召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十二章 甘いお菓子と、甘い現実

フルーツポンチ

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「どうしたんだい?」
 涙目のノアに問いかける。
 何があったのだろうか。
 先程までお菓子を作っていたはずだ。

「ううん。何でもないの」

 オレの問いかけにノアは作り笑いを浮かべ、首を振る。
 言いたくないことだったら言わなくてもいいだろう。

「そっか」
「お料理……リーダも料理をしてるの?」
「そうだよ」
「いない方がいい?」
「そんなことないさ。ちょうど第1弾ができたとこだよ。食べてみる?」

 ニヤリと笑って、オレはお椀に自分の作ったものをよそおいノアへと差し出す。

「うん」

 ノアは小さく頷き、お椀の中身を恐る恐るのぞき込んだ。

「これは……?」
「フルーツポンチ」
「ふるーつぽんち……でしたか」

 話ながら、もう一つのお椀によそおい、それからのノアにスプーンを手渡す。

「さてと、とりあえず食べてみるか」

 食べてみるとなかなかイケてる。
 一発でこの出来とは、オレは天才じゃないかな。
 自画自賛しつつ2口目を食べる。

「おいしい!」

 ノアも褒めてくれる。

「でしょ」

 そう言って笑うと、ノアも笑ってくれた。

「あのね、この白いのが美味しいの」
「だろ。これを見つけた時にピーンと閃いちゃったんだよ」
「この料理を閃いたの?」
「そうそう」

 オレが作ったのはフルーツポンチ。
 ノアが白いのと表現したのは白玉。
 だが、白玉粉から作った訳ではなくて、この世界による果物で作ったものだ。
 作ったというか果物。
 果物の種そのものが、白玉そっくりだったのだ。
 カテナナ。
 そう呼ばれるこの果物は厚い皮に覆われていて、剥くと中から真っ白い白玉そっくりな種がでてくる。
 他のお菓子屋さんは、そこにソースなどを塗って、みたらし団子のようにして食べていた。
 だが、オレはそれをそのままフルーツポンチにぶち込んだのだ。
 もちもちとした食感が白玉そっくりでイメージ通りの出来になった。

「みんなの分もあるの?」
「もちろん」
「ハロルドがきっとびっくりするよ。褒めてくれると思うよ」
「だったら嬉しいね」

 オレの作った料理で、ハロルドはグダグダと長い解説をする所は、少し見てみたい。
 だが、このフルーツポンチはまだまだ終わりではないのだ。

「うん。ハロルドも呼ぶ?」

 ノアがオレの顔をのぞき込むようにして、提案する。

「いや、まだまだこれで終わりじゃない。もっと凄くなる」

 だが、ノアの提案にオレは首を振りつつ答える。
 そして、続きの果物を大きな器へと入れる。
 せっかく異世界でフルーツポンチを作るのだ。
 見たことも無い異世界の果物を大量にぶち込んで、異世界フルーツポンチを作るのだ。
 とりあえず、まずは巨大ブドウのグラプゥを取り出す。
 皮を剥いて一口サイズに切り分ける。
 結構な量になったな。
 うーん。3分の1くらいでいいか。

『ドボボボ』

 適当だが、ちょうどいい。
 全部入れると、半分近くがグラプゥで埋まってしまっていたな。
 それにしても、一番大きな器を使っていて良かった。
 これからどんどんと食材を追加していくのだ。
 小さな器では、間に合わなかっただろう。

「さてと、次はリテレテっと」
「あのね。リーダ」

 リテレテを、まな板の上にドンと出た時に、ノアがボソリとオレに話しかけてきた。

「なんだい?」
「私が一緒にいるとね、うまくお菓子が作れないんだって」
「そっか」

 以前聞いた話だ。
 職人はある意味繊細なところがあって、呪い子がいると本気が出せない。
 呪い子のまき散らす歪んだ魔力が原因らしい。
 魔力は職人の手を狂わせてしまうと聞いた。

