召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十章 聖女の行進

ところかわればてがみもかわる

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「あっさり解決したな」
「そうですね。スライフは、すごいと思います」

 先程まで首輪があった辺りを撫でてみる。
 傷一つなくすっきりとしたものだ。
 足元に転がっていた首輪の残骸を拾い上げて適当に影の中に投げ込む。

「専属契約。いでよスライフ!」

 手を前に突き出し、それっぽい掛け声をかけてみる。

「何だ?」

 オレの側からヌッとスライフが現れる。
 すごい。本当に呼びかけるだけで出るんだ。

「いや、なんか……呼んでみただけ」
「そうか。だが、遊び半分に呼んで欲しくはない」
「了解。試しただけさだよ。次回から気をつけるよ」
「くれぐれも頼む」

 スライフは困った様子で呟くと、ふわっと消えていった。

「遊んでないで、そろそろ皆さんを呼んだほうがいいと思います。思いません?」
「そうだね」

 部屋から外に出て、神官達を呼ぶ。
 最初に駆けつけたサイルマーヤが、部屋の中を見て「おぉ!」と声を上げる。

「短時間で、これほど見事に……さすがでございます」
「すごい、すごい」
「えぐみのある部分もしっかり取り除かれている。これなら、すぐに料理に取りかかれます」

 神官達の感嘆の声に、問題ないと後のことを任せ、紙を買いに行く。
 お礼状を書くため、ハガキサイズの紙をイメージしていたのだが、そんなちょうどいい大きさの紙は置いていなかった。

「大きさは、注文に応じて整えるもんだ」

 店のオヤジに言われて、ハガキ位のサイズを手で示して説明する。

「このくらいの大きさで、手紙に使いたいんです」
「手紙かぁ。うーん。そのぐらいの大きさの紙だと、小さすぎて筒には上手く収まらないな。紙を折り曲げるにも、ある程度の大きさが必要だからなぁ」

 店の主人が、手元から筒を取り出し説明してくれる。
 なるほど。
 この世界では、手紙を送る時に、ノアがもらったような筒に入れるのが一般的なのか。

「手紙を入れる筒は考えていませんでした。故郷では別の方法で送っていましたので」
「ふむぅ。異国では違うのか。ここじゃ、箱に入れたり。他に荷物を送るならそれに入れたりする以外は、筒だな。あとは、ちょいと違うがイレクーメ神殿にあるに文入れる小箱か」
「文入れる小箱ですか? どういったものか教えてほしいと思います」
「そうだなぁ。おおぅ。ちょうどいいところにイレクーメ神官が来られた」

 店の主人が、あごひげにやっていた手をパッと離し、胸元につけてオレの背後に向け頭をさげた。

「リーダ様に、カガミ様ではございませんか」

 振り返るとユテレシアが近づいてきているのが見えた。

「えっ。リーダ様?」

 ユテレシアの言葉を聞いて、店の主人が青ざめて深く頭を下げる。

「申し訳ございません。貴方が、リーダ様だと気付かず、無礼な態度をとりまして……」
「いえ。いいんですよ。私達はそれほど偉いわけではありません」

 何だろう。
 オレの身分は奴隷なのにそんなにかしこまられるとやりにくい。
 身分でいえば目の前にいる店の主人が上のはずだ。
 それにも関わらずこの態度。
 この世界の身分関係は、思っていたより複雑なのかもしれない。

「ありがとうございます。あのですな。ユテレシア様。今、まさにリーダ様に、文入れる小箱についてご説明をしようと考えていたところなのです」
「文入れる小箱を。そうですね。イレクーメ神殿では、お願いを込めて手紙を奉納します。その時に使うのが、文入れる小箱なのです。主人、一つ持ってきて頂けませんか?」
「はい! ただいま」

 そう言われて主人が厳かに持ってきたのはオレ達の世界でいう手紙を入れる封筒。
 大きさは洋風の横長サイズ。
 形もオレ達の世界にあるものそっくりなものだ。
 そこに、はがきサイズの手紙を入れる。
 オレ達がイメージしていたものそのものだ。

「偶然にも、ちょうどいいサイズの紙が見つかったな」

 しかも封筒もだ。

「そうですね。いいと思います」
「皆様は手紙を奉納されるのですか?」
「手紙を書いて送ろうと思っていたのです」
「では、その送る役目。私達がイレクーメ神殿が引き受けましょうか?」

 ユテレシアが、小さく笑いそう申し出てくれる。
 確かに誰かが手紙を送らなくてはいけない。
 お礼は、届かなくてはお礼とはいえない。

「それでは。お願いいたします」

 話はトントン拍子に進む。
 お礼状の紙。それを入れるための封筒。そして配達の手配までできた。
 普通なら、このような封筒を送ることはないそうだ。
 どうしても、手紙だけを封筒で送るとなると、別に木箱を用意してその中に入れるそうだ。
 そうなると郵送料金は跳ね上がるという。
 世界が変わると手紙の送り方も変わるのか。
 ユテレシアに、送り主をとりまとめた後で連絡すると伝え館へと戻る。
 館が見えてきた時にカガミが心配そうに呟く。

「今回の話、帝国へノアちゃんのお父さんに会いに行く事って……」
「あぁ」
「本当にノアちゃんとって良いことだと思います?」
「ノアは浮かれた様子じゃなかった。父親に会うことに何かの覚悟をしている。全てはノア次第だよ」
「そうですか」
「手紙の差し出し主、ノアの父親がどういう思惑であれ、オレ達は楽しみながら帝国を進もう。相手に思惑に引きずられて、オレ達までが嫌な思いすることはない」
「そうですね。それと、首輪のことは?」
「別に言わないよ。まぁ、スライフがいつでも呼び出せるようになったことは言うけどさ。かっこいいだろ」

 パッと手を前にふってポーズを取ってみせる。
 心配していたカガミだったが、オレの仕草に笑顔を見せ、小走りで館へと戻った。
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