召還社畜と魔法の豪邸

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第二十二章 甘いお菓子と、甘い現実

あやしいじはく

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 わざわざ宣伝するように黒幕の事を言うのは怪しい。
 とりあえず、ロンロをジェスチャーで呼ぶ。

「なぁに?」
「これから、あいつらを尋問するから、表情見ていて妙な所があったら教えて欲しい」
「わかったわぁ」

 先日のロンロから教えてもらった話もあって、黒幕は別にいると思う。
 怪しい人名は3人。
 鎌をかけてみる。

「すみません。気になっていることがあるのですが……」
「なんだ?」

 御者の男から、後ろ手に縛られながらならず者の1人が横柄に答える。
 こうしてみるとやはり余裕が見て取れる。

「なぜ聞きもしないのに、アーキム……ラーキム。そう、アーキムラーキムという店の名前を出したのですか?」
「そりゃ、そいつがアーキムラーキムに所属の職人だからだろ」

 だが、オレの問いに答えたのは御者のお姉さんだった。
 え?
 そうなの?
 身元調べられるとわかるから、自分から言った?
 いきなりつまずいた気がするが、とりあえず当初の考え通り進める。

「いえ、違います」
「違う?」
「えぇ。黒幕は別にいます。えぇ……と、名前が思い出せない……いや、そうだ。ムランドード!」

 彼らに背を向け、影からメモを取り出し、名前を呟く。
 それから、チラリとロンロを見る。
 違うか。
 首を振ったロンロの反応から、違うと判断。次だ。次。

「……ではなくて、そうそう、ハシュマッタ!」
「慌ててる。慌ててる」

 オレが振り向く前にロンロが喚きながら近づいてくる。
 ハシュマッタという人が黒幕か。

「ですよね?」

 振り向いて自信満々に問い詰めると、口をパクパクとさせオレを見返す髭面が目に映った。

「なるほどねー。ハシュマッタか。そういうことか。あの人は、アーキムラーキムの貴族付きだから……つかまった後、貴族の力で裏から手を回して助けてもらうってわけか」

 御者のお姉さんが、納得したように頷く。
 この人って事情通だよな。

「で、でも証拠が無いなぁ」
「そうだ! 証拠だせ! 証拠!」

 これでいろいろ喋ってくれると思っていたが、悪役特有の決めぜりふで反論してきた。
 証拠か。
 確かに、こいつらを兵士につきだしたとしても、黒幕は別にいますとは言えないか。
 でも、あれ?

「逆に聞きますが、えぇと、アーキムラーキムの店主が黒幕という理由もないのでは?」
「いや。買い占めをしたのはアーキムラーキムだ。職員を引き抜いたものね。ついでに帳簿に使った金の後があれば、店主であるラジサーンが黒幕といわれても反論はできないさ」

 オレの疑問に答えたのは、御者のお姉さんだった。
 ならず者も、合唱するように「そうだ! そうだ!」と同調する。
 なんか御者のお姉さんという味方をつけて、勢いづいている気がする。

「あっ。先輩。お金といえば、この人達がもらったお金の出所を調べるってのは?」

 どうしようかと考えているとプレインがオレに近づき言った。
 お金の出所……あぁ、報酬のことか。
 報酬があるからこそ、悪事に荷担したということか。
 確かに、他に理由はなさそうだな。
 でも。

「報酬なんて貰ってないだろう」
「そうなんスか?」
「なんで報酬を払うんだ? 報酬渡す必要ないだろ?」
「え?」

 プレインがオレの言葉にわからないという感じで首を傾げる。
 周りの人もだ。

「報酬、貰ってないですよね?」

 念の為、盗賊に確認する。

「お前……どうして、そう思うんだ?」
「いや。黒幕の立場になって考えたら、助けなければ罪に問われるわけですよね?」
「そうなるね。だけど、罪にも軽重ある。罪を償うなり、犯罪奴隷として生きる道もある」

 なるほど。
 オレは、ずっと牢屋って線で考えていたけれど、確かに、刑期を終えて町にもどることもあるか。
 でも、問題無い。

「それは無いでしょう。こんな罪を犯しても、無罪なり、無罪に近い立場で戻れるような働きかけができるなら、逆もできますよね?」
「そういうことね。確かに、平民を殺してしまうほうが楽か……それなら、お金を……そんな事、思いもつかなかったねえ」

 オレの言葉に、御者のお姉さんは感心したように頷く。
 よく見ると、周りの人達が揃ってオレを凝視していた。
 そんなに驚かれるような事を言ったかな。
 テレビドラマで良くある話だろ。黒幕は知らぬ存ぜぬで貫くタイプ。
 もう一つのパターンは、出所した犯人が真犯人をゆするタイプ。
 それで、返り討ちにあって殺されちゃうんだよな。
 そういや、こちらの世界では、そんなドラマ無いか。
 吟遊詩人の歌も、複雑な話ししないし。

「いや! 待ってくれ! その話、本当なのか? 金をもらえず、殺されるって」

 結局のところ、証拠が無いことの説明だけしかしていない。
 どうしようかと、考えあぐねていると、盗賊達がいまさらながらに、揃って焦りの声をあげだした。
 遅いよ。こういうことは、罪を犯すまえに気がついて欲しかった。
 この様子だと、黒幕を示す証拠ないしな。
 こいつらの証言だけではダメで、証拠が必要か。

「どうしたらいいんだ……」

 うなだり呟く髭面が視界の端にうつる。
 どうしたら……か。
 オレだったらどうしただろうな。
 うーん。

「証拠があれば良かったっスよね」

 まったくプレインの言う通りだ。
 黒幕を示す証拠があればな。
 あんまりグズグズしていられない。サラムロが何かやらかす前に始末しないと。
 いや、待てよ。
 証拠……証拠が無くても大丈夫じゃないか。
 なかなかの閃きに、オレは思わずにやついた。
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