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第十九章 帝国への旅
けんりょくしゃ
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「徴税官吏とうかがっています」
「そうだ!」
どうしよう。
権力を笠に着て、オレ達に要求しているわけだ。
よくよく考えるとオレ達は奴隷階級だから、もう少しへりくだった方が良かったかな。
だけど、オレに仲間を売る要求に屈するつもりはない。
ふと、彼の後をみると、めんどくさそうな兵士と、オロオロしている役人の姿が見えた。
なんだかアレなら、なんとでもなりそうだな。
最悪、逃げるかな。
「えぇと、その徴税官吏様は、税の取り立てでこちらに来られたのですよね?」
落としどころが思いつかないので、話だけつなぐことにした。
「そうだ。税の取り立てだ! 税金を払え!」
オレの言葉に、すごい勢いで徴税官吏は食いついてきた。
ブンブンと手を振り、オレを何度も指を指しながら声をあげる。
「通行税ということでしょうか?」
「うん。そうだな。そうだ、通行税だ!」
思いつきのような言葉。
本当に彼が徴税官吏なのか、怪しく思えてきたが、周りの住人たちの態度を見ると本物なのだろう。
「通行税は、いくらになりますか?」
「では、通行税1人金貨1枚だ! お前たちが何人いるかはもう捨て調べがついておる。奴隷も金貨1枚。お前達は人が1人に、奴隷8人。金貨9枚だ!」
高い。
おかしいだろ。高すぎる。
この世界の金銭感覚がどうにもつかめない。
「どうした! 金貨だ! 払えぬのか!」
ぼんやり考え事をしていたオレに向かって、徴税官吏は改めて通行税を払えと催促してきた。
めんどくさい。
だが、お金で解決するならしょうがない。
何と言ってもピッキー達の故郷だ。穏便に済ませたい。
気を取り直し、金貨を9枚ほど取り出す。
「おぉ!」
チャリチャリと手の平で金貨を数えていると、取り巻いていたやる気のない兵士から歓声が上がった。
ちらりと見ると、もう野次馬って感じだ。
仕事をやっている様子ではない。
加えて遠巻きで見ていた村長が、両手を口にやってオロオロしている様子が見えた。
「では、9枚。金貨9枚です」
そう言って、オレが金貨を徴税官吏に渡そうとしたとき、異変に気がついた。
顔が真っ赤だ。
怒りに震えているのが一目でわかる。
あれ? オレ、何かしたっけ。
税金を要求されて、払おうとしただけだ。
落ち度はない。
「もうよい! お前ら! こやつらを、このけったいな亀の背から引っ張り出せ!」
そして、徴税官吏は後を振り向き大声をあげた。
兵士達は、その言葉を聞いて、槍を構えながらゆっくりこちらへと向かってくる。
村への入り口をわざわざ開けて、包囲をとっている様子から、逃げろと言っているようにも見える。
顔つきや、武器の構えからも、やる気のなさが感じられる。
馬に乗っていない他の役人も、あからさまに「えっ」とか驚きの声をあげていた。
だが、上司の命令に、面と向かって逆らうわけにもいかないようだ。
ゆっくりと遠巻きに、槍を構えながら近づいてくる。
というか、こんなのと戦いたくないよ。
兵士の一人と目が合う。
戦いたくないよと目が訴えている。
「税は払うと伝えました。それに、サルバホーフ公爵閣下より、許可も頂いております」
よくよく考えたら、偉い人から許可がでているのだった。
主張しない手はない。
戦えば勝てそうだし、逃げるのも可能だろうけれど、穏便に済ませたいのだ。
というわけで、前にもらった許可の話を持ち出すことにした。
キユウニでは、オレ達が言う前に向こうが判断してくれた。
公爵の指示は生きているのは間違いない。
「サル……サルバホーフ? 公爵閣下だと?」
徴税官吏はオレの言葉を聞いて、大きく体をのけぞらせた。
そして、馬から落ちそうな形になり、慌てて側にいた役人に支えられる。
なんか周りの人が可愛そうになってきた。
ダメな上司のフォローが大変そうだ。
「嘘を言ってもすぐバレるんだぞ!」
「嘘ではございません!」
「いや! 嘘だ。嘘にきまっておる」
今にもつばが飛んできそうな勢いで、徴税官吏がまくし立てる。
もうこの状況は改善しない気がしてきた。
逃げるかな。
そう思っていたとき、パッと空が暗くなった。
兵士が上を見上げた。
オレもつられるように上を見る。
そこには船が飛んでいた。
空飛ぶ帆船だ。
ケルワテで見たやつだ……飛行船。
あの時よりもずっと小さいが、飛行船には間違いなさそうだ。
