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第二十四章 怒れる奴隷、東の大帝国を揺るがす
だいじょうぶですよ
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馬車の内装はとても立派だった、赤くフカフカの椅子に、お菓子とお茶が用意されたテーブル。
天井には、小さく薔薇の花を逆さにしたようなシャンデリアがある。
静かに輝くそれは、控えめなオルゴールに似た音を鳴らしていた。
とても豪華で、内装も立派な馬車に乗り、帝都を進んでいく。
「早いですね」
次々入れ替わる外の景色をチラリと見てノアが言った。
確かに、揺れず静かな車内からは想像できないほど、馬車のスピードは速い。
「えぇ。もう舞踏会が始まっておりますので、中央区までは少々急がせていただきます」
「申し訳ございません。急なお招きでしたので……」
「いえいえ。来ていただいただけで、我々一同はとても嬉しく感じております。帝都は外周区、中央区と別れています。中央区に入った後は、速度を落としますので、景色を楽しむこともできようかと存じます」
「それは楽しみです」
事務的ながらも、笑顔を絶やさず、ノアに接する態度から、この人はそんなに悪い人ではないようだ。
だが、やはり緊張からかノアの顔つきはこわばっている。
「うわぁ、兵士がいっぱい」
「見てみて、エルフ馬がいたわ」
静かなノアを元気づけようと、ロンロが、外の様子を面白おかしく話すぐらいで、静かなまま、馬車は進む。
「大きな真っ白い門が見えるわ」
「門ですか」
そんなロンロの言葉に、オレがついつい反応してしまう。
確かに窓ごしに、巨大な門が見えた。
真っ白く、遠目でも彫刻が施されている事がわかる巨大な門だ。壁などはなく、門だけが建っている。真っ白く巨大な門だけが。
「お気づきになられましたか。あれは外周区と、中央区を分け隔てる三方門と呼ばれる門のの一つでございます」
「三方門ですか?」
オレの言葉に、笑みを絶やさないままハマンドフは応じ、それを引き継ぐようにノアが答える。
「はい、帝都中央区は、許可された臣民のみしか入れませんので、精査するためにも厳重な守りを司る門でございます」
中央区に入ると馬車はスピードを落とした。
おかげで流れるように進んでいた街並みも幾分余裕を持って見ることができた。
中央区は外とは大きく違っていた。
外周区のうす黄色の家々とは違い、白壁の家ばかりだった。
そして、道には電灯のような等間隔に光る柱が立てられていた。
そのため、日が沈んだにもかかわらず、それなりに明るく、店には椅子に座り酒を飲んでいる人達の姿もよく見えた。
「とても栄えていますね」
「はい、繁栄する帝国の中でも、特に帝都は栄えています。どうでしたか? ノアサリーナ様は、帝国に入り、色々な人を助けながら、こちらまで向かってきていたと記憶しておりますが」
「そうですね。皆さんには、とても……よくしていただきました」
その言葉にノアは力なく微笑み返答する。
やはり元気がない、緊張しているようだ。
「確か、大まかに表現すれば、鐘の町アサントホーエイから聖地タイアトラープに、それから菓子の都コルヌートセルを経由して、帝都へと来られたのですよね?」
「はい。帝都に入った時の、あの鐘の音は、とても記憶に残っております」
ノアの答えにハマンドフは満足したのか、微笑みを深め、ニコリと頷く。
「では、帝都も気に入っていただければと思います」
そう言ってコンコンと彼が背にしている壁を叩く。すると馬車は更に歩みを遅くした。
馬車は、それからも滞りなく進む。
揺れない馬車から、外の景色を見なければ、本当に進んでいるのか、不安になっていた事だろう。
それからも、ハマンドフはたまに、ノアへ言葉をかけ、ノアはそれに短く答える。
そんなやり取りが続く。
話をしている中で、ふとノアが外の景色を見て息を飲んだ。
「うむ。ノアサリーナ様は、モッティナが気になりますか?」
「あの動物は、モッティナというのですね」
ノアが気にしていたのは茶色い羽の生えた、ハリネズミに似た動物だった。
身なりの良さから貴族の子供だと思われる少年達が、その動物と楽しく遊んでいる姿をノアは凝視していた。
そして、ちょうどその会話をしているとき、一匹のモッティナが、馬車に併走するように飛んだ。
「帝都で、最近人気のペットなのですよ」
「ペットですか」
「えぇ……そうだ。もし、よろしければノアサリーナ様にも、1匹……あっ、いやいや、それは難しくございますか」
何かを言いかけて、ハマンドフは首を小さく振り苦笑した。
「何か?」
ノアが反射的といった感じで声をかける。
「あのような小さい動物です。ノアサリーナ様が持つ呪いにより、たちまちのうち食い殺されてしまいますでしょう?」
そう言ったハマンドフからは微笑みは消えていた。
今まで見せたことのないような真剣な顔で、ノアに応える。
呪い……呪い子の力は、家畜を殺してしまう。
あの小動物など、ひとたまりもないということか。
ノアは俯いた。
まるで自分を責めるように、ぎゅっと眼をつぶって。
だが、問題はない。
「大丈夫ですよ、お嬢様。対策は既に出来ております。モッティナ……でしたっけ? あの動物がお嬢様の側にいても、死ぬことはございません」
カロメーを食べさせれば問題はない。
オレは大丈夫だと、ノアにニコリと笑い声をかける。
そのオレの言葉に、ノアは小さくありがとうと言って頷いた。
「対策で……ございますか。さすがでございます」
