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第二十三章 人の名、人の価値
おいしいおかし
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予定通り、丸テーブルにはオレとノアがつく。
高台から見下ろすと、料理人が発表する場、そして一般参加者が一望できた。
音楽隊もいる。
それにしても、この場にいる全員が着飾っている。
あまりにもキラキラしすぎて目が痛い。
これが貴族の集会か。
「そういえば、リーダとノアの社交界デビューになるわねぇ」
ロンロが楽しそうに言っていた事を思い出す。
ノアが失敗しないようにフォロー頑張らないとな。
「皆様、この場での出会いに、後日感謝できるようにと願っています」
そんなこと考えていたら、ちゃっちゃとノアが挨拶を終えてしまった。
あわてて、立ち上がりお辞儀する。
「もう、リーダったらぁ。いきなりノアに迷惑かけてぇ」
いきなりロンロにたしなめられる。
へいへい。
フォローどころか助けられた。ノアは、頼りになるな。
そして、お菓子の祭典ヘーテビアーナの本戦が始まる。
控えめな音楽が鳴り響く中、最初の職人がやってくる。
カラコロと軽快な音を響かせ、台車に乗せたお菓子を伴って現れたのは見たことのある人物だった。
「ハサーリファでございます」
一番手は、菓子職人ギルドのお姉さんか。
続いて、箱をもった人が次々と現れる。
そして、オレ達のテーブルに、箱がおかれた。
よく見ると、領主の前にも、箱は置かれ、続いて一般参加者の前にも次々と箱が置かれていく。
「では、ご覧下さいませ」
領主の側に立つ役人の合図をみて、ハサーリファが言葉を発しながら彼女の前にある箱を開ける。
この箱も魔導具らしい、蓋を開けた瞬間、フッと箱は消え、蓋の代わりに彼女の手には小さな木札が握られていた。
そして、箱のあった場所には、お菓子の飾られた皿が残っていた。
ふと見ると、オレの目の前にも同じものがある。
あっけにとられている間に、オレの後に立つ給仕が蓋を開けたようだ。
皿にはお菓子とは別に鳥の模型が飾ってあった。
茶色いクッキーが数枚重ねて置いてあり、その上には白い鳥の模型が置いてある。
どうやって食べるんだ、これ?
いきなり、訳の分からない物が出てきた。
『パンパン』
隣の人をまねしようと見ていたら、手を叩く音が聞こえた。
ハサーリファが手を叩いたのだ。
すると白い鳥がフワリと飛び上がり、重ねられたクッキーを崩した。
それから、パキリと小さな音を立てて砕け散り、白い粉となって崩れたクッキーの上に降りかかる。
「これが、わたくしの菓子でございます」
「なるほど、質素な作りを、演出によって輝かせるか」
静かにお辞儀しつつ言葉を発したハサーリファに、領主が答える。
そして食事が始まる。
特に道具が一緒に置かれていないから、手で食べてOKってことだ。
軽く一枚摘まんで口に入れる。
しっとりとしたクッキーだ。なんだろう、これ。とりあえず白い粉は砂糖ではないのはわかった。
なんにせよ、美味しい。
「では、クグーハノス殿、どうですかな?」
「えぇ。見た目はなじみのある菓子かと思いました。ですが、食感は新鮮です。そして、粉に見える白いクリーム、甘さをより引き立てます。いや、語彙が足りませぬな。ですが、どう形容してよいか」
領主にうながされて、オレ達とは領主を挟んで逆サイドにあるテーブルから1人のおばちゃんが立ち上がり解説する。
それを皮切りに、領主に促され次々と高台に座る貴族がコメントする。
3番目の人は、代理の人にコメントさせているのを見て安心する。
今まで食べたことのないお菓子というコメントで一貫しているが、人によって表現の仕方が違っていて面白い。
「では、ノアサリーナ殿は、いかがであったか?」
来た。
オレの出番だ。
「リーダ」
ノアがオレの名前を呼ぶ。
その声に反応して、胸元に仕込んだ魔導具を小さく叩く。
これで、魔導具が起動する。
起動したのを合図としてコメントを別室にいるハロルド達がするという計画だ。
「例えるなら、収穫祭」
オレの口が勝手に動き、いきなり訳の分からない事を口走る。
「麦畑のごとく豊かな土色の生地に、大地の恵みが溢れている」
いつものハロルドのコメントそのものだ。
「ふむ。味の無い生地、香料を練り込んだバター、そしてチーズ。様々な具材を薄く重ねているのか。うむ。ミルフィーユというのか」
「ほぅ」
魔導具の力によって、オレの意思など無視して口走るコメントに、領主が感嘆の声をあげた。
「特に、チーズ。収穫祭に振る舞われるワインのような果実の香りが……いや、これはチーズではないな。そうか! 果実。果物のジャム! ジャムを漉して雑味を取り除いたか! そうか、それで収穫祭の祝いを思わせる涼やかさが……」
