召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十四章 怒れる奴隷、東の大帝国を揺るがす

おくじょうへ、そらへ

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 まずい。
 慌ててノアが後を追い、オレも続くように部屋から出た。
 外に出たクローヴィスは大声で喚きだしていた。

「お母さん! お母さん! リーダが! リーダが!」

 泣きながら剣を振り回し駆けて行く。

「ちょっと待って、クローヴィス」

 ノアも慌てた様子で追いかけ、オレも後に続く。

「リーダが! リーダが! お母さん! お母さん!」

 クローヴィスは、ひたすらに泣きながら剣をぶんぶんと振り回し、走り続けていた。

「クローヴィス、そこを右」

 走って追いかけながら、ノアが指示を出し、それにクローヴィスはなんとか従いながら、先に進む。
 いや、相当不味い。クローヴィスを先頭にしてはおけない。
 今日は、なんでもかんでも、やることが裏目に出る。

「待て、貴様ら……いや、何だ?」

 そんなクローヴィスの前に、2人の兵士が立ち塞がる。
 慌てた様子で槍を突きつけるが、クローヴィスは無視して突っ込んでいく。
 不味い、不味すぎる。
 そう思ったが、クローヴィスは難なく2人の兵士を剣でねじ伏せ駆け抜けていった。

「クローヴィスすごい」

 ノアも驚いた声を上げ、その後に続く。オレも更に続く。
 泣きながらデタラメに剣を振っているのに、あいつ、あんなに強かったのか。
 それから先も向かってくる兵士達を、クローヴィスが次々と剣でなぎ倒していく。
 赤いマントをひるがえし、金色に輝く剣を振り回し進む。
 あれで泣いていなければ格好いいのに。
 とはいえ、泣きながらもヒラリと身をかわし、剣でカンカンと小気味よい音を立てなぎ倒す様は頼もしい。
 本当に、お母さん、お母さんと、泣きわめいていなければ、最高だったんだがな。

「アハ……アハハハハ」

 最初は心配そうな声を上げていたノアだったが、また笑いだした。
 たまに「クローヴィスうるさい」と言いながら、笑っていた。
 楽しそうに笑っていた。
 泣きわめきながら先頭を進むクローヴィス、大笑いするノア、そして女装し血まみれのオレという状況で、進んでいく。
 上へ、上へと。

「子供が追われている」
「遠巻きに」
「網を持ってこい」

 思うつぼとはわかりながら、兵士達の声が飛び交う中、追っ手が少ない方へとオレ達は進んでいく。
 たまに立ち塞がる兵士をなぎ倒しながら。
 そして、さらに1人、白い鎧姿の女性が立ち塞がった。
 あれは何度も見た……ジャルミラだ。
 彼女にここで蜂合ったのは偶然だったようだ。
 さすがにあれには勝てないだろう。

「クローヴィス!」

 少しだけ落ち着いてきたクローヴィスに、声をかけるも、彼は「リーダが、リーダが」と、喚きながらジャルミラに突っ込んでいく。

『カン、カカン』

 小気味よい剣戟の音が続く。

「お、落ち着きなさい。迷子?」

 ジャルミラがあげる心配するような声も聞かず、クローヴィスは鋭い剣裁きで追い込んだ。
 そして軍配はクローヴィスにあがる。
 よろめいたジャルミラの顔面を、フワリと飛び上がったクローヴィスは踏みつけ、先に進む。
 クローヴィスに頭を踏まれ、地面に頭を大きくぶつけたジャミラは、気を失っていた。
 なんだか、気の毒だなと思いながら「ごめんなさい」と断って、その脇を進む。
 それからしばらくして屋上に出た。

「行き止まり?」

 行き場がなくなり、グルグルと辺りを見回すクローヴィス。
 ようやく泣き止んでくれた。

「そうなの。ここから、空を飛んで、皆の所にいくの」

 ノアの言葉に、クローヴィスはコクリと頷いて、即座に銀竜の姿になった。
 慣れた様子で飛び乗ったノアを確認すると、フワリと浮き上がった銀竜クローヴィスは、クルリとUターンして、後ろ脚でオレを掴んでいくと大きく羽ばたき上昇した。

「あの光。飛行島が見える、あっちに」

 そして、ノアの声が聞こえた。
 進行方向の先に、光に照らされた飛行島が見えた。
 ウィルオーウィスプの強力な光に照らされた飛行島に、帝都上空を守る飛竜達は目を奪われていた。

