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第二十一章 行進の終焉、微笑む勝者
しんかんたち
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「こちらが、朝にお約束したもの。帝都までの道を示した地図でございます」
昼過ぎになってサイルマーヤが地図を持参してやってきた。
短時間で描いたと思えない立派な地図。
細々としたイラストがついていて、地形を示す地図と言うより、観光客用のコミカルな地図といった感じだ。
そこには赤い線で、道順が書かれている。
くねくねと曲がりながら北回りで帝都へと向かうルートのようだ。
相変わらず上機嫌のサイルマーヤが説明を始める。
「ここが、まず最初の目的地となるガラス畑でございます。アサントホーエイの領主様はおそらくこちらの方をご案内しようかと思っていたのでしょうが、ここ、ここです」
サイルマーヤは地図の一点を指で2回トントンと叩く。
にっこり笑った女の人の顔が描かれている。
これ、サイルマーヤが描いたのだろうか。
「その場所がガラス畑なんですか?」
「そうです。帝国ではこちらのガラス畑の方が大きく立派です。なおかつ、ここは私ちょっとしたツテがありまして、ノアサリーナ様を快く迎え、かつ十分な案内やもてなしができるかと考えております」
「確かに、帝国でも名の知れたガラス畑ですね」
ユテレシアも大きく頷く。
ちなみに、この場にはしょっちゅう館に来ていた、タイワァス神以外の神官の人達も全員勢揃いだ。
なんだかんだと言ってアサントホーエイへ向かう時と同じように、神官団も同行することになったので、ルートを把握していておきたいそうだ。
「それから、こう……進みます」
ゆっくりとサイルマーヤが地図のうえに置いた指先を滑らせる。
「そして、ここが次の目的地としていただきたい場所です」
そして、地図の一点に指を止めて、オレ達を見回し言った。
他の神官達も、納得した様子だ。
「ここには何があるんですか?」
「こちらは冥府の盟主を名乗るアンデッドが跋扈する場所でございます」
カガミの質問に答えたのは、ブロンニだった。
いつもの笑顔ではない、真剣な顔だ。
「アンデッドですか」
アンデッドなら戦わなくても大丈夫。
近づくだけで倒せる。
「えぇ。死を超越した王と名乗り、地下深くに続く迷宮を作り潜んでおります」
「領主ですら手を焼く存在だそうですなぁ。アンデッドを操り、地下にて夜な夜な怪しげな実験を繰り返すだと聞きます」
「有名なのですね」
「そうです。すでに冒険者の集団がなんども迷宮に挑み返り討ちになったそうです。ですが、ノアサリーナ様がお近くに立ち寄られれば、たちまちのこと、ヤツにとっては不運となりましょう」
ブロンニの言葉を聞き、ノアはオレをチラリと見た。
オレはノアが何を言いたいのかを察して、頷く。
「分かりました。困ってる方がいらして、そこに立ち寄るだけで解決するのであれば、伺うことには何の問題もありません」
そして、オレが頷くのと同時に少しだけ微笑んでそう答えた
「さすがノアサリーナ様でございます」
「いらしていただくからには、不快な思いをさせないように、皆が協力しますのでご安心を」
ブロンニがあげた賞賛の言葉に続き、サイルマーヤのかけた言葉に、他の神官たちも頷く。
「それから、ここと、ここ。この二つの印が残りの目的地ということ……でしょうか?」
ミズキが残り二つの大きく丸がされた場所を指さし、独り言のように言う。
「左様でございます」
「こちらにも、何か魔物がいるのですか?」
プレインが重ねて質問する。
その言葉にサイルマーヤはゆっくりと首を振った。
「いえ、ここがですね。コルヌートセル。ヘーテビアーナ……お菓子の祭典が行われる町です」
まず一つ先の印を飛ばして、2つ先の場所を紹介する。
それから、ひときわ笑顔で、サイルマーヤが言葉を続ける。
「そして、この中間に値するところ、ここはなんと、なんとですよ」
「ちょっと待つトヨ。そこ通らなくてもいいヨ」
満面の笑みで、妙に芝居がかったサイルマーヤの言葉。
それにあきれた様子のエテーリウが言葉を挟む。
ふと見ると他の神官達も、苦笑したり、遠い目をしていたり、微妙な表情だ。