そこから1人の男が飛び降りてきた。
茶色い巻き毛の男。
身なりの良さから貴族なのだろう。
腰には小さい短剣がさしてあり、手には大きな弓を持っていた。
「何かあったのかい?」
男は地面に着地するとポンポンと自分の胸元を叩き、服のシワを伸ばしながら、徴税官吏へ問いかけた。
徴税官吏は彼をしばらくぼーっと見たあと、すぐに馬から飛び降り頭を下げた。
「これはこれは、ノーズフルト様! この者達が揉め事を起こしまして、はい。その、はい。尋問をしていたところでございます」
「そうか。尋問か」
「この者は、ここ一体の農地に関する徴税を受け持っている者でございます。今はちょうど育ちの季節。収穫前の検分をしているのでしょう」
ノーズフルトと呼ばれた茶色い巻き毛の男のあとに、ロープを使って降りてきた女性が、補足するように言う。
それを聞いた茶色い巻き毛の男……ノーズフルトは、笑顔で頷いた。
「税務で、尋問を? 彼らは領民ではないだろう?」
「はは、僭越ながら、はい。私めに賄賂を渡してきたのでございまして」
「賄賂を? 何が目的なんだろう?」
「そ、それは」
徴税官吏は、突然やってきたノーズフルト相手に口ごもる。
彼は、お偉いさんのようだ。
周りの役人も、そして兵士達もしゃがみ込み頭を下げている。
オレも下げたほうがいいのかな。
でも、誰かわからないし……。
話はオレ達を置いて進む。
「で、その賄賂は、君が持ってるのかい?」
「えっと、まだこれから貰うところでして……はい」
「賄賂を? これから?」
「あっ、いえ、それが……」
尋問され、墓穴を掘るというか、自分から墓穴を掘り進めている。
徴税官吏が答えられなくなるのを見て、ノーズフルトは声を上げて笑った。
「アッハッハッ。しょうがない。今日は、この場を私に預けてくれないかな?」
「ええ。もちろんでございます」
「よかった。では、君は仕事に戻りたまえ」
そう言って徴税官吏をノーズフルトは追い払った。
とりあえずは助かったようだ。
しばらく逃げるように去って行く徴税官吏一行を眺めた後、ノーズフルトは振り向き、オレを見た。
「貴方の主は、ノアサリーナでは?」
「えぇ」
「やはり! では、急な申し出になりますが、私が預かると言った手前、一緒に来てもらいましょうか」
「どこへでしょうか」
「フラタナ。ここから一番近い町までですよ」
オレ達を徴税官吏から助けてくれたノーズフルトは、こともなげにそう言った。
「そうだ!」
どうしよう。
権力を笠に着て、オレ達に要求しているわけだ。
よくよく考えるとオレ達は奴隷階級だから、もう少しへりくだった方が良かったかな。
だけど、オレに仲間を売る要求に屈するつもりはない。
ふと、彼の後をみると、めんどくさそうな兵士と、オロオロしている役人の姿が見えた。
なんだかアレなら、なんとでもなりそうだな。
最悪、逃げるかな。
「えぇと、その徴税官吏様は、税の取り立てでこちらに来られたのですよね?」
落としどころが思いつかないので、話だけつなぐことにした。
「そうだ。税の取り立てだ! 税金を払え!」
オレの言葉に、すごい勢いで徴税官吏は食いついてきた。
ブンブンと手を振り、オレを何度も指を指しながら声をあげる。
「通行税ということでしょうか?」
「うん。そうだな。そうだ、通行税だ!」
思いつきのような言葉。
本当に彼が徴税官吏なのか、怪しく思えてきたが、周りの住人たちの態度を見ると本物なのだろう。
「通行税は、いくらになりますか?」
「では、通行税1人金貨1枚だ! お前たちが何人いるかはもう捨て調べがついておる。奴隷も金貨1枚。お前達は人が1人に、奴隷8人。金貨9枚だ!」
高い。
おかしいだろ。高すぎる。
この世界の金銭感覚がどうにもつかめない。
「どうした! 金貨だ! 払えぬのか!」
ぼんやり考え事をしていたオレに向かって、徴税官吏は改めて通行税を払えと催促してきた。
めんどくさい。
だが、お金で解決するならしょうがない。
何と言ってもピッキー達の故郷だ。穏便に済ませたい。
気を取り直し、金貨を9枚ほど取り出す。
「おぉ!」
チャリチャリと手の平で金貨を数えていると、取り巻いていたやる気のない兵士から歓声が上がった。
ちらりと見ると、もう野次馬って感じだ。
仕事をやっている様子ではない。
加えて遠巻きで見ていた村長が、両手を口にやってオロオロしている様子が見えた。
「では、9枚。金貨9枚です」
そう言って、オレが金貨を徴税官吏に渡そうとしたとき、異変に気がついた。
顔が真っ赤だ。
怒りに震えているのが一目でわかる。
