召還社畜と魔法の豪邸

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第二十七章 伝説の、真相

閑話 油断ならぬ存在 後編(大教授アットウト視点)

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 次々起こる不思議な出来事に、忘れていました。
 そういえば、念話の魔法を仕込んでいたのでした。
 大丈夫……ですよね。
 思考が、念話として流れていないですよね。
 自分で自分に問いかけます。
 コウオル先生へ、考えが漏れていたらコトです。後が怖い。

『お二人とも、黒騎士……だそうです。我らを呼んでおります』

 続くビントルトン先生の言葉で、現実に引き戻されました。
 すぐに、幻術から抜け出し黒騎士が待つ場所へと向かことにしました。

「こんな時に、何故ゆえ」
「いや、その……地下の件で、地下遺跡の側で待っているそうじゃな」
「早すぎではありませんこと? 本当に、黒騎士は、地下の出来事の為にきたのですか?」

 コウオル先生の言葉に同意です。
 早すぎます。
 そもそも、まだ王都へは報告をあげていないのです。

「アットウト、ビントルトン、コウオルだな」

 リーダ君が見つかった場所……そこにいた黒騎士の一人が声をあげました。
 ですが、それよりも驚く状況が私の心を捉えました。

「アットウト先生、あの……如何なされたので?」
「無い。ここにあった物が……何も。その……あのっ……昨日はあったのに……何もかもが」

 今日の朝まで、魔導具や、大量の本が散乱していた地下室。
 私とビントルトン先生が施した幻術も簡易な封印も解除されています。
 黒騎士が……我らに気付かれる事なくソレを成した?
 ともかく、何も無いただの地下室がそこにはありました。

「全て、我らが回収した」

 そして私の言葉に、黒騎士が端的に答えました。

「か、回収ですと?」
「その通りだ。改めて問おう、アットウト、ビントルトン、コウオルだな」
「左様です。言いたいことがあれば、早くしてくださいますか?」
「ちょっと……コウオル先生、いや、その口のき……」
「黒騎士の言葉は王の言葉、黒騎士の剣は王の剣と心得よ。続き、王の言葉を伝える」

 ビントルトン先生が、コウオル先生の言葉使いを窘めようとする途中で、黒騎士が巻物を広げ声を上げます。
 慌てて跪く我らに対し、黒騎士の言葉が続きます。

「スプリキト魔法大学、大教授アットウト、ビントルトン、コウオル。3名に命ず。落盤事故について、地下にある部屋の発見は無かった事とし、遺跡について秘匿するように」
「ひ……秘匿ですか?」
「王の言葉に、そうある。加え、本日の件に関係する者について、口外すること無きよう図るように。加え、これ以上の調査を許さず。最後に、この場にいる全ての者に命ず。今後、王の命令なく今回の言葉を他言しないように……王の言葉は以上」
「……王の臣下として言葉に従う事を誓います」
「では、失礼する」

 3人を代表し、ビントルトン先生が言葉を返し、黒騎士が頷き去っていきました。

「仔細は不明ですが、王は……すでに把握されていたようですな」

 ついつい、感想がもれます。
 先日までの胸のつかえがとれてホッとしました。
 王家が封印した地下遺跡が荒らされた件を、どう報告しようかと悩んでいたのです。
 本来であれば王に報告すべき件ですが、それでいいのかどうかと。
 今後の事を考えるとカルサード大公の方がいいのではないかと、協議していたのです。

「さて、改めてリーダ君について協議いたしましょうか」

 そんな我らに、ビントルトン先生が笑顔で言いました。

「それにしても、あれは……上位種ですか?」

 反省室に向かう道すがら、ビントルトン先生がコウオル先生へ問いかけます。
 確かに、あの黄昏の者は気になります。

「そうでございますね。上位個体かと。種の中でも特に貴重な存在でしょう」
「先生は見たことがおありで?」
「いえ。文献で見かけるくらいでしょうか。呼ぶだけで、生贄に数百人も要します。罪人を使うにしても用意できないでしょう」

 黄昏の者は、召喚するだけでも生贄が必要です。
 中位種以上では、人の臓腑が必要だとは聞いたことがあります。
 それにしても、召喚するだけで生贄に数百人ですか……。