「何をおっしゃる。この場所を通らなくても、距離は変わりません。であれば、通るべきなんです!」
エテーリウの苦情めいた言葉に、サイルマーヤが力強く反論した。
そこに何があるのだろうか。
少なくとも、何か脅威があるとか、そのような場所ではないようだ。
「ここには、なんとタイワァス神の聖地があります! なんという幸運でしょうか。皆さんの希望を叶えるようにと道を考えていたところ、ちょうど、ちょうど、ちょうど! この場所があったのです。我らが聖地があったのです。なんという幸運でしょう。ノアサリーナ様、ひてはリーダ様を我らが聖地にお招きできるとは」
「まぁ。距離はさほど変わらない……確かに、そうではあるが……」
ワウワルフがため息をつくようにあきれた声をあげる。
なるほど。タイワァス神の聖地、そこにオレ達を連れていくことができるから、だからサイルマーヤは、とても前向きだったのか。
ある意味、裏表がなくて安心できるけど、本当に神官達は我が道行っているな。
「もちろん。途中にも宿場町があります。ほんの小さな村落であればあります。それに見ていただきたいもの。体験していただきたいこともあります。せっかくの帝国に来ていただいたです。大丈夫。全てお任せください。なんと言っても私、生まれも育ちも帝国なのです!」
テンション高すぎて不安ではあったが、彼の案内は的確だった。
その日の午後は大きな声で、御者であるピッキーを扇動し、翌日は白い旗を持って先導する。
宿泊地も何もかも全部、サイルマーヤまかせの気楽な旅行だ。
ついでに護衛をしてもらっていることもわかった。
アンデッドは近づけないが、他の魔物は違う。
踊りながら進むオレ達は、いい獲物だと判断したのだろう。
たまに魔物の襲撃を受ける。
それらは、神官達が打ち倒していった。
どうやら同行していて、いつも気楽にやってくる神官達は皆なかなかの手だれのようだ。
特に小太りの男であるブロンニが軽やかに飛び跳ね踊りながら敵を倒している姿には驚愕する。
「さすがですな、さすが舞姫ブロンニと呼ばれるだけはあります」
「舞姫?」
「ナニャーナ神に仕える神官で、最も剣技に長けた者は、男性であれ女性であれ、いかなる立場であれ、舞姫という称号で呼ばれるのです」
ワウワルフが舞い踊り戦うブロンニについて教えてくれた。
なるほど。舞姫か。
確かに、ブロンニの剣舞はすごいと思う。
マリーベルやラノーラ、二人の踊り子が舞っている時もすごいと思ったが、それよりも、はるかにすごい技術を、ブロンニが持っていることはわかる。
テレビで見る新体操のバトンをぶん投げる様子にそっくりだ。
ただし、投げるのはバトンではない。
バトンの代わりに剣を空中に放り上げ、くるくると踊りながらキャッチし攻撃して、そしてまた投げる。
縦横無尽に動き回りながらの戦いに、誰もが安心して見ていた。
もちろん、ブロンニに頼り切りではない。
オレ達も戦うし、聖女の行進として参加している者で戦いに自信がある者は戦う。
そして、他の神官達もだ。
エテーリウはフラフラと動く縄を使い、敵を拘束したり、鞭のようにしならせ敵を打ち倒していく。
「みんなすごいよね」
「確かにそうですね。皆さん、安心して見ていられると思います。思いません?」
カガミは、ワウワルフが戦う姿に驚いたという。
まるでボクサーのように軽やかにステップを踏み、一瞬で敵に近づき殴り倒していたという。
いつもの温厚な彼の姿からは、想像できない。
そうやって、行進中は神官達の協力に甘え、夜は夜で行進に参加する他人達の協力に甘えた。
少し前に隊列を組み旅をした時のように、同行する人達が夕食を提供してくれるのだ。
帝国の料理。
「私達が食べるようなもので、もしお口に合えばですが……」
なんて言われても全然大丈夫。異国の料理に舌鼓をうつ。
代わりに何かお礼にと思ってカロメーを出したが、とても喜ばれた。
なんでもオレが美味しそうに食べている姿を見て、噂になっていたらしい。
それと同じものが食べられるということで、山盛りになったカロメーは瞬く間に籠から消える。
「カロメー作るの得意なの!」
ノアが、なくなるたび一生懸命カロメーを作って追加する。
「大人気だね、カロメー」
「うん!」
皆がカロメーを美味しそうに食べる姿を見て、ノアが嬉しそうに笑った。
そうやって行進は続き、数日後、黄色く輝くキリンに似た動物が見えた。
魔物?