「リーダは大丈夫?」
「大丈夫だよ。むしろ手伝って欲しいぐらいだ」

 でも、そんな呪いはオレに通用しない。
 笑顔でノアに手伝って欲しいと返答する。

「手伝う」

 オレを、ノアはしばらく見ていたが、コクリと頷いた。

「それじゃあ、まずはこの果物の皮を剥いてもらえる? こうやって」

 やや厚め皮をしたビワにそっくりな外見の果物を手に取る。
 お店で味見したときは、少しだけ酸味のある果物だった。

「こう?」
「そうそう。上手い上手い。そこに3つあるから、それを全部お願い」

 沈んだ顔をしていたノアだったが、作業をしていくうちに楽しくなってきたようだ。

「うん……と、んん……」

 小さく唸りながらも、一生懸命にニコニコしながら作業を進めていた。

「次は……この籠に入ったイチゴのヘタを取ってね」
「任せて、リーダ!」

 ノアと2人で、フルーツポンチを作っていく。
 見たこともない果物がいっぱいあるが、適当にどれもこれもぶち込んでいく。

「どうした? ノア?」

 ふと見ると、ノアが涙目になっていた。

「あのね。プシャって」

 涙目になりながら、手に持ったオレンジをオレに突き出す。
 皮を剥ごうとして、汁が飛び散ったのか。

「オレも前なったよ。水で洗い落とすといいよ」
「うん。でもね、大丈夫なの」
「そっか。あと少し。ラストスパートだ」
「頑張るね。リーダ」

 苦労の甲斐あって、フルーツポンチが完成した。
 大きな器に溢れんばかりなった大量のフルーツポンチだ。
 1日では食べきれないだろう。

「早速味見だ!」
「うん!」

 ところが。

「あれ?」

 異世界果物をこれでもかと、ぶち込んだフルーツポンチは、なぜか不味くなっていた。
 なんだろう、薬の味がする。
 甘ったるい薬の味。
 かなり微妙な味わいだ。

「美味しく……ない?」

 ノアが凄く申し訳なさそうにオレを見る。
 ごめんね、ノア。

「困ったね」
「うん」

 そんなこと言っているとガチャリと扉が開いてカガミがやってきた。

「大丈夫、ノアちゃん?」
「うん……」
「大丈夫じゃないんだよ。カガミお姉ちゃん!」
「リーダには聞いてないんだけど。えっ? 何やってるの?」
「あのね、フルーツポンチ作ってたの」

 入ってくる時は気まずい顔のカガミだったが、フルーツポンチの器を見ると思いっきり顔をゆがめた。
 加えてオレの渡したお椀をのぞき込んで、いきなり真顔でオレを見る。

「味が変わって美味しくなくなっちゃった」

 オレの渡したフルーツポンチを、少しだけ食べてカガミが溜め息をついた。

「はぁ……。何をしているのかと思ったら」
「最初は上手くいってたんだけどね」
「美味しかったの!」
「いろいろ入れすぎだと思います」
「やっぱり? なんとかなりそう?」
「なんとか……ところで、ベースは? レモネードですか?」
「好きな味のシロップが出る、魔法の壺を使ってラムネ味の液体を適当に……不味かった?」
「いや、いいと思いますが」

 いろいろ冷たい態度だが、自信はあるようだ。
 カガミは、フルーツポンチの入った器から、ヒョイヒョイと果物を選んで移していく。

「あれ、カガミも戻ってこないと思ったら、何やってんの?」

 今度はミズキがやってきた。

「ちょっと目を離した隙に、リーダがフルーツポンチを作っていたんです」
「うわっ。こんなに大量に。てっきり、サムソンを手伝ってるのかと思ってた」
「ほんと少し目を離すと何をしでかすか、分からないんだから」

 カガミが、チラリとノアを見たあと、嬉しそうに笑いながらコメントする。
 それから先はしばらくカガミに任せて、皆で眺めていた。

「何やってるんスか?」

 今度はプレインか。

「あの、先ほどはサラムロが……」

 そして、イスミダルに、ラテイフ、そしてサラムロの3人が続いて部屋へと入ってくる。
 サラムロは、いつものやんちゃな様子とはうってかわって、下を向いて俯いていた。
 何があったのだろうか。
 皆の態度を見ると、彼がノアに何か言って、それでノアがショックを受けて、こちらに来たようだけれど……。
 詳しいことは後で聞けば良いか。

「リーダがアホみたいな量のフルーツポンチを作っててさ、カガミが手直ししてるとこ」

 入ってきたプレイン達をチラリと見た後、ミズキが笑いながら解説する。
 アホみたいって……、確かにそうかも。
 調子に乗って作りすぎたかな。これ、全員がお腹いっぱい食べてもあまりそうだ。
 魔法で、いくらでも保存が利くからどうでもいいかな。

「ふるーつぽんち?」
「故郷の料理っスよ」
「皆様、お料理を作られるのですね」

 ラテイフが驚いた様子で言い、それに反応するかのようにカガミが無言で頷く。

「お菓子はできたんですか?」
「それが、なかなか……」

 続く説明で、いろいろと試行錯誤をしているが上手く言っていないという事を聞く。

「これでいいと思います」

 話をしているとカガミがお椀をオレにずいっと突き出した。

「あ。美味しい」
「味や匂いのきつい果物を取り除きました。それから、ジュースを入れ直してみたんです」
「なるほど」
「取り分けた癖の強い果物は、それに負けないくらい強いお酒でフルーツポンチを作ればいけると思います」

 よくよく見ると、異世界果物が半分ぐらい取り除かれていた。
 それでも異世界果物たっぷりのフルーツポンチだ。

「さすが。カガミお姉ちゃん。頼りになる」
「何がカガミお姉ちゃんなんだか」

 オレの心からの賞賛に、カガミは呆れたように苦笑しながら手を振った。
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