ハマンドフも、オレの言葉に笑顔で頷く。
目立ったやり取りは、それで終わり。
ついに、馬車が止まる。
そう。オレ達は、目的地である舞踏会場が設けられた、中央区の一際大きな建物にたどり着いたのだ。
天井には、小さく薔薇の花を逆さにしたようなシャンデリアがある。
静かに輝くそれは、控えめなオルゴールに似た音を鳴らしていた。
とても豪華で、内装も立派な馬車に乗り、帝都を進んでいく。
「早いですね」
次々入れ替わる外の景色をチラリと見てノアが言った。
確かに、揺れず静かな車内からは想像できないほど、馬車のスピードは速い。
「えぇ。もう舞踏会が始まっておりますので、中央区までは少々急がせていただきます」
「申し訳ございません。急なお招きでしたので……」
「いえいえ。来ていただいただけで、我々一同はとても嬉しく感じております。帝都は外周区、中央区と別れています。中央区に入った後は、速度を落としますので、景色を楽しむこともできようかと存じます」
「それは楽しみです」
事務的ながらも、笑顔を絶やさず、ノアに接する態度から、この人はそんなに悪い人ではないようだ。
だが、やはり緊張からかノアの顔つきはこわばっている。
「うわぁ、兵士がいっぱい」
「見てみて、エルフ馬がいたわ」
静かなノアを元気づけようと、ロンロが、外の様子を面白おかしく話すぐらいで、静かなまま、馬車は進む。
「大きな真っ白い門が見えるわ」
「門ですか」
そんなロンロの言葉に、オレがついつい反応してしまう。
確かに窓ごしに、巨大な門が見えた。
真っ白く、遠目でも彫刻が施されている事がわかる巨大な門だ。壁などはなく、門だけが建っている。真っ白く巨大な門だけが。
「お気づきになられましたか。あれは外周区と、中央区を分け隔てる三方門と呼ばれる門のの一つでございます」
「三方門ですか?」
オレの言葉に、笑みを絶やさないままハマンドフは応じ、それを引き継ぐようにノアが答える。
「はい、帝都中央区は、許可された臣民のみしか入れませんので、精査するためにも厳重な守りを司る門でございます」
中央区に入ると馬車はスピードを落とした。
おかげで流れるように進んでいた街並みも幾分余裕を持って見ることができた。
中央区は外とは大きく違っていた。
外周区のうす黄色の家々とは違い、白壁の家ばかりだった。
そして、道には電灯のような等間隔に光る柱が立てられていた。
そのため、日が沈んだにもかかわらず、それなりに明るく、店には椅子に座り酒を飲んでいる人達の姿もよく見えた。
「とても栄えていますね」
「はい、繁栄する帝国の中でも、特に帝都は栄えています。どうでしたか? ノアサリーナ様は、帝国に入り、色々な人を助けながら、こちらまで向かってきていたと記憶しておりますが」
「そうですね。皆さんには、とても……よくしていただきました」
その言葉にノアは力なく微笑み返答する。
やはり元気がない、緊張しているようだ。
「確か、大まかに表現すれば、鐘の町アサントホーエイから聖地タイアトラープに、それから菓子の都コルヌートセルを経由して、帝都へと来られたのですよね?」
「はい。帝都に入った時の、あの鐘の音は、とても記憶に残っております」
ノアの答えにハマンドフは満足したのか、微笑みを深め、ニコリと頷く。
「では、帝都も気に入っていただければと思います」
そう言ってコンコンと彼が背にしている壁を叩く。すると馬車は更に歩みを遅くした。
馬車は、それからも滞りなく進む。
揺れない馬車から、外の景色を見なければ、本当に進んでいるのか、不安になっていた事だろう。
それからも、ハマンドフはたまに、ノアへ言葉をかけ、ノアはそれに短く答える。
そんなやり取りが続く。
話をしている中で、ふとノアが外の景色を見て息を飲んだ。
「うむ。ノアサリーナ様は、モッティナが気になりますか?」
「あの動物は、モッティナというのですね」
ノアが気にしていたのは茶色い羽の生えた、ハリネズミに似た動物だった。
身なりの良さから貴族の子供だと思われる少年達が、その動物と楽しく遊んでいる姿をノアは凝視していた。
そして、ちょうどその会話をしているとき、一匹のモッティナが、馬車に併走するように飛んだ。
「帝都で、最近人気のペットなのですよ」
「ペットですか」
「えぇ……そうだ。もし、よろしければノアサリーナ様にも、1匹……あっ、いやいや、それは難しくございますか」
何かを言いかけて、ハマンドフは首を小さく振り苦笑した。
「何か?」
ノアが反射的といった感じで声をかける。
「あのような小さい動物です。ノアサリーナ様が持つ呪いにより、たちまちのうち食い殺されてしまいますでしょう?」
そう言ったハマンドフからは微笑みは消えていた。
今まで見せたことのないような真剣な顔で、ノアに応える。
呪い……呪い子の力は、家畜を殺してしまう。
あの小動物など、ひとたまりもないということか。
ノアは俯いた。
まるで自分を責めるように、ぎゅっと眼をつぶって。
だが、問題はない。
「大丈夫ですよ、お嬢様。対策は既に出来ております。モッティナ……でしたっけ? あの動物がお嬢様の側にいても、死ぬことはございません」
カロメーを食べさせれば問題はない。
オレは大丈夫だと、ノアにニコリと笑い声をかける。
そのオレの言葉に、ノアは小さくありがとうと言って頷いた。
「対策で……ございますか。さすがでございます」
ハマンドフも、オレの言葉に笑顔で頷く。
目立ったやり取りは、それで終わり。
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