心配するオレにサイルマーヤが弾んだ声で言った。
「さあ、着きました。あれは聖獣ヴァイアントーニオ。そしてあの聖獣の足下に広がるのがガラス畑です」
昼過ぎになってサイルマーヤが地図を持参してやってきた。
短時間で描いたと思えない立派な地図。
細々としたイラストがついていて、地形を示す地図と言うより、観光客用のコミカルな地図といった感じだ。
そこには赤い線で、道順が書かれている。
くねくねと曲がりながら北回りで帝都へと向かうルートのようだ。
相変わらず上機嫌のサイルマーヤが説明を始める。
「ここが、まず最初の目的地となるガラス畑でございます。アサントホーエイの領主様はおそらくこちらの方をご案内しようかと思っていたのでしょうが、ここ、ここです」
サイルマーヤは地図の一点を指で2回トントンと叩く。
にっこり笑った女の人の顔が描かれている。
これ、サイルマーヤが描いたのだろうか。
「その場所がガラス畑なんですか?」
「そうです。帝国ではこちらのガラス畑の方が大きく立派です。なおかつ、ここは私ちょっとしたツテがありまして、ノアサリーナ様を快く迎え、かつ十分な案内やもてなしができるかと考えております」
「確かに、帝国でも名の知れたガラス畑ですね」
ユテレシアも大きく頷く。
ちなみに、この場にはしょっちゅう館に来ていた、タイワァス神以外の神官の人達も全員勢揃いだ。
なんだかんだと言ってアサントホーエイへ向かう時と同じように、神官団も同行することになったので、ルートを把握していておきたいそうだ。
「それから、こう……進みます」
ゆっくりとサイルマーヤが地図のうえに置いた指先を滑らせる。
「そして、ここが次の目的地としていただきたい場所です」
そして、地図の一点に指を止めて、オレ達を見回し言った。
他の神官達も、納得した様子だ。
「ここには何があるんですか?」
「こちらは冥府の盟主を名乗るアンデッドが跋扈する場所でございます」
カガミの質問に答えたのは、ブロンニだった。
いつもの笑顔ではない、真剣な顔だ。
「アンデッドですか」
アンデッドなら戦わなくても大丈夫。
近づくだけで倒せる。
「えぇ。死を超越した王と名乗り、地下深くに続く迷宮を作り潜んでおります」
「領主ですら手を焼く存在だそうですなぁ。アンデッドを操り、地下にて夜な夜な怪しげな実験を繰り返すだと聞きます」
「有名なのですね」
「そうです。すでに冒険者の集団がなんども迷宮に挑み返り討ちになったそうです。ですが、ノアサリーナ様がお近くに立ち寄られれば、たちまちのこと、ヤツにとっては不運となりましょう」
ブロンニの言葉を聞き、ノアはオレをチラリと見た。
オレはノアが何を言いたいのかを察して、頷く。
「分かりました。困ってる方がいらして、そこに立ち寄るだけで解決するのであれば、伺うことには何の問題もありません」
そして、オレが頷くのと同時に少しだけ微笑んでそう答えた
「さすがノアサリーナ様でございます」
「いらしていただくからには、不快な思いをさせないように、皆が協力しますのでご安心を」
ブロンニがあげた賞賛の言葉に続き、サイルマーヤのかけた言葉に、他の神官たちも頷く。
「それから、ここと、ここ。この二つの印が残りの目的地ということ……でしょうか?」
ミズキが残り二つの大きく丸がされた場所を指さし、独り言のように言う。
「左様でございます」
「こちらにも、何か魔物がいるのですか?」
プレインが重ねて質問する。
その言葉にサイルマーヤはゆっくりと首を振った。
「いえ、ここがですね。コルヌートセル。ヘーテビアーナ……お菓子の祭典が行われる町です」
まず一つ先の印を飛ばして、2つ先の場所を紹介する。
それから、ひときわ笑顔で、サイルマーヤが言葉を続ける。
「そして、この中間に値するところ、ここはなんと、なんとですよ」
「ちょっと待つトヨ。そこ通らなくてもいいヨ」
満面の笑みで、妙に芝居がかったサイルマーヤの言葉。
それにあきれた様子のエテーリウが言葉を挟む。
ふと見ると他の神官達も、苦笑したり、遠い目をしていたり、微妙な表情だ。
「何をおっしゃる。この場所を通らなくても、距離は変わりません。であれば、通るべきなんです!」
エテーリウの苦情めいた言葉に、サイルマーヤが力強く反論した。
そこに何があるのだろうか。
少なくとも、何か脅威があるとか、そのような場所ではないようだ。