これ、いつまで続くのだろ。
なんだか、そろそろ魔導具切ってしまおうかな。
延々と続くコメントに、回りの反応が不安になるが、特に怒っている人はいないようだ。
ふと見るとハサーリファが、大きく目を見開いてオレを凝視しているのが見えた。
もういい加減終われば良いだろうと、適当なところで魔導具を切って「以上です」と締めくくった。
「初めて食する菓子だった。ノアサリーナ殿の言葉によると薄い生地を重ねた物と言われ、なるほどと思ったが、見事だ」
「わたくしも、数々の工夫を見抜かれ、かつこの菓子と似たものを知ってらっしゃる様子。その知見に驚き、世の広さを痛感いたしました」
総評は、領主がするらしい。
最後に、そう締めくくった領主に、ハサーリファは答えた後、大きくお辞儀する。
「では、合図があるまで、しばしくつろいでくれ」
こうして、最初の一品は美味しく食べて、コメントも滞りなくこなせた。
そして次のお菓子が用意できるまで休憩。
「ハロルド、話長いよ」
「まったくもう。リーダはせっかちでござるな」
「でも、美味しかったよね」
「食ったことあるなって味だった。なんか凝視されている気がして、あんまり味わえなかったけど」
「サクサクしてて、良い匂いがしたの」
「だが、このペースでは、全てを食することは叶わぬ。拙者はそれが辛い」
ハロルドは、時間制限あるからな。
もっとも今日のうちに食べられないだけで、取っておいて明日以降には食べる事が出来るのだから同情はしない。
「あと、どれくらい持ちそう?」
「うむ。あと、1食くらいであろうか」
となると、それ以降は同僚達の食レポに期待するしかないか。
あの衆人環視の中では、良いコメントなんて出来そうにないからな。
程なくして、次のお菓子。
次の職人も、見たことがある人だった。
聖女の行進でみた大きなリュックを背負った大男。
町で意気投合した職人とペアで参加したらしい。
出てきたお菓子は、果物たっぷりのタルト。
クッキー生地に生クリームが敷き詰められて、さらに上には溢れんばかりの果物が盛ってあるお菓子だ。
「わわっ」
隣でノアが小さく感嘆の声をあげる。
これも美味しい。酸味のある果物が、甘ったるいクリームの甘さを中和させてよかった。
ハロルドの解説で、南方の海に住む動物のミルクを使っていることがわかった。
「遙か高い山の頂上に咲く一輪の花のごとき、凜々しい味」とか口走っていた。
そして3人目。
真っ白い髪、長いあごひげ。仙人のようなおじいさん。
出されたお菓子は、これまた真っ白いロールケーキ。
「あっ。これコンビニで見たことある」
開口一番、オレはロクでも無いことを口走った。
高台から見下ろすと、料理人が発表する場、そして一般参加者が一望できた。
音楽隊もいる。
それにしても、この場にいる全員が着飾っている。
あまりにもキラキラしすぎて目が痛い。
これが貴族の集会か。
「そういえば、リーダとノアの社交界デビューになるわねぇ」
ロンロが楽しそうに言っていた事を思い出す。
ノアが失敗しないようにフォロー頑張らないとな。
「皆様、この場での出会いに、後日感謝できるようにと願っています」
そんなこと考えていたら、ちゃっちゃとノアが挨拶を終えてしまった。
あわてて、立ち上がりお辞儀する。
「もう、リーダったらぁ。いきなりノアに迷惑かけてぇ」
いきなりロンロにたしなめられる。
へいへい。
フォローどころか助けられた。ノアは、頼りになるな。
そして、お菓子の祭典ヘーテビアーナの本戦が始まる。
控えめな音楽が鳴り響く中、最初の職人がやってくる。
カラコロと軽快な音を響かせ、台車に乗せたお菓子を伴って現れたのは見たことのある人物だった。
「ハサーリファでございます」
一番手は、菓子職人ギルドのお姉さんか。
続いて、箱をもった人が次々と現れる。
そして、オレ達のテーブルに、箱がおかれた。
よく見ると、領主の前にも、箱は置かれ、続いて一般参加者の前にも次々と箱が置かれていく。
「では、ご覧下さいませ」
領主の側に立つ役人の合図をみて、ハサーリファが言葉を発しながら彼女の前にある箱を開ける。
この箱も魔導具らしい、蓋を開けた瞬間、フッと箱は消え、蓋の代わりに彼女の手には小さな木札が握られていた。
そして、箱のあった場所には、お菓子の飾られた皿が残っていた。
ふと見ると、オレの目の前にも同じものがある。
あっけにとられている間に、オレの後に立つ給仕が蓋を開けたようだ。
皿にはお菓子とは別に鳥の模型が飾ってあった。
茶色いクッキーが数枚重ねて置いてあり、その上には白い鳥の模型が置いてある。
どうやって食べるんだ、これ?
