召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十八章 未知への道は皆で

しごとかんりょう

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「じゃあ、この地図も写した方がいいっスね」

 白い祠にあった白い板。
 いろいろと書き込んである白い板。
 そこに書いてるものに皆が興味をそそられ、全部調べようということになった。
 どれも簡単に取り外せるようになっている。
 A3サイズくらいの真っ白い板。
 壁面の天井近くに、まるで絵画のように、かけられている白い板を取り外し、床に置いてサッと読んでいく。

「持って行く?」
「うーん。でも人の物だしな」
「増やす?」
「あのね。遺物ってなってるよ」
「おっ、ノアノア。看破を使ったな。やるじゃん」
「うん」
「遺物か。しょうがない、伝家の宝刀を使おう。写すのも、憶えるのも面倒だ」
「どうせ、1円玉使うんでしょ?」
「そうなんだけどさ」

 遺物を増やすには、進化した遺物。
 つまり、オレが元の世界から持ち込んだ財布の中の小銭が役に立つ。
 別にオレの小銭でなくてもいいのだけれども、こういう時に小銭を財布にたんまり貯めていた自分の性格が幸いする。

「今日は10倍でいこう。大盤振る舞いだ」
「10円玉っスね」

 10円玉を使って遺物である石盤を増やしていく。
 白い板は、意外とお値打ちものだようだった。
 全部重ねて、まとめてポンと、一気に複製しようとしたが、触媒が足らなかったようで失敗した。
 結局、10円玉を何枚か積み重ねて、なんとかした。
 白い板を複製するために、80円も使った。
 もっとも財布の中には小銭がジャラジャラ大量にある。
 全然痛くも痒くもない、むしろ財布がスリムになって気分がいい。

「さて、この白い板は、後でじっくり読むことにしよう」
「そうだな。まずは仕事だ。修復作業を始めよう」

 皆で手分けして、扇形の石版を外へ持ち出す。
 それから、白い祠の隙間にミズキが剣を差し込み持ち上げる。
 予想通り、側面から剣を差し込むと、扇形に床が外れた。

「簡単に外れたっスね」

 後は全部の板を外して、新しいものと入れ替えるだけだ。
 10個のピースから成り立つパズルだ。
 ちょろいちょろい。
 何の苦労もなしに全てのパーツを埋め終える。
 すると、祠全体が、小さく光り、静かに地中に潜っていく。
 ほどなく、オレ達が最初に訪れた時のように、白い円形の床と、その中央に白い柱が立つだけの景色にも取った。

「これでオッケーだよね。で、どうやって起動するの?」
「さぁ」
「じゃあ、ちょっと調べてみるか」

 そう言ったと、ほぼ同時。
 中央の石柱がぐにゃり歪むようにクネクネと動き。
 柱から手が伸びてきた。
 真っ白く大きな手。
 次に頭。
 柱から浮き上がるように、トロールがぬるりと出てきた。
 祠の中にはいた真っ白いトロールだ。
 音をたてずトロールはミズキに近づいたかと思うと、ミズキを抱え上げて、ぽぃと軽く月への道の外へと投げた。
 あっけにとられたオレが、次に掴まれ投げられる。
 オレとミズキが投げ出されたのを見て、皆が床から飛び出して、茶色い地面に逃げる。

「よかった。向かってこないようです」

 ホッとした様子の、カガミが言ったように、白いトロールは特にオレ達を追いかけることはなかった。
 柱の周りをくるりと一周した後は、仁王立ちになって動きを止めた。
 次に白い床全体がふわりと白く光る。

「起動を始めたようだぞ」

 サムソンがのぞき込むようにして、月への道を見た後に言った。

「あのね。月への道、危険なので離れるようにって出るよ」
「それって、看破の魔法でみたの?」
「うん」
「ほんとだ、月への道、危険。そう表示されているな」
「へぇ」
「じゃあ、もう大丈夫っぽいね」

 後はヘイネルさんに確認してもらおう。

「そうっスね」
「それにしても、あっという間に終わったぞ」
「あんまり期待してなかったようだから、上手くいったって言ったらビックリするよね?」
「もちろん、しかも、成功報酬がもらえる仕事だ」
「よかったね」

 一仕事を終えた充実感を味わいつつ、のんびり帰る。
 月への道の修復はできたわけだし、成功報酬を貰えるだろう。
 半日足らずの労働で、金貨1000枚。
 とても割りのいい仕事だった。
 村長の家に戻ると、ヘイネルさんは優雅にお茶を飲んでいた。
 いや、違うか。お酒の匂いだ。
 お茶ではない、ひどく薄めたお酒だ。
 ギリアの近辺では、お茶の代わりにひどく薄めたお酒を飲むんだった。
 最近はお茶ばかり飲んでいたので、そういうことも忘れてしまっていた。

「どうかね」

 帰ってきたのを見て、ヘイネルさんから尋ねられる。

「えぇ。月への道の修復は終わりました」
「ふむ……。仕方が……ん、ゴホゴホッ」

 驚きのあまり、むせてしまったようだ。
 咳き込んでいる。
 こういった素直な驚きを見ると、少し嬉しくなる。

「大丈夫……ですか?」
「問題ない……が、終わった?」
「はい、確認されますか」
「至急確認させていただこう。同行はリーダ殿だけでいい」

 そう言われてオレだけが、ヘイネルさんに同行して、月への道に向かうことになった。

「確かに、完全な状態だ。だが、そう、だが、まだ半日も経っていないな」
「えぇ」
「一体どうやったのだ?」
「えっと、月への道。この舌は祠になっているのです」
「祠?」
「はい。つまり月への道、この下には小部屋があります」
「ふむ。続けたまえ」
「そして小部屋の中には、代わりとなる部品があったのです」
「部品?」
「左様です。月への道が破損した時のために、代わりとなる部品が中に収められているということです。私どもは、月への道の床を外し、代わりの床に取り替えたという次第です」
「祠の中にはどうやって入ったのかね?」
「今回は、ノームに持ち上げてもらいました」
「ノーム? 精霊の……ノームかね?」
「はい」
「リーダ殿が、精霊を?」
「私がというわけではありませんが、精霊にお願いすることはできます」
「ふむ。そうか。確かに月への道は完全に回復している。もうここには用はない。では戻ることにしよう」
「そうですね。ちなみに月への道に護衛を置いたりはしないのですか?」
「本来は必要にはならない。だが、今回のようなことがあったのだ。村長に見張りを立てるように命じておこう」

 それで話は終わり。
 ヘイネルさんは先に戻ると言って、兵士を連れて村から立ち去った。

「ふひぃ。お偉いさんの相手は、とても疲れるものですな」

 村長さんは、ヘイネルさんが去っていった後、そんなこと言って笑った。

「では皆さんは、ごゆっくりして下さい。1日と言わず数日いてもらっても、全然構いませんぞ」

 そんな嬉しい申し出をしてくれた。
 最も長居するつもりはない。
 今日一晩泊めてもらい、翌日には出発するつもりだ。
 その日は鹿の丸焼き。
 お偉いさんをもてなすということで、今日も豪勢なご馳走を準備していたということだった。
 ただ、ヘイネルさんが帰ったので、それらの料理はオレ達が頂く。
 村長さんじゃないが、お偉いさんとの食事よりかは、皆でワイワイと食べる方がいい。
 村人達の精一杯の御馳走に舌包みをうち、充実した1日は終わった。
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