371 / 830
第十九章 帝国への旅
ぎわくとたいさく
しおりを挟む
翌日の朝食が終わり、皆で小屋に向かう。
「どちらに行かれるので?」
ぞろぞろと外に出ようとするオレ達を見て、館の使用人が慌てて立ち塞がり声をかけてきた。
何でも無いように笑顔で答えることにする。
「あぁ、海亀の背にある小屋をちょっと整備しようかと思いまして」
「左様でございますか。何かあれは命じて下さい」
「えぇ。何かあれば、その時はお願いいたします」
適当な言い訳で、皆揃って海亀の背にある小屋へと入る。
「で、何の相談ですか?」
「昨日、一つ思ったことがあるんだが……」
「私もちょっと言いたいことがあってさ」
「んじゃ、ミズキさんからどうぞ」
「あのさ、ここ出ていかない?」
「どうしてですか?」
「なんか息苦しくて、監視されてるような感じがするんだよね。カガミはそう思わない?」
「多少は……」
「それはボクも思ったっス」
「ほら、リーダが昨日聞いてたじゃん、屋根が燃えてる建物のこと。宿って話だったでしょ?」
「そうだな」
「でね。せっかくだから観光がてらに見に行って、問題がなければ、そっちに泊まってしまおうかなと思ったわけ」
「なるほどな。ここは立派過ぎて逆に気を使ってしまうからな。ミズキ氏の考えは良いと思うぞ」
他の同僚たちも、ミズキの意見に賛成のようだ。
オレも異論はない。
「で、リーダは?」
「この館の人間に聞かれるのは不味いから、ちょっと大きな声では言えないんだが……」
「大丈夫ですよ。大きな声でも」
オレが声音を小さく語りだそうとすると、カガミが言葉を遮るように言った。
自信満々だ。
「いや、あんまり聞かれたくないんだけど……大丈夫って?」
「遮音の壁で覆ってるんです」
「魔法?」
「作ったんです。静かな環境で本を読みたいから。音が通らない壁を作ることができる魔法です」
本当にカガミは壁作る魔法が好きだな。
次から次へと、壁を作る魔法が増えていく。
「その音の通らない壁で覆ってるから、盗み聞きができないと?」
「えぇ。そういうことです。リーダの今朝の態度から、大事な話だとは思っていましたから。すぐに壁でこの部屋を覆いました」
なるほどな。
盗み聞き対策はばっちりできているいうことか。
「カガミの考え通りだ。今からする話はこの館の人には聞かれたくはない」
「で、リーダは何をいいたいん?」
「パルパランは、ロンロが見えている可能性が高い」
「えっ? 呪い子って事っスか?」
オレの一言に、同僚達は一様に驚いた表情を浮かべた。
ほんの些細な事だったからな。
いままで、ロンロを把握できたのは、呪い子とそれに付き従う侍従という存在だけ。
だから、パルパランが呪い子だという可能性はある。
しかし、オレは他の可能性も考えている。
この世界とは別の世界。
イ・アと名乗る女性が言っていた……王に仕える者達。
オレ達を殺すと公言していた彼女が放った刺客。
どちらにしろ、敵である可能性は高い。
「ロンロが見えてるって、なぜそう思ったんですか?」
「ここに来る間のやり取りだよ。さっきミズキが言った屋根が燃えてる宿のことだ」
「あの屋根が……どうしたんスか?」
「屋根は、そこまで大事じゃない。大事なのはあの話を聞いたときのことだ。オレは屋根が燃えているなんて一言も言っていない。ロンロが指差してあの屋根が燃えている建物だと言っただけだ」
「あぁ。そういうことか」
サムソンが小さく頷く。
多分、他の皆も気がついたとは思うが、オレは説明を続ける。
「にもかかわらず、パルパランはオレ達の方を見ることもなく、屋根が燃えている建物について答えた。つまりは、ロンロの声を聞いてないと、そんな回答はできないということだ」
「声が聞こえているということは、姿も見えていると?」
「あぁ。声だけを聞くことができた……ってのは考えにくい」
「確かにそうっスね」
「リーダはぁ、よく気がついたわねぇ」
「さらに、オレはパルパランは敵だと考えている」
「悪意はそれほど感じなかったのですが……うーん」
オレの言葉に、部屋の隅にいたヌネフが首を傾げる。
「悪意は感じないか……でも、それでもオレはパルパランに対する不信感を拭うことができない」
「どうしてですか?」
「オレは、こことは別の世界でイ・アという存在に会ったと言っただろう?」
「うん」
「あの時、あいつは言ったんだ。指示は送った。あいつの仲間がオレ達を殺すって」
「その仲間だと言いたいのか」
「そういうことだ。顔も声もまったく違うのに、何処か似てるんだよ。イ・アと」
そう。
オレはパルパランと初めて会った時、妙な既視感を抱いた。