いきなり、訳の分からない物が出てきた。
『パンパン』
隣の人をまねしようと見ていたら、手を叩く音が聞こえた。
ハサーリファが手を叩いたのだ。
すると白い鳥がフワリと飛び上がり、重ねられたクッキーを崩した。
それから、パキリと小さな音を立てて砕け散り、白い粉となって崩れたクッキーの上に降りかかる。
「これが、わたくしの菓子でございます」
「なるほど、質素な作りを、演出によって輝かせるか」
静かにお辞儀しつつ言葉を発したハサーリファに、領主が答える。
そして食事が始まる。
特に道具が一緒に置かれていないから、手で食べてOKってことだ。
軽く一枚摘まんで口に入れる。
しっとりとしたクッキーだ。なんだろう、これ。とりあえず白い粉は砂糖ではないのはわかった。
なんにせよ、美味しい。
「では、クグーハノス殿、どうですかな?」
「えぇ。見た目はなじみのある菓子かと思いました。ですが、食感は新鮮です。そして、粉に見える白いクリーム、甘さをより引き立てます。いや、語彙が足りませぬな。ですが、どう形容してよいか」
領主にうながされて、オレ達とは領主を挟んで逆サイドにあるテーブルから1人のおばちゃんが立ち上がり解説する。
それを皮切りに、領主に促され次々と高台に座る貴族がコメントする。
3番目の人は、代理の人にコメントさせているのを見て安心する。
今まで食べたことのないお菓子というコメントで一貫しているが、人によって表現の仕方が違っていて面白い。
「では、ノアサリーナ殿は、いかがであったか?」
来た。
オレの出番だ。
「リーダ」
ノアがオレの名前を呼ぶ。
その声に反応して、胸元に仕込んだ魔導具を小さく叩く。
これで、魔導具が起動する。
起動したのを合図としてコメントを別室にいるハロルド達がするという計画だ。
「例えるなら、収穫祭」
オレの口が勝手に動き、いきなり訳の分からない事を口走る。
「麦畑のごとく豊かな土色の生地に、大地の恵みが溢れている」
いつものハロルドのコメントそのものだ。
「ふむ。味の無い生地、香料を練り込んだバター、そしてチーズ。様々な具材を薄く重ねているのか。うむ。ミルフィーユというのか」
「ほぅ」
魔導具の力によって、オレの意思など無視して口走るコメントに、領主が感嘆の声をあげた。
「特に、チーズ。収穫祭に振る舞われるワインのような果実の香りが……いや、これはチーズではないな。そうか! 果実。果物のジャム! ジャムを漉して雑味を取り除いたか! そうか、それで収穫祭の祝いを思わせる涼やかさが……」
これ、いつまで続くのだろ。
なんだか、そろそろ魔導具切ってしまおうかな。
延々と続くコメントに、回りの反応が不安になるが、特に怒っている人はいないようだ。
ふと見るとハサーリファが、大きく目を見開いてオレを凝視しているのが見えた。
もういい加減終われば良いだろうと、適当なところで魔導具を切って「以上です」と締めくくった。
「初めて食する菓子だった。ノアサリーナ殿の言葉によると薄い生地を重ねた物と言われ、なるほどと思ったが、見事だ」
「わたくしも、数々の工夫を見抜かれ、かつこの菓子と似たものを知ってらっしゃる様子。その知見に驚き、世の広さを痛感いたしました」
総評は、領主がするらしい。
最後に、そう締めくくった領主に、ハサーリファは答えた後、大きくお辞儀する。
「では、合図があるまで、しばしくつろいでくれ」
こうして、最初の一品は美味しく食べて、コメントも滞りなくこなせた。
そして次のお菓子が用意できるまで休憩。
「ハロルド、話長いよ」
「まったくもう。リーダはせっかちでござるな」
「でも、美味しかったよね」
「食ったことあるなって味だった。なんか凝視されている気がして、あんまり味わえなかったけど」
「サクサクしてて、良い匂いがしたの」
「だが、このペースでは、全てを食することは叶わぬ。拙者はそれが辛い」
ハロルドは、時間制限あるからな。
もっとも今日のうちに食べられないだけで、取っておいて明日以降には食べる事が出来るのだから同情はしない。
「あと、どれくらい持ちそう?」
「うむ。あと、1食くらいであろうか」
となると、それ以降は同僚達の食レポに期待するしかないか。
あの衆人環視の中では、良いコメントなんて出来そうにないからな。
程なくして、次のお菓子。
次の職人も、見たことがある人だった。
聖女の行進でみた大きなリュックを背負った大男。
町で意気投合した職人とペアで参加したらしい。
出てきたお菓子は、果物たっぷりのタルト。
クッキー生地に生クリームが敷き詰められて、さらに上には溢れんばかりの果物が盛ってあるお菓子だ。
「わわっ」
隣でノアが小さく感嘆の声をあげる。
これも美味しい。酸味のある果物が、甘ったるいクリームの甘さを中和させてよかった。
ハロルドの解説で、南方の海に住む動物のミルクを使っていることがわかった。
「遙か高い山の頂上に咲く一輪の花のごとき、凜々しい味」とか口走っていた。
そして3人目。
真っ白い髪、長いあごひげ。仙人のようなおじいさん。
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