召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十九章 帝国への旅

パルパラン

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 オレが、パルパランを見る度に感じる既視感。
 その正体を考えながら進んでいるときのことだ。

「あれぇ。何かしら」

 いつもの調子で、ロンロがオレからみて左側を指さしのんきな声をあげた。
 指さす方向をみるが、いくつも同じような建物が見えるばかりだ。

「あれって、どれ?」
「ほらぁ、あの屋根が燃えてる建物ぉ」

 あらてめてロンロが指さす方向を凝視する。
 少し離れた場所だったが、確かにビルにも似た建物の屋根が燃えさかっていた。

「あぁ。燃える屋根でございますか? あれはモルトールで一番有名な宿でございますよ」

 パルパランは振り返ることなく、なんでもないという風に言った。

「へぇ。すごいですね」
「燃える屋根。それが売りなのですよ。もっとも目立つばかりで、これから過ごしていただく館に、出来は比べるべくもございません。同じような建物ばかりのモルトールでは、あれが一番見栄えがいい。見栄えだけですが。では、わたくし支度などがございますので、数日の間、ごゆるりとお過ごしくださいませ」

 燃える屋根の宿について、少しだけ言及している間に、館へと到着した。
 オレ達を案内すると、すぐにパルパランは去っていった。
 その館は3階立ての立派なもので、オレ達には十分すぎるほどに広く、たくさんの使用人がいた。

「何不自由なくお過ごしできるようにと仰せつかっています。なんなりとお申し付けください」

 食事の準備などもテキパキと準備をしてくれていた。
 だが、いろいろとオレ達と彼らでは考え方が違う。
 悪気がないのは分かっているが、彼らはとても身分関係に厳格だったのだ。
 序列をきっちりとつけてくる。
 ノアが一番立派な食事。次にオレと同僚達。そして最後に、獣人達3人。
 特に獣人のテーブルは違う部屋に用意されていた。
 それも簡素な部屋。
 というわけなので、いちいちお願いして料理なども揃えてもらうことにした。
 意外な事を言われたという風であったが、オレ達はいちいち身分で処遇を分ける気はないのだ。

「ちょっと疲れちゃうよね」

 食後、ミズキが小声で言った。
 待遇は良いが、堅苦しい。
 息が詰まる感じだ。
 とはいうものの、せっかくだ。
 情報収集もかねて、館の使用人に色々と聞くことにする。

「これから帝国に行くとしたら、どのようなルートがあるんでしょうか?」
「左様でございますな。北回りと南回りという二つの道が一般的でございます」
「二つの道ですか?」
「ただし、そうですね……今年は、もしかしたら、冬が来るのが早いかもしれません。そうなると、どちらの道を通っても帝国に着く前に、雪によって道が閉ざされてしまうやもしれません」

 確かに、異常気象が続いている。
 もしかしたら所々で壊れている月の道のせいなのかもしれないなと最近は思う。
 だが、理由はどうであれ、予測できないのは少し面倒くさい。

「もうそんな季節なのですか? どうも季節に疎くて」
「そろそろ収穫祭。収穫祭がすぎれば、急に寒く冷え込みますので、雪が降ることもないとは言えません」
「そうですか」

 北回りと、南回り。
 2つの道か。
 どちらがいいのだろうか……。

「パルパラン様はもしかしたら中央の道を行かれるかもしれません」
「中央の道?」
「魔神の塔があるので、そこには街道はございませんが、丘陵地帯をまっすぐ東に抜けていくと、帝国にさほど時間をかけずに到着することができます」

 なるほど。
 北回りでも、南回りでもなく、まっすぐ行くということか。
 街道が無いということは町もないのだろう。
 そうなると、よっぽど準備をしないと進めないが、準備さえしてしまえば問題ないと。
 幸いオレ達には海亀の小屋がある。
 そしてオレの影の中にはいっぱいの備蓄品。
 そうであれば、この中央ルートが一番問題ないのではないかと思う。
 とりあえず必要な情報が得られた。
 この館の待遇には、どうしても慣れない。
 居心地が悪い状態が続くというのは嫌だな。
 館の人は悪気があるわけではないのだろうが、長居したくない。
 オレ達は、帝国までの行き方がわかれば、いつでも出ることができる。
 結局はパルパラン次第だ。
 というより、パルパランの準備を待つことなくオレ達だけで出発してもいいかもしれない。
 そのためには、もう少し中央ルートについて情報収集が必要だな。
 そういえば、パルパランだ。
 彼はオレ達が到着するのが早いと言っていた。
 早い印象はなかったが、彼の認識はそうだったのだろう。
 寄り道をしたはずなのに、早いか……。
 パルパランは新年を帝国で迎えて欲しいと言っていた。
 となると、中央ルートしかなさそうだ。
 そして、中央ルートに行くとしたら、準備が大変なのだろう。
 特に、あの身なりだ。贅沢な旅をしようと考えて、十分すぎるほどの準備をしそうだ。
 それにしても、どうにも彼の態度に違和感を抱く。
 何かが引っかかる。
 休む時になって、ふと思い出すことがあった。

「あいつ……ロンロのことが……?」

 今日の出来事を考えていたとき、小さな気づきがあった。
 それは、ほんの些細な出来事だが、気付いてしまうと不安になってくる。
 オレの勘が告げている。
 警戒しろと。
 パルパランを警戒しろと。
 彼と一緒に行くのは危険かもしれない。
 しばらく考えた後、そう結論をつけた。
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