あれ? オレ、何かしたっけ。
税金を要求されて、払おうとしただけだ。
落ち度はない。
「もうよい! お前ら! こやつらを、このけったいな亀の背から引っ張り出せ!」
そして、徴税官吏は後を振り向き大声をあげた。
兵士達は、その言葉を聞いて、槍を構えながらゆっくりこちらへと向かってくる。
村への入り口をわざわざ開けて、包囲をとっている様子から、逃げろと言っているようにも見える。
顔つきや、武器の構えからも、やる気のなさが感じられる。
馬に乗っていない他の役人も、あからさまに「えっ」とか驚きの声をあげていた。
だが、上司の命令に、面と向かって逆らうわけにもいかないようだ。
ゆっくりと遠巻きに、槍を構えながら近づいてくる。
というか、こんなのと戦いたくないよ。
兵士の一人と目が合う。
戦いたくないよと目が訴えている。
「税は払うと伝えました。それに、サルバホーフ公爵閣下より、許可も頂いております」
よくよく考えたら、偉い人から許可がでているのだった。
主張しない手はない。
戦えば勝てそうだし、逃げるのも可能だろうけれど、穏便に済ませたいのだ。
というわけで、前にもらった許可の話を持ち出すことにした。
キユウニでは、オレ達が言う前に向こうが判断してくれた。
公爵の指示は生きているのは間違いない。
「サル……サルバホーフ? 公爵閣下だと?」
徴税官吏はオレの言葉を聞いて、大きく体をのけぞらせた。
そして、馬から落ちそうな形になり、慌てて側にいた役人に支えられる。
なんか周りの人が可愛そうになってきた。
ダメな上司のフォローが大変そうだ。
「嘘を言ってもすぐバレるんだぞ!」
「嘘ではございません!」
「いや! 嘘だ。嘘にきまっておる」
今にもつばが飛んできそうな勢いで、徴税官吏がまくし立てる。
もうこの状況は改善しない気がしてきた。
逃げるかな。
そう思っていたとき、パッと空が暗くなった。
兵士が上を見上げた。
オレもつられるように上を見る。
そこには船が飛んでいた。
空飛ぶ帆船だ。
ケルワテで見たやつだ……飛行船。
あの時よりもずっと小さいが、飛行船には間違いなさそうだ。
そこから1人の男が飛び降りてきた。
茶色い巻き毛の男。
身なりの良さから貴族なのだろう。
腰には小さい短剣がさしてあり、手には大きな弓を持っていた。
「何かあったのかい?」
男は地面に着地するとポンポンと自分の胸元を叩き、服のシワを伸ばしながら、徴税官吏へ問いかけた。
徴税官吏は彼をしばらくぼーっと見たあと、すぐに馬から飛び降り頭を下げた。
「これはこれは、ノーズフルト様! この者達が揉め事を起こしまして、はい。その、はい。尋問をしていたところでございます」
「そうか。尋問か」
「この者は、ここ一体の農地に関する徴税を受け持っている者でございます。今はちょうど育ちの季節。収穫前の検分をしているのでしょう」
ノーズフルトと呼ばれた茶色い巻き毛の男のあとに、ロープを使って降りてきた女性が、補足するように言う。
それを聞いた茶色い巻き毛の男……ノーズフルトは、笑顔で頷いた。
「税務で、尋問を? 彼らは領民ではないだろう?」
「はは、僭越ながら、はい。私めに賄賂を渡してきたのでございまして」
「賄賂を? 何が目的なんだろう?」
「そ、それは」
徴税官吏は、突然やってきたノーズフルト相手に口ごもる。
彼は、お偉いさんのようだ。
周りの役人も、そして兵士達もしゃがみ込み頭を下げている。
オレも下げたほうがいいのかな。
でも、誰かわからないし……。
話はオレ達を置いて進む。
「で、その賄賂は、君が持ってるのかい?」
「えっと、まだこれから貰うところでして……はい」
「賄賂を? これから?」
「あっ、いえ、それが……」
尋問され、墓穴を掘るというか、自分から墓穴を掘り進めている。
徴税官吏が答えられなくなるのを見て、ノーズフルトは声を上げて笑った。
「アッハッハッ。しょうがない。今日は、この場を私に預けてくれないかな?」
「ええ。もちろんでございます」
「よかった。では、君は仕事に戻りたまえ」
そう言って徴税官吏をノーズフルトは追い払った。
とりあえずは助かったようだ。
しばらく逃げるように去って行く徴税官吏一行を眺めた後、ノーズフルトは振り向き、オレを見た。
「貴方の主は、ノアサリーナでは?」
「えぇ」
「やはり! では、急な申し出になりますが、私が預かると言った手前、一緒に来てもらいましょうか」
「どこへでしょうか」
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