「うん。この隙に突っ込むよ」

 銀竜クローヴィスがグングンとスピードを上げる。
 だが、さすが帝都の守りというべきか、すぐに対応してオレ達に向かってきた。

「クローヴィス!」
「大丈夫、ノア。さらに、上だ!」

 すごい勢いで急上昇する。
 飛竜を避けつつ、複雑な軌道で空を進んでいるのだが、怖い。

「聖獣が!」
「大丈夫!」

 すごい重力を感じ、聖獣レイライブの側をすり抜ける。
 チラチラと舞う火の粉がオレ達を照らし、火の熱さにチリチリと音がした。

「何かがくっついてる」

 そんな聖獣である火の鳥レイライブをしのいだ直後、クローヴィスが悲鳴のような声をあげた。

「なにか?」
「尻尾に! 尻尾の所に」

 思い切り身体を捻らせて尻尾の方を見ると、そこには、一人の女性がつかまっていた。

「フフフフ」

 ぶんぶんと振られる尻尾の先に掴まっている、青いドレスの女性。
 ミランダ!
 なんでこんなところに。
 それは世界最強の呪い子と呼ばれる、氷の女王ミランダだった。

「よっと」

 ブンブンと振り回される尻尾など関係ないとばかりに、フワリと彼女は尻尾の上に立つ。
 そしてノアの方へと近づいていく。

「なんでミランダがいるの?」

 クローヴィスの陰に隠れ、2人の姿は見えないが、ノアの責めるような声が聞こえる。

「帝国に遊びに来てみたってわけ。そうしたらさ、ドレス着たリーダが血まみれじゃない? もうビックリしちゃってねぇ」
「ミランダは、あっち行って」
「つれないわねぇ」
「どっか行ってよ」

 クローヴィスとノアが、早くどこかに行けと、ミランダに訴える。
 だが、ミランダはそれをケラケラと笑いながら聞き流していた。

「楽しくお話しましょ?」
「もぅ。いいの! ミランダはどっかいっちゃえ」
「そうだ。そうだ」
「はいはい。じゃあ私、リーダの隣に行くね」
「行っちゃダメ」
「どうしようかな。リーダは大丈夫そうね……血だらけだったからビックリしたのよ。本当に。ねぇ」

 この状況にもかかわらず、ミランダは楽しそうだ。
 クローヴィスは、そんなミランダに気を取られているせいか、右に左にと、大きく蛇行しながら飛んでいた。
 そんな状況だから、帝国の飛竜も、取り巻くようにしながら距離を詰めていた。

「ミランダ。今大変なんだ、からかうのは後にしてくれないか」
「うーん、どうしようかな」

 必死のお願いにも関わらずミランダは、暢気なものだ。

「話なら、後で聞くから」
「ウフフ。そうね。今日の私は気分がいい。あの光るところに行きたいんでしょ、手を貸してあげる」

 ミランダはそう言ってふわりと、クローヴィスの背から飛び降りた。
 落ちるに身を任せるミランダと視線が合った。
 彼女はニコリと笑うと手を振り、空中に静止するように浮いた。

『ビュオゥ』

 冷たい風が吹き荒れ、一瞬だけ視界が白に染まる。
 直後、目に入ったのは、凍った飛竜達だ。

「今日の私は気分がいい。リーダは人を殺さないことを希望しているようだから、お前達も助けてあげる」

 そう言ってパンと手を鳴らす。
 すると何匹かの飛竜が氷漬けになって落ちていった。
 任せても大丈夫そうだ。
 さすがミランダ。圧倒的だな。

「クローヴィス、早く飛行島に」
「わかってる」

 ミランダの手助けもあり、あっさりと飛行島へとたどり着く。
 向こうもオレ達を迎えに来ていたようだ。

『パパーン』

 微妙なファンファーレと、眩しいくらいに輝く飛行島に、出迎えられる。
 飛行島の上で、乱暴にオレが降ろされた後、ノアがクローヴィスから飛び降りた。
 皆、無事だ。
 ゴロリと仰向けになって空を見る。
 昼間のように明るい飛行島から、空の星は見えなかったが、達成感があった。
 終わった。

「ざまぁみやがれ、ナセルディオ!」

 やり遂げた嬉しさから、オレは思わず大きく叫んでいた。
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