召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十八章 未知への道は皆で

きらびやかなてがみ

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 玄関から表へ出る。
 念のために、ハロルドの呪いを解いてもらう。
 馬に乗った3人の女性。
 門の前で、様子をうかがっていたのは3人の女性だった。
 全員身なりがいい。
 多分、貴族とその従者なのだろう。

「出迎え、ご苦労」

 警戒しつつ近づくと、馬に乗ったままの、女性の1人がオレを見て声をかけてきた。

「いえいえ。何かご用でしょうか?」
「ここはノアサリーナの屋敷で間違いないな?」
「左様です。お嬢様に何かご用でしょうか?」

 返答したオレを見た後で、女性は後ろの2人と、二言三言、言葉を交わしてオレに向き直った。

「あぁ。まぁ、いいか。お前でいいだろう」

 そして、胸元から、小さな筒を取り出す。
 それを投げるようにオレに渡してきた。
 黒い木製の筒。
 小さめだが、卒業証書などは入れるような筒に似ている。

「これは?」
「さる方から、ノアサリーナに宛てた手紙だ。お前は、主に手紙を見せ、よい回答を得るように努めなさい。私は、ジャルミラ。私を含め全員が、一月程ギリアにある暁の白土という宿に滞在する」

 馬から降りることなく、一方的に命令口調でまくしたてる。
 もっとも、オレの身分は奴隷階級なのでしょうがないだろう。
 物言いから相当身分が高そうだなと思った。

「返答や質問がある場合は、我らを訪ねてくるがいい」

 オレが何かいう余裕もなく、3人は、そういう言うとさっさと去って行った。
 しばらく、去りゆく姿を見送り、館へと戻る。

「言いたいこと言って、帰って行ったよ」
「そうだね。でもあの騎乗服、結構良かったかも」

 オレのやや後に控えていたミズキが、そんなことを言った。
 部屋に戻るとノアとプレインが駆け寄ってくる。

「なんスか、それ?」
「ノアに宛てた手紙だって」
「誰からですか?」
「さる方だって。自分の名前しか言わなかったし、せめて素性くらいは教えてもらわないと対応に困るじゃないか」
「あらぁ、それ」

 手元の筒を見て、ロンロが首を傾げる。

「知ってるもの?」
「そうねぇ。その紋章は帝国のものよぉ」

 ロンロが、オレが手に持っていた筒に彫り込まれた紋章を指さす。

「帝国?」
「そぅ。イフェメト帝国。世界において、ヨラン王国とイフェメト帝国は、大国として最も有名で強大な国ねぇ」
「へぇ。ヨラン王国って、意外とでかいんだな」

 イフェメト帝国か。そういえばフェズルードは帝国領だって、誰かが言っていたな。
 飲み屋のおじさんだったかな。

「とりあえず、その筒の中身を確認してみません?」
「ノア宛ての手紙だよ」
「いいよ、リーダが先に見て」

 ノアは自分宛だと言われた手紙について、特に興味を示さなかった。
 しょうがないか。
 どこの誰かが分からない人間が送ってきた手紙だ。
 ダイレクトメールに、愛着を示す人間などいないだろう。
 引っ張って、キャップを外す。
 本当に卒業証書を入れる筒にそっくりだ。
 もっとも、こちらの方がすごく立派だけれど。

『ジャラジャラ』

 中には小さな宝石がたくさん入っていた。
 そして、手紙。
 手紙の紙も立派だ。紙の周りを細かく細工された金で囲まれた手紙だ。

「宝石じゃん、これ」

 その宝石を見て、ミズキが嬉しそうな声をあげる。
 だがオレは、逆に不安な感じを抱いた。
 手紙は……。
 煌びやかな手紙には驚くべきことが書いてあった。

「ノアの父親からだ」

 少なくとも手紙の主は、そう書いている。

「ノアノアのお父さん?」

 ミズキがノアを見ると、ノアが首を振った。

「これは……まず、ノアが見るべきじゃないか」

 手紙の冒頭、ノアの父親だと名乗る一文を見た後は、特に最後まで目を通すことなく一旦テーブルの上に手紙を置いた。
 プライベートな内容だ。
 どうする?
 本当にノアの父親かどうかわからない。

