召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十四章 怒れる奴隷、東の大帝国を揺るがす

きゃっかだ

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「魔法陣?」
「スライドガラスに描いた!」

 ふと手元をみると、オレのプラプラと振っていたガラス板はまっさらだった。
 先ほどまであった魔法陣が消えている。
 どこかにくっつけたのか?

「ほんとだ。消えてる」
「大事にしてくださいって、言ったのに……」
「あのね、さっきお姉ちゃんが乗っかったときに、顔にあたったよ」

 ノアがオレとモペアを見て言った。

「スライドガラスが?」

 コクリと頷くノアをみて、カガミがオレの顔を除き込む。
 それから、モペアとノアも、一緒にオレの顔を見つめた。

「みつけた! 口のところだ!」

 しばらくしてモペアがオレの下唇を指さす。
 オレの唇に魔法陣が?
 カガミの作った報復用の凶悪魔法陣が。

「これって、はずせない?」

 とりあえず、元に戻せればいいわけだ。

「転写の魔導具は、元には戻せないぞ。別の物に転写するしかないな」
「自分以外の他人にしか転写できないように改造しているので、他の人に付けるしかないと思います」
「え? 誰か他の人にキスしろと? ぶっちゅうって」
「ぶっちゅうって……いや、別に手の甲とかでいいと思いますが」
「でも、他の人に付けたら、その人にこの魔法陣の効果が及ぶんスよね?」
「えぇ。まぁ」
「解除方法は?」

 先ほどのカガミの説明では、この魔法陣は無限に自己複製するということだ。それによって、対処を難しくするという話だった。
 へたに他人にくっつけた後の影響がわからない。
 他人にくっつけるにしても、解除の確約は必須だ。
 だが……。

「ごめんなさい。まだ作っていません」

 申し訳なさそうなカガミの一言。
 マジで? こんなに危ない魔法陣作っておきながら、解除方法がないとか。酷すぎる。

「もう、リーダがナセルディオに、ぶっちゅう? やっちゃえば」

 困った状況にも関わらず、急に楽しげな顔になったミズキがとんでもないことを言い出した。

「いや、どうやってオレがナセルディオに近づいてキスするんだよ」
「だが、俺かプレイン、それかリーダが、ナセルディオに近づくことは決定事項だったはずだぞ」

 確かに、そうだ。
 ナセルディオには強力な魅了の力がある。女性限定のその力から逃れるためには、男性が対処することは決めていたことだ。

「でも、唇で良かったっスよね。手だったら、大変だったっス」

 プレインの言う通りだ。これが手だったら、手袋して過ごさなくてはいけなかった。

「了解。オレがナセルディオに接近し、なんとかする」
「えぇ……そうですね。リーダに任せます。でも、再転写の期限もありますし、時間が無いと思います」

 時間制限なんてあるのか。
 どれくらいの猶予があるのだろうか。
 想定外だ。これから、帝都に行ってナセルディオの居場所を探り、奴に近づき、魔法陣を転写する。
 それに時間制限が加わってしまった。

「私、いいこと考えちゃった」

 状況が悪化し、苦笑したカガミに対し、ミズキが満面の笑みで手をあげる。
 凄く嫌な予感がする。

「却下だ」
「まだ何も言ってないけど」
「まぁまぁ。ミズキ氏の良い考えって?」
「リーダが、カガミに変装して舞踏会に行けばいいんだよ」

 は?

「それって可能なんですか?」
「大丈夫。触媒にカガミの髪の毛とさ、着てる服に、化粧品も借りることになるけど」
「それくらいなら……」

 オレを置いて話が進む。

「舞踏会には、間に合わないだろ」
「え?」
「ごめんカガミ。一人で乗り込む不安があったからな、少しペースを落として進んでいたんだ」
「リーダ……」
「大丈夫だ。急げば間に合うぞ」
「マジで?」

 サムソン。お前。舞踏会には間に合わないように進めてくれと言ったのに。
 裏切りやがって。

「先輩だったら安心だし、舞踏会だったらナセルディオがいるのは確実っスからね」
「そうそう。サッと近づいて、ぶっちゅうした後で、お花摘みに行くとかいって帰ればいいんだよ」
「このヌネフ。リーダの新作女装に期待……いや、万全をもってサポートしますよ」

 先ほどとは打って変わって、楽しげな様子で皆が勝手なことを言い出す。
 というか、今回は諦めて、もう一度魔法陣を描けばいいだろう。
 どうせ、じっくりやる計画なのだ。
 だが、そんなオレの思いとは裏腹に皆が盛り上がる。笑顔で。
 あれ?
 心配されていないのか。オレ。

「うん! 私も、リーダと一緒にがんばる」

 ノアまで!

「ノアノアは行かなくても大丈夫……だよね、カガミ?」
「えぇ。そうです」
「ううん。リーダがいくなら、私もいく」

 ノアがはっきりとした声で主張する。

「ノアちゃん」

 そりゃ、話せない幻術より、ノアちゃんが同行した方が不自然じゃないと思うが。
 カガミは、心配なのか、前向きなノアを泣きそうな顔で見ていた。

「あのね……私、あいつに言いたいことがあるの」

 そんなカガミを見据えてノアは応じる。

「そうだよね。ノアノアもあいつに酷い目にあったわけだしさ」
「わかりました」

 カガミが大きく頷きオレをみた。
 そして、コツンと軽くオレの顎にパンチをいれる。

「リーダ。お願いします。あいつに、ナセルディオに、仕返ししてください!」

 オレを見上げて、カガミが言った。
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