会ったことがないのに……だ。
でも、今ならわかる、あの異世界であった存在イ・ア。
あいつと似ているのだ。
オレを見るときの目。
まるで物を見るような視線。
加えてパルパランはロンロを見ることが出来る。
「リーダの言う通りだと、全部を疑ってかかる必要があると思います。思いません?」
「だから、とりあえず今日はそのための行動をしようと思う」
「つまりは出ていくってことだよね?」
「あぁ。オレ達の情報を与えたくないからな。そして、パルパランの同行無しに帝国へと向かいたい。そのために、あいつの用意した館を出て行く」
「でも、いきなり海亀で出ると、怪しまれると思います。思いません?」
「そうだな」
「別に、怪しまれてもいいじゃん」
「いや、あやふやな状態にしておいた方がいいと思うぞ」
「そうなの?」
「だって、対策取られちゃうだろ」
「そうですね。限りなく怪しいとはいえ、まだ敵だと確定したわけではないですし……でも、ここ出て行きましょう」
とりあえず、皆にも理解は得られた。
こうしてオレ達は、パルパランの用意した館から出て行くことを決めた。
「どちらに行かれるので?」
ぞろぞろと外に出ようとするオレ達を見て、館の使用人が慌てて立ち塞がり声をかけてきた。
何でも無いように笑顔で答えることにする。
「あぁ、海亀の背にある小屋をちょっと整備しようかと思いまして」
「左様でございますか。何かあれは命じて下さい」
「えぇ。何かあれば、その時はお願いいたします」
適当な言い訳で、皆揃って海亀の背にある小屋へと入る。
「で、何の相談ですか?」
「昨日、一つ思ったことがあるんだが……」
「私もちょっと言いたいことがあってさ」
「んじゃ、ミズキさんからどうぞ」
「あのさ、ここ出ていかない?」
「どうしてですか?」
「なんか息苦しくて、監視されてるような感じがするんだよね。カガミはそう思わない?」
「多少は……」
「それはボクも思ったっス」
「ほら、リーダが昨日聞いてたじゃん、屋根が燃えてる建物のこと。宿って話だったでしょ?」
「そうだな」
「でね。せっかくだから観光がてらに見に行って、問題がなければ、そっちに泊まってしまおうかなと思ったわけ」
「なるほどな。ここは立派過ぎて逆に気を使ってしまうからな。ミズキ氏の考えは良いと思うぞ」
他の同僚たちも、ミズキの意見に賛成のようだ。
オレも異論はない。
「で、リーダは?」
「この館の人間に聞かれるのは不味いから、ちょっと大きな声では言えないんだが……」
「大丈夫ですよ。大きな声でも」
オレが声音を小さく語りだそうとすると、カガミが言葉を遮るように言った。
自信満々だ。
「いや、あんまり聞かれたくないんだけど……大丈夫って?」
「遮音の壁で覆ってるんです」
「魔法?」
「作ったんです。静かな環境で本を読みたいから。音が通らない壁を作ることができる魔法です」
本当にカガミは壁作る魔法が好きだな。
次から次へと、壁を作る魔法が増えていく。
「その音の通らない壁で覆ってるから、盗み聞きができないと?」
「えぇ。そういうことです。リーダの今朝の態度から、大事な話だとは思っていましたから。すぐに壁でこの部屋を覆いました」
なるほどな。
盗み聞き対策はばっちりできているいうことか。
「カガミの考え通りだ。今からする話はこの館の人には聞かれたくはない」
「で、リーダは何をいいたいん?」
「パルパランは、ロンロが見えている可能性が高い」
「えっ? 呪い子って事っスか?」
オレの一言に、同僚達は一様に驚いた表情を浮かべた。
ほんの些細な事だったからな。
いままで、ロンロを把握できたのは、呪い子とそれに付き従う侍従という存在だけ。
だから、パルパランが呪い子だという可能性はある。
しかし、オレは他の可能性も考えている。
この世界とは別の世界。
イ・アと名乗る女性が言っていた……王に仕える者達。
オレ達を殺すと公言していた彼女が放った刺客。
どちらにしろ、敵である可能性は高い。
「ロンロが見えてるって、なぜそう思ったんですか?」
「ここに来る間のやり取りだよ。さっきミズキが言った屋根が燃えてる宿のことだ」
「あの屋根が……どうしたんスか?」
「屋根は、そこまで大事じゃない。大事なのはあの話を聞いたときのことだ。オレは屋根が燃えているなんて一言も言っていない。ロンロが指差してあの屋根が燃えている建物だと言っただけだ」
「あぁ。そういうことか」
サムソンが小さく頷く。
多分、他の皆も気がついたとは思うが、オレは説明を続ける。
「にもかかわらず、パルパランはオレ達の方を見ることもなく、屋根が燃えている建物について答えた。つまりは、ロンロの声を聞いてないと、そんな回答はできないということだ」