「先に、ノアが見るといいよ」

 結局、まずはノアに読んでもらうことにした。
 反射的に言った。自分の言葉に従うことにしたのだ。

「うん」

 ノアに手紙を渡す。
 そのままのまま広間から出ていく、自分の部屋に行ったのだろう。
 ロンロが後をついていったので、何かあれば連絡があるはずだ。

「ノアのお父さん」

 カガミが小さく呟く。

「それにしても、この宝石、結構な量っスよね」
「そうだな、金貨3000枚は超えるはずだ」

 どう見てもラングゲレイグからもらった量よりも多く、より綺麗な宝石だ。
 もらったっていうか、借りたんだけど。

「お父さんって、大金持ちってことじゃん」
「かもね」
「どうしますか」
「手紙の内容も気になるし、これは保管をしておこう」

 筒の中に宝石を戻し、蓋を閉める。

「帝国って言われても、この世界のことよく分かんないっスよね」
「ハロルドは?」
「そうでござるな……。帝国は、ヨラン王国と並ぶ世界二大大国の一つでござるよ」
「二大大国っスか?」
「歴史はヨラン王国の方が古いが、勢いは今は帝国のほうがあるでござる」
「へぇ」
「古くから、ヨラン王国とイフェメト帝国は、領土を巡って戦争が絶えぬでござるよ」
「そうなんスね」
「ほんのつい最近まで、戦争を繰り広げておったでござるからな」
「最近までか」
「今は魔神復活が囁かれているゆえ、休戦状態でござるな。もっとも、拙者も北方の国については知らぬでござるしな」
「ヨラン王国も帝国も北方にあるってことですか?」
「中央山脈を隔て、南側が南方、北側が北方と呼ぶのでござるよ。大国は北方に偏ってるでござるな」
「じゃあ、ハロルドは、この筒って誰からかとかはわかんないんですね?」
「面目ないでござる。ただ、おそらく相当な身分の者でござろう」
「そりゃねぇ。宝石あんだけ詰め込むんだしさ」
「それだけではござらんよ。先程手紙を持ってきた3人の女性、彼女たちもそれなりの手練れに見えた」
「そうなんだ。確かに凜々しくて、ただ者って感じはしなかったよね」
「それに、あの手紙には紋章が描いてあった。あの紋章を調べれば、どこの誰なのかがわかるのでは、なかろうか?」
「紋章か。気がつかなかった」

 領主あたりに聞けばわかるかな。
 今度、借金返済の時にでも聞いてみるかな。
 そうこうしてると、すぐにノアが戻ってきた。
 意外と早い。

「どうだった?」
「難しかった」

 オレの質問に、ノアが一言そう答えて、手紙を突き出し、口を開いた。

「やっぱりリーダ達も読んで」
「そっか」
「この手紙ぃ。言い回しが難しいのよねぇ」

 ロンロがぼやく。
 確かに手紙は装飾華美といった感じだ。
 紙もそうだし、書いてある文章の言葉遣いもそうだ。
 私の娘、ノアサリーナよ。
 手紙は、その言葉から始まっていた。
 ノアサリーナの名前が帝国まで流れてきたことで、ギリアにいることがわかった。
 ずっと探していた。
 私は役目上そちらには伺えないが、是非とも会いに来て欲しい。
 路銀として、宝石を渡す。
 使い出した3人の女性は、お前の道案内になるだろう。
 内容は、まとめるとこんな感じだ。

「うーん」

 思わず唸ってしまう。
 結局、誰からの手紙なのかが分からない。

「ノアノア、どうする?」

 ミズキの質問に、ノアは小さく頷くだけだった。
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