551 / 830
第二十六章 王都の演者
ピッキーだけのほうび
しおりを挟む
王様が去った後、サルバホーフ公爵がゆっくりと首を振った。
それを合図に、オレを押さえつけていた黒騎士は音も無く離れる。
「謁見は以上である。王はお前達との時間に満足された。下がれ」
続けて、サルバホーフ公爵は予定通りのセリフを言った。
謁見は終わったのだ。
迎えにきたトロラベリアに案内され、謁見の間から立ち去る。
「後ほど、ギリア領主ラングゲレイグ様が迎えにくるそうです。それまで、この部屋でお待ちください」
トロラベリアはそう言って、控えの間までオレ達を案内すると去って行った。
来たときと同じ部屋で、再び時間を潰す。
エレクは帰ったようで、そこは無人の部屋だった。
赤い絨毯と木製のテーブル……それから、赤いソファー。パチパチと音を立てる暖炉。どれもが来たときと同じなのに、もの悲しい。
「ピッキー……」
カガミがピッキーに声をかけるが、小さく頷くだけだった。
「ごべぇんなさい」
トッキーが涙声で謝罪する。
「しょうがないよ。だいたい、何よアレ。偉ければ何言ってもいいわけ?」
「そうだな。アレは酷かったぞ」
「予想外の環境で、私も怖かったです。トッキー君は悪くないと思います」
トッキーに皆が同情的だった。
大人数に見つめられる中で、王様と相対したのだ。
緊張で声が出なくても、責められることじゃない。
『ガチャリ』
そんな時のことだ。扉が開いてラングゲレイグとお付きの人が入ってきた。お付きの人は車輪付きのテーブルを押している。
テーブルには、装飾された短剣をはじめとした小物が乗っていた。
「静かだな」
沈んだ雰囲気のオレ達を見て、ラングゲレイグが言った。
「あの……ラングゲレイグ様、おいら……いや、私はどうなるのでしょうか?」
「なんだ、ピッキー?」
「罰が……」
「あれは、王の戯れから来た言葉だ。ピッキー、お前が気にする必要は無い」
「でも、私は……失敗……」
「いいか。ピッキー、そしてトッキーよ」
「はい」
「大国ヨラン王の前にあって、平民や奴隷が満足に話す事など普通はできぬのだ」
ラングゲレイグの言う通りだよな。大会社の社長を前にして、平社員が話すのと同じようなものだ。緊張するのはしょうがない。
「できない……」
「そうだ。トッキー。逆に、王の前で、あのようなへりくつを即興で口にできるリーダの格が……いや、異常なのだ。私にも……真似はできぬ。お前達は、リーダという人間を見ているから分からぬだろうが、十分な働きをしたことを理解せよ」
「はい」
「いや、違うか……特に、ピッキー、お前は誇るべきだ」
ニカリと笑ったラングゲレイグが、テーブルの上にあった短剣を手にとった。
それを、ヒラヒラと見せびらかすようにして言葉を続ける。
「あの場において、お前の弟を思う態度、言葉は、見事だった。その結果がコレだ」
よく見ると、見覚えのある短剣だ
「もしかしてサルバホーフ公爵閣下の?」
その短剣をみて、カガミが声をあげる。
「うむ。サルバホーフ公爵閣下から、ピッキーへ渡される褒美だ。そして……この首飾りは、第4騎士団長ディングフレ様から。これは第5騎士団スピネー。後、第2騎士団のメロフィン様より、ピッキー達兄妹の服を褒美として仕立てる……そうだ」
「すごいや。兄ちゃん」
自分の兄であるピッキーが褒められる姿を見て、トッキーは元気を取り戻したようだ。彼は、尊敬の眼差しでピッキーを見ていた。
雰囲気が一気に明るくなる。
「だから胸を張れ、自分は王と言葉を交わしたことがあると。それからノアサリーナも見事だった。あとは……まぁ、経緯はどうであれ、其方達は王の言葉によって助けられたわけだ。王が悪い酒にあわれて、少々予想外な出来事があったとしてもだ」
喜ぶピッキーを始め、オレ達全員を見渡しラングゲレイグが言った。
「王の言葉……ですか?」
「まるで戦場に死地を悟る騎士のごとき目……という言葉だ。あれで、我らは其方達の立ち位置を思い直し、ピッキーをはじめとする全員の評価に繋がった。そして……」
『コンコン』
ラングゲレイグが何かを言いかけたとき扉をノックする音が響く。
「おじゃまするよ」
それから、扉が開き、見知った老婆が部屋へと入ってきた。
プリネイシア……いや、スターリオだっけかな。
続いて、トロラベリアも入ってくる。
「これは、星読みスターリオ様」
バッと、ラングゲレイグが跪く。
「久しいね、ラングゲレイグ。少し、席を外してくれないかね」
「もちろんです」
柔やかに頷くと、ラングゲレイグは出て行った。
結局、最後……何を言おうとしていたのだろう。後で聞いてみるかな。
「お久しぶりでございます。プリ……いえ、スターリオ様」
部屋に入ってきたスターリオにノアが挨拶する。
「あぁ、久しいね。ノアサリーナ。元気にしていたかい」
「はい」
「それじゃぁ、少しだけお話ししようかね」
スターリオは、優しい声で言うと、静かに腰掛けた。