「声が聞こえているということは、姿も見えていると?」
「あぁ。声だけを聞くことができた……ってのは考えにくい」
「確かにそうっスね」
「リーダはぁ、よく気がついたわねぇ」
「さらに、オレはパルパランは敵だと考えている」
「悪意はそれほど感じなかったのですが……うーん」
オレの言葉に、部屋の隅にいたヌネフが首を傾げる。
「悪意は感じないか……でも、それでもオレはパルパランに対する不信感を拭うことができない」
「どうしてですか?」
「オレは、こことは別の世界でイ・アという存在に会ったと言っただろう?」
「うん」
「あの時、あいつは言ったんだ。指示は送った。あいつの仲間がオレ達を殺すって」
「その仲間だと言いたいのか」
「そういうことだ。顔も声もまったく違うのに、何処か似てるんだよ。イ・アと」
そう。
オレはパルパランと初めて会った時、妙な既視感を抱いた。
会ったことがないのに……だ。
でも、今ならわかる、あの異世界であった存在イ・ア。
あいつと似ているのだ。
オレを見るときの目。
まるで物を見るような視線。
加えてパルパランはロンロを見ることが出来る。
「リーダの言う通りだと、全部を疑ってかかる必要があると思います。思いません?」
「だから、とりあえず今日はそのための行動をしようと思う」
「つまりは出ていくってことだよね?」
「あぁ。オレ達の情報を与えたくないからな。そして、パルパランの同行無しに帝国へと向かいたい。そのために、あいつの用意した館を出て行く」
「でも、いきなり海亀で出ると、怪しまれると思います。思いません?」
「そうだな」
「別に、怪しまれてもいいじゃん」
「いや、あやふやな状態にしておいた方がいいと思うぞ」
「そうなの?」
「だって、対策取られちゃうだろ」
「そうですね。限りなく怪しいとはいえ、まだ敵だと確定したわけではないですし……でも、ここ出て行きましょう」
とりあえず、皆にも理解は得られた。
こうしてオレ達は、パルパランの用意した館から出て行くことを決めた。
0
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない
あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理!
ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※
ファンタジー小説大賞結果発表!!!
\9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/
(嬉しかったので自慢します)
書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン)
変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします!
(誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願
※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。
* * *
やってきました、異世界。
学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。
いえ、今でも懐かしく読んでます。
好きですよ?異世界転移&転生モノ。
だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね?
『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。
実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。
でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。
モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ?
帰る方法を探して四苦八苦?
はてさて帰る事ができるかな…
アラフォー女のドタバタ劇…?かな…?
***********************
基本、ノリと勢いで書いてます。
どこかで見たような展開かも知れません。
暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる