召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十八章 未知への道は皆で

しゅっぱつしんこう

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 ノアは、父親と名乗る手紙の差出人に、会いに行く決心をした。
 向かう先は、帝国。
 ギリアから遙か東にあるという国へと、皆で向かう。
 方針が決まれば、準備の開始だ。
 チッキーは、トッキーとピッキーにトーク鳥を飛ばし連絡をとった。
 他の同僚達も、各自ができることをする。
 サムソンは、旅の途中でも魔法陣の解析をすべく、解析に必要な魔導具作りを進める。
 地下室の魔法陣は、ブラウニー共の協力によって紙に描き写すことができた。
 だが、これは超大型魔法陣を解析するための第一段階にすぎない。
 次は、パソコンの魔法に魔法陣を取り込み、プログラム言語への変換作業を進めることになる。

「ドキュメントスキャナのような、自動的に大量の魔法陣を取り込めるような魔導具を作ろうと思う」

 サムソンには構想があるようだ。
 ドキュメントスキャナは、コピー機みたいに、大量の紙をセットして、ガシャコンガシャコンと音を立てながら一枚ずつ紙を読みこんで、パソコンに画像として取り込む機械だったはずだ。
 確かに、実現すれば効率よく作業を進めることができる。
 魔法陣解析については、当面サムソンに任せようと思う。
 プレインや、カガミにミズキも、旅の準備に大忙しだ。
 それぞれ動く皆に後を任せ、ノアの決心を聞いた翌日の早朝、ギリアの町へと向かった。
 オレのやることは2つ。
 1つはノアの決心、つまりは手紙の差出人に会いに行くという返事を、差出人の使いへと伝えること。
 2つめは、借金についてだ。
 しばらく返済が滞ることを領主に伝え、了承を得なくてはならない。
 元本だけは返済したかったが、ノアの決心に水を差すことはしたくない。
 屋敷を出発したのは早朝だったが、到着したころには、昼前になっていた。
 やっぱり屋敷と町は距離がある。

「さっさと、1つ目を片付けるか」

 ギリアにある高級宿、暁の白土へと向かう。
 そこで待っていたのは1人だけだった。確か、ジャルミラと名乗っていたな。

「よくやった。褒美をやろう」

 報告したら、とても嬉しそうな笑顔でそう言われた。
 そして、彼女は褒美と称して小さな小袋をオレの足下へと投げた。
 小さな宝石が、小袋から数個こぼれ落ちる。
 褒美というより、恵んでやるという感じだ。
 ここで喧嘩してもしょうがないので、とりあえず拾いあげる。

「それで、案内をしていただけると手紙にはありましたが?」
「そのつもりだったが、事情が変わった。ここから東へと進み国境の町アウントホーエイまで、お前達だけで進みなさい」
「そこから先は?」
「別の者を手配しておく」
「その国境の町までの道は?」
「それぐらい調べなさい」

 あわただしく部屋を追い出されるように立ち去ることになった。
 彼女の背後にある部屋の様子は、ガランとしていた。
 そして彼女も旅支度を取りまとめていた様子だったので、帰る直前だったのかもしれない。
 ともかく、手紙の返事を伝え、目的地も定まった。
 ついでに、あんな感じの悪い奴らと一緒に旅しなくて良かったとホッとする。

「次は領主だな」

 これから領主との交渉が待っている。
 返済をしばらく待って欲しいと頼むためだ。
 いきなり返済ができないと言うことになるため、上手くいくか不安になったが、それは杞憂だった。

「しばらく、返済できない……それで、理由は?」

 領主の代わりとして面会してくれたフェッカトールがオレにそう尋ねる。
 理由を聞くのはもっともなことだ。
 想定していた質問だったので、よどみなく答える。

「はい。急用ができまして、遠くにある国まで行かなくてはならないのです」
「遠い国?」
「イフェメト帝国へ」

 嘘をつく気はない。
 領主も、このフェッカトールという人も、そんなに悪い人ではない。
 ごまかさず誠実に頼めば、理解してくれると思い、正直に伝える。

「そうですか、イフェメト帝国に。分かりました。返済を待ちましょう」

 だからと言って一から十まで伝える気はない。
 ということで、情報を小出しにするつもりだったが、イフェメト帝国に行くと言っただけで、フェッカトールは了承してくれた。