それを合図に、オレを押さえつけていた黒騎士は音も無く離れる。
「謁見は以上である。王はお前達との時間に満足された。下がれ」
続けて、サルバホーフ公爵は予定通りのセリフを言った。
謁見は終わったのだ。
迎えにきたトロラベリアに案内され、謁見の間から立ち去る。
「後ほど、ギリア領主ラングゲレイグ様が迎えにくるそうです。それまで、この部屋でお待ちください」
トロラベリアはそう言って、控えの間までオレ達を案内すると去って行った。
来たときと同じ部屋で、再び時間を潰す。
エレクは帰ったようで、そこは無人の部屋だった。
赤い絨毯と木製のテーブル……それから、赤いソファー。パチパチと音を立てる暖炉。どれもが来たときと同じなのに、もの悲しい。
「ピッキー……」
カガミがピッキーに声をかけるが、小さく頷くだけだった。
「ごべぇんなさい」
トッキーが涙声で謝罪する。
「しょうがないよ。だいたい、何よアレ。偉ければ何言ってもいいわけ?」
「そうだな。アレは酷かったぞ」
「予想外の環境で、私も怖かったです。トッキー君は悪くないと思います」
トッキーに皆が同情的だった。
大人数に見つめられる中で、王様と相対したのだ。
緊張で声が出なくても、責められることじゃない。
『ガチャリ』
そんな時のことだ。扉が開いてラングゲレイグとお付きの人が入ってきた。お付きの人は車輪付きのテーブルを押している。
テーブルには、装飾された短剣をはじめとした小物が乗っていた。
「静かだな」
沈んだ雰囲気のオレ達を見て、ラングゲレイグが言った。
「あの……ラングゲレイグ様、おいら……いや、私はどうなるのでしょうか?」
「なんだ、ピッキー?」
「罰が……」
「あれは、王の戯れから来た言葉だ。ピッキー、お前が気にする必要は無い」
「でも、私は……失敗……」
「いいか。ピッキー、そしてトッキーよ」
「はい」
「大国ヨラン王の前にあって、平民や奴隷が満足に話す事など普通はできぬのだ」
ラングゲレイグの言う通りだよな。大会社の社長を前にして、平社員が話すのと同じようなものだ。緊張するのはしょうがない。
「できない……」
「そうだ。トッキー。逆に、王の前で、あのようなへりくつを即興で口にできるリーダの格が……いや、異常なのだ。私にも……真似はできぬ。お前達は、リーダという人間を見ているから分からぬだろうが、十分な働きをしたことを理解せよ」
「はい」
「いや、違うか……特に、ピッキー、お前は誇るべきだ」
ニカリと笑ったラングゲレイグが、テーブルの上にあった短剣を手にとった。
それを、ヒラヒラと見せびらかすようにして言葉を続ける。
「あの場において、お前の弟を思う態度、言葉は、見事だった。その結果がコレだ」
よく見ると、見覚えのある短剣だ
「もしかしてサルバホーフ公爵閣下の?」
その短剣をみて、カガミが声をあげる。
「うむ。サルバホーフ公爵閣下から、ピッキーへ渡される褒美だ。そして……この首飾りは、第4騎士団長ディングフレ様から。これは第5騎士団スピネー。後、第2騎士団のメロフィン様より、ピッキー達兄妹の服を褒美として仕立てる……そうだ」
「すごいや。兄ちゃん」
自分の兄であるピッキーが褒められる姿を見て、トッキーは元気を取り戻したようだ。彼は、尊敬の眼差しでピッキーを見ていた。
雰囲気が一気に明るくなる。
「だから胸を張れ、自分は王と言葉を交わしたことがあると。それからノアサリーナも見事だった。あとは……まぁ、経緯はどうであれ、其方達は王の言葉によって助けられたわけだ。王が悪い酒にあわれて、少々予想外な出来事があったとしてもだ」
喜ぶピッキーを始め、オレ達全員を見渡しラングゲレイグが言った。
「王の言葉……ですか?」
「まるで戦場に死地を悟る騎士のごとき目……という言葉だ。あれで、我らは其方達の立ち位置を思い直し、ピッキーをはじめとする全員の評価に繋がった。そして……」
『コンコン』
ラングゲレイグが何かを言いかけたとき扉をノックする音が響く。
「おじゃまするよ」
それから、扉が開き、見知った老婆が部屋へと入ってきた。
プリネイシア……いや、スターリオだっけかな。
続いて、トロラベリアも入ってくる。
「これは、星読みスターリオ様」
バッと、ラングゲレイグが跪く。
「久しいね、ラングゲレイグ。少し、席を外してくれないかね」
「もちろんです」
柔やかに頷くと、ラングゲレイグは出て行った。
結局、最後……何を言おうとしていたのだろう。後で聞いてみるかな。
「お久しぶりでございます。プリ……いえ、スターリオ様」
部屋に入ってきたスターリオにノアが挨拶する。
「あぁ、久しいね。ノアサリーナ。元気にしていたかい」
「はい」
「それじゃぁ、少しだけお話ししようかね」
スターリオは、優しい声で言うと、静かに腰掛けた。
0
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる