召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十五章 待ちわびる人達

けっとうのゆくえ

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 そして始まったセルベテとオレの魔導具を使った戦い。

「こ……こんなことが」

 結果は、オレの圧勝だった。騎士の姿をしたセルベテの人形を、空手着を着たオレの人形が、一方的にボコる展開だった。

「なんだ、アレは……」
「我々の知っている闘技箱で、あんな事が出来るのか」

 周りのギャラリーも驚きのコメントをしていた。
 格闘ゲームは、ずいぶんと久しぶりだったが、なんとなく憶えているものだな。
 ボードゲームもいいが、TVゲームのような遊びも楽しい。

「面白そうだな」
「イメージしたキャラになって、対戦できるし、レスポンスもいいから楽しいよ」

 遅れてきたサムソンに、ぽんと粘土板を渡す。
 粘土板をゲームパッドに変えたサムソンは、ボタンをパシパシと音をたて押したり、木枠を触ったりしていた。
 そんなサムソンが操る人形は女性キャラだ。最初は軍服だったが、次は忍者になった。

「これ、パッドから完全に手を離さないと、キャラを変えられないんだな」
「そこまで考えてなかったよ」
「キャラバランスとかはどうなんだ?」
「さぁ」
「次の相手はお前がするというのか?」

 ショック状態だったセルベテだったが、何とか立ち直ったようだ。
 オレと席を替わったサムソンに問いかける。

「あぁ」

 そして、流れるようにサムソンとセルベテの戦いが始まる。

『ラウンドワン! ファイト!』

 いきなり箱から音声が流れた。

「な……なに?」

 突然の音声に、オレだけではなく回りが驚いているのがわかる。
 魔導具を持ってきた人達もだ。

「なんで、音が出てるんだ?」
「箱の……柱、俺から見て左手前だな。あそこを触って決められた言葉を呟くと、いろいろできるんだ」
「どうして、そんなこと知ってるんだ?」
「ほら、ささやかな庭園って名前の魔導具にそっくりだったろ。ダメ元で試してみただけだ。屋敷にあった本の知識しかないが、なんとかなるもんだな」

 へぇ。ささやかな庭園か……サムソンは、常識だろって感じで語ったが、そんな魔導具は知らない。
 それにしても、サムソンは何でも無いように言ったが、びっくりだ。
 戦いはサムソンの圧勝。

「これ、起き攻め強すぎだろ。ちょっとバランスが悪いぞ」

 終わった後、開口一番サムソンが愚痴る。
 知らないよ、そんなこと。

『バシン』

 サムソンが愚痴っている横で、セルベテが手に持った粘土板を地面に叩きつけた音が響いた。

「私は認めないぞ! これは、ひ……」
「静かに」

 オレ達に向かって何か言いかけたセルベテだったが、それはカロンロダニアの声によって遮られた。

「あの、これは……」
「お前は負けたのだセルベテ。世界は広いということがわかったであろう。国を出て、得がたい経験ができたのだ。私が闘技箱を選んだ理由も含め、部屋で少し考えるのがよかろう」

 何かを言いかけたセルベテに、カロンロダニアが粘土板を拾い上げつつ静かに声をかける。
 セルベテはしばらく無言でジッとしていたが、やがて「はい」と力なく返事し去って行った。

「ん? 何かあったのか?」

 一方、サムソンは周りの様子が異常なことに、不思議そうだ。

「あぁ、一応、このゲームは決闘の代わりだからな」
「決闘?」
「いや、サムソンは何でここに?」
「宿の人が、何かあったようですが、大丈夫ですか……と、聞いてきたからだぞ」

 サムソンは、よく分からずここに来てゲームをやっていたのか。
 別に大事になっていないから、どうでもいいけれど。

「リーダ、大丈夫でしたか?」

 ノアがカロンロダニアと一緒に近づいてきた。

「問題ありません。お嬢様。これは、なかなか興味深い魔導具でした」
「そうですか。それならば良かったです」
「見事であった。この闘技箱を知っていたのかね?」

 笑顔のノアに困りましたねといった調子で微笑みかけていると、先ほど拾った粘土板を手に、カロンロダニアが質問してきた。

「いえ。初めて見た魔導具でしたが……故郷に似たような物があったのです」
「そうか。これは我が国にしか無いと思っていたが……世は広いものだな。さて、勝者として望む事はあるかね?」
「望む事……ですか?」
「先ほど、ノアサリーナ様に聞いてみたところ、リーダの希望する事を……と、言われたのでな」

 カロンロダニアが、ノアをチラリと見て言った。
 望む事か。正直な事を言えば、我々に絡まないでください……と言いたいところだ。
 この人が悪いわけではないが、あのお婆さんに、セルベテと、ロクな事がない。
 いつもなら、しょうがないで済ませるところだが、今は違う。
 何と言っても、同行しているギリア領主のラングゲレイグがピリピリしているのだ。

「皆さんに、お嬢様を、一人の人間として……友好的に接して欲しいと思います」

 ということで、可能な限りオブラートに包んで、要望してみた。
 仲良くしようよ、と。

「確かに、それが一番だな。後ほど、皆には言い含めておこう」

 オレの言葉に、カロンロダニアはしばらく無言でこちらを凝視していたが、最終的には笑顔で了承してくれた。
 受け入れてくれて何よりだ。
 それから先は、友好ムードになった。

「ふむ。見たことも無いゴーレムの動きだった。これは、若者の柔軟な思考にやられてしまったな」

 カロンロダニアが、率先して動いてくれた。
 ノアに勝負を持ちかけ、あっさり負けた後、楽しそうに笑ったことで場の雰囲気が良くなった。
 彼の同行者も、数人の女性がノアに話しかけ、楽しそうにノアは応じていた。
 なごやかな雰囲気はしばらく続き、お昼前にカロンロダニア達は館へと戻っていった。
 これにて一件落着。
 ホッとしたのも束の間。

『ゴン』

 頭に衝撃があった。
 油断大敵。
 闘技箱を片付ける人を手伝い、全てが終わった事を見届けていたとき、オレは背後から殴られた。
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