「上位種は、ドブドア巨竜を屠るために呼び出したのと事があるんじゃったか?」
「あとは帝国で呼び出しをした例があります」
「でも。あのっ……リーダ君は、無詠唱で……」
「しかも下僕のように、使っておりましたな」
「黄昏の者は、力で押さえつけるしか制御方法が無いはず……なのですよね?」
「んまつ、そうですけど。彼がそれを成したと?」
「ふむぅ。ですが、あの黄昏の者は、フレッシュゴーレムを倒したのはリーダ君だと申しておりましたじゃろ?」
「そう……あの発言からはあり得ぬことではないかと」

 それからも、王剣の事……彼の態度。
 リーダ君の事を話ながら反省室へと戻ります。

「さて、どうしたものじゃろか」

 反省室の前まで来てビントルトン先生が言いました。
 確かに、リーダ君の対応を考えなくてはいけません。

「退学です。退学」

 コウオル先生が間髪いれず言い放ちました。

「いや、それが……コウオル先生もご存じじゃろ? リーダ君は、あのスターリオ様の推薦じゃ。しかも、王の命令をうけスターリオ様が動いたとか。こんなに早く退学なんてさせてしまえば……」

 退学という言葉に、ビントルトン先生が異を唱えます。
 私も同意です。
 スターリオ様はもちろん、リーダ君を敵に回すことは避けたい。
 どうにも予想できない事態が起こりそうで怖いのです。

「まったく厄介な。それにしても、スターリオ様もロクな人を送り込まないこと」
「んー。そうですが……。王命……じゃし」
「もう、卒業させてしまいましょう」

 私とビントルトン先生の反対を受けて、コウオル先生が言います。
 退学から卒業……極端な提案です。
 よほど、リーダ君が学校に居ることが気にくわないのでしょうか。
 短気な彼女らしい、思い切った提案です。

「卒業……ですか?」
「それでいいではございませんか。この一月にも足らない間に、リーダ君がやった事は大学に張られた結界の解除、王家より釘を刺されている遺跡の探索でございますよ。もう、これは、最初からこれが目当てに決まっているではございませんか」
「確かに、偶然ではありえぬことじゃ」

 コウオル先生の言葉に、ビントルトン先生は深く頷きました。
 確かに、最初から目当てと言われれば、思い当たるふしはあります。
 それにしても、過去の王族と星読み、さらには宮廷魔術士団が張り巡らせた結界を解くとは……。

「確かに、状況は……そう……です。発言と、矛盾しますが……かかわっていることは間違いないですね、きっと。彼に関しては妙な事ばかりでした……ですが、言われれば納得する所が多々あります」
「ふむ。アットウト先生の見解を聞かせてもらえんじゃろうか?」
「えぇ……ビントルトン先生。彼、リーダ君は……他の二人とは違い3級として入学しました」

 胸元から資料を取り出し、ビントルトン先生へと渡します。

「ふむぅ。これは……教養?」

 資料を眺めたビントルトン先生はすぐに気付いてくれたようです。

「おかしいでしょう? 教養……あの科目で足きりなんて。本を読めば問題ないではありませんか? 他の分野にあれほど精通している者が、ですよ?」
「んまぁ、では意図的と?」
「そうです。実技のある他の科目は手を抜けば試験管にバレます。ですが、教養はただの文字を書くだけのテストです。白紙でなければ、その場でバレることありますまい」
「それでは、手を抜いて3級になって、監視の緩い中、遺跡を調べたと。私達を馬鹿にして許しがたい事ですわ」
「確かにコウオル先生のおっしゃる事はそうなのですが、まんまとしてやられたのは事実」
「やはり……卒業……が……妥当ですね」
「そうしましょう。退学と言って、リーダ君と争うのは避けたいですじゃ。それに先ほどリーダ君自身が、卒業が目標だと言うとったんじゃ。納得するじゃろ。スターリオ様も顔を潰すわけにもいかぬ。それに、世に知られた魔法使い、知識が不足しているということもありますまい」

 意見はまとまったばかりに、大きく頷きビントルトン先生はゴホンと咳払いし言葉を続けます。

「では、卒業ということで……よろしいかな。代わりに、他言無用の話も飲ませばいいじゃろ」

 かくして、リーダ君の処分はまとまり、彼の待つ空間へと足を踏み入れました。
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