「ありがとうございます」

 あまりにもあっさりと了承してくれたので、肩すかしをくらう。
 いろいろ考えていた想定問答も、無駄にはなったが、簡単に話がついて嬉しい。
 領主にも、フェッカトールから話をしてくれるらしい。

「ただし条件があります」
「条件ですか?」
「こちらは、あなた方の返済を待つ訳ですから、少なくともあなた方が逃げないという保証をいただきたい」
「保証と、言われますと?」
「そうですね。まずは帝国までのルート、これは私どもが決めましょう」

 それは願ったりかなったりだ。
 道がわからなくて、これから調べようと思っていた。

「わかりました」
「なおかつ手紙を定期的にいただきたい」

 それもしょうがない。
 居場所を把握したいということだろう。
 借金踏み倒して逃げる可能性も考えるだろうしな。

「それは構いませんが……」
「もちろん。ヨラン王国にいる間だけです。イフェメト帝国に行けば、ヨラン王国への手紙を出すだけでも苦労するでしょう」

 なんだか、理想的に話が進む。
 理想的すぎて怖い。
 裏があるのではないかと考えてしまう。
 だけど、今までの提案はどれも悪い話ではない、贅沢は言ってられないので話に乗ることにした。
 フェッカトールは、几帳面な性格のようだ。
 細かいところを詰めた後、契約書を改めて作成し直した。
 思った以上に時間がとられ、全てが終わったときには夕方だった。
 だが、それに見合う成果があった。

「これは?」

 イフェメト帝国までのルートを描いた地図に加え、小箱を受け取る。

「中には金貨が500枚ほど入っています。路銀の足しにしてください」
「えっと、ありがとうございます。もしかして……これは貸し?」

 金貨500枚を急に渡され、あの借金を思い出し、警戒する。

「いえいえ。違いますよ」
「えっと、何のためにここまでしてくださるのでしょうか?」
「お金がないと手紙は送れませんし、それに月への道の修復に関する追加報酬だと考えてもらって構いません」
「しかし、前回、成功報酬もらったはずですが?」
「こちらの予想を超えた理想的な解決でした。なので当初予定したよりも良い結果を出していただいた分、報酬に上乗せしようかと。これは私の独断ですが……」

 特に断る理由もないので、予想外の報酬としてありがたく頂き、城を跡にした。
 これから屋敷に戻ると真夜中になるので、宿で一泊することにした。
 せっかくだからと、レーハフさんの所へと向かう。

「おいらたちも、一緒にいきます」
「親方も、がんばれって言ってくれました」

 トッキーとピッキーの2人も、旅に出ることを決心してくれていた。
 加えて、レーハフさんも、2人の決断を応援してくれていた。
 チッキーからのトーク鳥を受け取ってすぐに、トッキーとピッキーは、師匠であるレーハフさんに話をしたようだ。

「これは?」

 2人は大きな木箱を受け取っていた。

「はい、親方からです」
「それはな、宿題だ」

 後でオレ達の会話を聞いていたレーハフさんが、箱の中身を説明してくれる。

「小僧どもが、旅先でもきちんと大工仕事の修行ができるように、宿題を取りまとめておいたものだ」
「そこまで、していただけるなんて」
「いやいや。わしも、最近はほとんど小僧共の面倒を見きれなかった。これから更に忙しくなる予想ができとったんで、事前に準備しておったものが役に立つだけじゃ」
「そうですか。ありがとうございます」

 木箱2つ分の宿題を有り難く頂く。
 翌日も、その翌日も、準備を進めた。
 バルカンに家畜の世話をお願いし、必要な物資を買いそろえた。
 皆が優しく協力的なこともあって、10日もしないうちに準備が終わった。

「必要なものは、大丈夫?」
「大丈夫でち」
「まぁ、あれだ。足りないものがあれば、途中の町で買えばいいと思うぞ」
「そうっスね」

 サムソンの言う通りだ。
 当面は、国内旅行。
 フェッカトールが言うには、道も整備されているという。
 苦労することはなさそうな、快適な旅が待っているわけだ。

「いきます。出発進行!」

 ピッキーが元気な声で出発を告げる。
 こうして、春の始まりとともにギリアに戻ったオレ達は、夏の始まりとともに帝国へ向けての出発をすることになった。
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