「ここには、なんとタイワァス神の聖地があります! なんという幸運でしょうか。皆さんの希望を叶えるようにと道を考えていたところ、ちょうど、ちょうど、ちょうど! この場所があったのです。我らが聖地があったのです。なんという幸運でしょう。ノアサリーナ様、ひてはリーダ様を我らが聖地にお招きできるとは」
「まぁ。距離はさほど変わらない……確かに、そうではあるが……」
ワウワルフがため息をつくようにあきれた声をあげる。
なるほど。タイワァス神の聖地、そこにオレ達を連れていくことができるから、だからサイルマーヤは、とても前向きだったのか。
ある意味、裏表がなくて安心できるけど、本当に神官達は我が道行っているな。
「もちろん。途中にも宿場町があります。ほんの小さな村落であればあります。それに見ていただきたいもの。体験していただきたいこともあります。せっかくの帝国に来ていただいたです。大丈夫。全てお任せください。なんと言っても私、生まれも育ちも帝国なのです!」
テンション高すぎて不安ではあったが、彼の案内は的確だった。
その日の午後は大きな声で、御者であるピッキーを扇動し、翌日は白い旗を持って先導する。
宿泊地も何もかも全部、サイルマーヤまかせの気楽な旅行だ。
ついでに護衛をしてもらっていることもわかった。
アンデッドは近づけないが、他の魔物は違う。
踊りながら進むオレ達は、いい獲物だと判断したのだろう。
たまに魔物の襲撃を受ける。
それらは、神官達が打ち倒していった。
どうやら同行していて、いつも気楽にやってくる神官達は皆なかなかの手だれのようだ。
特に小太りの男であるブロンニが軽やかに飛び跳ね踊りながら敵を倒している姿には驚愕する。
「さすがですな、さすが舞姫ブロンニと呼ばれるだけはあります」
「舞姫?」
「ナニャーナ神に仕える神官で、最も剣技に長けた者は、男性であれ女性であれ、いかなる立場であれ、舞姫という称号で呼ばれるのです」
ワウワルフが舞い踊り戦うブロンニについて教えてくれた。
なるほど。舞姫か。
確かに、ブロンニの剣舞はすごいと思う。
マリーベルやラノーラ、二人の踊り子が舞っている時もすごいと思ったが、それよりも、はるかにすごい技術を、ブロンニが持っていることはわかる。
テレビで見る新体操のバトンをぶん投げる様子にそっくりだ。
ただし、投げるのはバトンではない。
バトンの代わりに剣を空中に放り上げ、くるくると踊りながらキャッチし攻撃して、そしてまた投げる。
縦横無尽に動き回りながらの戦いに、誰もが安心して見ていた。
もちろん、ブロンニに頼り切りではない。
オレ達も戦うし、聖女の行進として参加している者で戦いに自信がある者は戦う。
そして、他の神官達もだ。
エテーリウはフラフラと動く縄を使い、敵を拘束したり、鞭のようにしならせ敵を打ち倒していく。
「みんなすごいよね」
「確かにそうですね。皆さん、安心して見ていられると思います。思いません?」
カガミは、ワウワルフが戦う姿に驚いたという。
まるでボクサーのように軽やかにステップを踏み、一瞬で敵に近づき殴り倒していたという。
いつもの温厚な彼の姿からは、想像できない。
そうやって、行進中は神官達の協力に甘え、夜は夜で行進に参加する他人達の協力に甘えた。
少し前に隊列を組み旅をした時のように、同行する人達が夕食を提供してくれるのだ。
帝国の料理。
「私達が食べるようなもので、もしお口に合えばですが……」
なんて言われても全然大丈夫。異国の料理に舌鼓をうつ。
代わりに何かお礼にと思ってカロメーを出したが、とても喜ばれた。
なんでもオレが美味しそうに食べている姿を見て、噂になっていたらしい。
それと同じものが食べられるということで、山盛りになったカロメーは瞬く間に籠から消える。
「カロメー作るの得意なの!」
ノアが、なくなるたび一生懸命カロメーを作って追加する。
「大人気だね、カロメー」
「うん!」
皆がカロメーを美味しそうに食べる姿を見て、ノアが嬉しそうに笑った。
そうやって行進は続き、数日後、黄色く輝くキリンに似た動物が見えた。
魔物?
心配するオレにサイルマーヤが弾んだ声で言った。
「さあ、着きました。あれは聖獣ヴァイアントーニオ。そしてあの聖獣の足下に広がるのがガラス畑です」
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