人の人影。多勢に無勢だ。

「スライフ」

 援軍として黄昏の者であるスライフを呼ぶ。
 これでもまだオレ達の方が少ない。しかも、どいつも相当強い。

「確かに! 詠唱せず……素晴らしい」

 感嘆の声が聞こえ、それと合わせて数人が距離をとった。
 隙ができた。
 すぐに、影から剣を取り出し、鳥かごに座った人物に投げつける。
 狙った通りだ。剣は奴の杖に当たり、カガミに絡みついていた網が消える。
 今のうちだ。あとは、逃げる道だ。
 こんな奴らといつまでも戦っていられない。
 ノアが攻撃され、カガミの拘束が解けるまで、それはほんの短い時間の出来事だった。
 しかし、その短い時の間も、状況は刻々と変わっていく。
 予想外に、予想外の出来事が続く。

「ギャッ、ギャッ」

 黒い鎧姿と、ノアの眼前に突如出現した半球状の壁、それに挟まれるように位置していた白い本から、飛び出した何かが奇声を上げた。
 それは、黒い人の形をした霧に見えた。
 さらに、その人型をした霧の頭を、黒い鎧姿が掴みとり地面に叩きつける。

『バシュゥゥゥ』

 すると人型をした霧は、空気の抜けるような音を立てて消えてしまった。

「戯れだ。ギャッハッハ。カーバンクルを試しただけだ」

 何事かと思ったと同時、椅子に座る男の笑い声が響く。
 戯れ? カーバンクルを試す?
 どういうことかは分からない。だが、本気でノアを襲うつもりでは無いことはわかった。
 証拠に、攻撃は止み、黒い鎧姿をはじめ全員が何事もなかったかのように距離を取った。

「これが、遊びか!」

 ハロルドが怒声をあげる。

「ギャッハッハ。ちょっとした戯れだ。だが、収穫はあった。カーバンクルは十分に機能し、お前達の実力も興味深い」

 響き渡るハロルドの怒声をあざ笑うように、椅子に座る男が答えた。
 それにしても、何を言っているんだ?
 戯れってことは、遊びで殴りかかったっていうのか。
 だが、ここは引き下がるしかない。あのまま戦っていたら全滅していた。

「あの壁は、カーバンクルが?」

 仕方ないと、心を落ち着け情報収集に気持ちを切り替える。
 正直なところ、二度と会いたくない。
 でも、今のうちは……この際だ。得られる物は得ておきたい。
 カーバンクルの機能とやらを知っておきたい。

「あぁ。カーバンクルの額に宿る力は、魔法を喰らい、主人を傷つける全てを拒絶する。預言書に潜む侍従も拒絶した。予想通りだ」
「預言書?」
「ノアサリーナの足下に落ちている白い本だ。世界中の脳足りん共が、あくせく必死に従う命令書だ。それもくれてやる。もっとも役には立ちそうもないがな」

 何で出来ているのか分からない。本当に汚れ1つない真っ白い本だ。持ち上げると異常に軽い。

「あの……本から飛び出した魔物は?」

 オレが本を拾い上げたと同時、カガミが質問する。
 そういえば、何か飛び出していたな。また同じような事があったら嫌だ。不安は払拭しておきたい。

「侍従……だ。呪い子に、自らを侍従と呼ぶ存在が付き従うように、預言書にも侍従が潜んでいる」

 呪い子に付き従う侍従……ミランダが、ロンロの事を侍従だと言っていたな。

「同じ……同じ侍従?」
「ギャッハッハ。俺は同じ奴らだと思っている。統一王朝……いや、病の王国モルススが仕組んだ計略の一巻であると考えている」

 モルスス……魔法の究極に近づいた国か。世界中に、毒をばらまいたという。
 そして、イ・アやパルパランが所属する国。

「モルススと戦っているのか?」
「はっ。見つかるのは、呪い子と、預言書の侍従ばかり、相手にすらされておらぬわ」

 吐き捨てるように言い放つ椅子に座った男の言葉に、いらだちが見て取れた。
 薄々分かってはいたけれど、オレ達はレアな敵に襲われているんだな。
 共闘を持ち出すか……。相手にされていないという言葉に含まれた感じから、話に乗ってきそうな気がする。
 どうしたものか……。

「リーダ?」

 白い本を手に考えていると、ノアがオレに声をかけてきた。
 そうだな。
 共闘の話は止めておこう。カーバンクルを試すためにノアへと殴りかかるような奴らだ。事情が変わったとか言われて裏切られてはたまらない。

「何でも無いよ。ノアは大丈夫?」
「うん。カーバンクルが助けてくれたよ」
「カボゥ」

 小声で確認したところ、ノアもカーバンクルも、両方とも平気そうだ。カーバンクルはノアの肩に前足でぶら下がっている。

「帰ろうか?」

 同僚達に、小声で聞くと皆が頷いた。

「そろそろ、帰るか?」

 小声での会話に気がついたのか、椅子に座る男がそう言った。
 この人、オレ達に背を向けているのに、どうやってこちらの様子を見ているのだろう。特に周りに反射するものはない。鏡ごしに見ているというわけでもなさそうだ。
 それに、やっぱり、この人の声は聞いたことあるよな。
 どこで聞いたんだっけかな……。

「えぇ。黒本の提供、ありがとうございました」
「ギャッハッハ。俺も面白かった。では、イオタイト、送ってやれ」
「了解しました」

 イオタイトがスッとオレ達に近づいてきた。それから、手で出口を指し示す。

「そうだ……イオタイト。割り符を渡しておけ」

 椅子に座る男の声を受けて、イオタイトが胸元から、小さな木片を取り出す。
 スプリキト魔法大学で、黒本エニエルに挟んであったものと同じものだ。

「これは?」
「それを折れば、我々に連絡がくる」
「ギャッハッハ。また語らおうではないか」

 イオタイトの説明に被せるように、上機嫌な椅子に座る男の声が聞こえた。
 何が語らおうだ。いきなり殴りかかるような物騒な奴らとは、かかわりたくない。

「えぇ。そのうち」

 とはいえ、けんか腰になる必要もない。
 当たり障りのない言葉でお茶を濁すことにした。
 そして、部屋から出る。

「そうだった。言い忘れていた」

 部屋から出た直後、椅子に座る男の声が聞こえた。

「卒業おめでとう。ギャーッハッハッハッハ」

 思わず振り返ったオレに、狂ったような笑い声と言葉が聞こえた。
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