333 / 830
第十八章 未知への道は皆で
ろうしこうしょう
しおりを挟む
「嫌じゃ。嫌じゃワイ」
「もう嫌じゃ」
「そうだそうだ、こんな暗いところでのお仕事はもうやってられんけん。寝るワイ」
オレが地下室に行ってみると、ブラウニー達はそう言って、ふて寝した。
「どうするリーダ?」
ミズキが困り果てたように腕を組んで、彼らを見下ろしている。
ブラウニー達の苦情を、オレが一通り聞いたのを見計らって、ミズキが声をかけてきた。
「まあ、確かに地下室は暗いしなぁ」
仕事環境として、いまいちなのは理解している。
ただし、そういう苦情はカガミかミズキに言えばいいと思う。
なんでオレをわざわざ呼び出すのか、わからない。
「というか、オレに言わなくても……」
そんな思いを口にしようとした時のことだった。
「お前がお嬢さん達を言いくるめて、ワシらをこんな目に合わせているに決まっとるワイ」
「そうだ。そうだ」
そんな一言でオレの反論は遮られた。
まったく。
「でも、ブラウニーさん達の言うことももっともだと思うんです。今日あたりは外でのお仕事をお願いしましょうか」
「それがいいワイ。カガミ様はわしらのことをよくわかってくれてるワイ」
そう言って弾んだ声でブラウニー共は、カガミの周りをくるくると回る。
なんてことだ。
触媒という形で報酬は支払い済みだ。
先払いで、いいお酒と新鮮な果物を渡しているにもかかわらず、仕事にケチをつける。
結局、その日、ブラウニー共は屋敷の掃除ですごした。
そして、夕方。
「じゃあ、明日はまた地下室な」
「ええ?」
オレが地下室と言った途端に、ブラウニー共から、一斉に抗議の声が上がる。
「そんなこと言われてもなぁ。というか、お前らはいつも同じメンバーなのか?」
「そうじゃワイ。なんたって、わしらはカガミ様とミズキ様の専属じゃけん」
専属?
えっ、ブラウニー達ってそんなルールがあるの?
ブラウニーって、彼らの世界に沢山いて、ランダムに呼び出されるのかと思っていた。
でも、本当は、いつも同じメンバーが来ていたのか。
見た目が、同じなので、さっぱり分からない。
「お前らがこの職場に飽きたなら、他のやつらと変わればいいんじゃないか? オレ達は、地下室の仕事は進めたいわけだしな」
とりあえず、こちらの主張をしておかなくてはならない。
魔法陣の転記は、急ぎたいのだ。
そんなオレの一言に、ブラウニー達は腕を組んで考え込む。
全員が一斉に腕を組み、右へ左へと、頭を揺らしながら考え込む。
「うーん、でもなぁ」
「そうじゃ、別の女の子に監督してもらいたいワイ」
「それはいい考えじゃ。気分転換にもなるけん。仕事にもはりがでる」
ブラウニーのうち数人がそう声をあげると、他のブラウニー共も、一斉にそれはいい考えだと頷き始めた。
さっきの専属とか言う話はどうなったのだ?
呆れて物が言えないとは、このことだ。
まったく。
「もぅ。面倒くさいからぁ。2、3人、生贄にしちゃえばぁ」
後ろで聞いていたロンロは、物騒な事を言い出した。
どうしたものだろうか。
とりあえずミズキとカガミに、顔を向ける。
なんか言えという合図だ。
「そうですね。即答はできないから、少し考えてみたいと思います」
カガミが先送りを主張する。
「そうですな。急な話ですから、カガミ様にこれ以上迷惑かけるわけにもいかないワイ」
オレにだったら迷惑かけていいのか。
このコンパクトヒゲ親父共めが。
憤慨するオレをよそに、ブラウニー達はそう言って去っていった。
「さて、どうする?」
とりあえず、みんなの意見を聞いてみることにする。
アイデアが思いつかない。
今日の分の、お酒を損した。
明日は、お酒のランクを落とそう。果物だって、少し古くてもお似合いだ。
新鮮なのはオレが食べることにしよう。
「ブラウニー共め、調子に乗りやがって」
「でも、ブラウニー達の力はあなどれないぞ」
「そうですね。私たちでは、あんなに早く転記ができないと思います。思いません?」
確かにカガミの言う通りだ。
ブラウニー共の、魔法陣を転記する速度は、とても早い。
1日に数百枚、おそらく千枚はいっているだろう。
ただでさえ、転記の早いやつらが、毎日14人で進めている。
おかげで紙を調達することに、苦労するほどだ。
高価な紙を買ってきて、魔法で巨大化し、複製する。
元になる紙の質が良くないと、大きくし、複製する段階で使い勝手が悪くなる。
具体的に言うと、インクがにじむ。
そんなわけで、早いのは嬉しいが、コストもかかる。
だけど、そんな愚痴が言えるほど、ブラウニー共の仕事は速い。
1年以上は猶予があるとはいえ、締め切りは不確定なだけに、出来るだけ前倒しで進めていきたい。
「誰か若い女性を雇うしかないぞ」
「でも、誰を雇いますか?」
サムソンの言葉に、カガミが疑問を呈する。
確かに魔法陣の確認と、魔道具の操作、そしてブラウニーの指導。
これらができる人間でないといけない。
「他の人を雇って、屋敷に入れるってのはなんとなく嫌っスね」
プレインのぼやきに、オレも頷く。
確かに、他人を屋敷でいることははばかる。
必要以上に詮索されたくないしな。
「事情を知っていて、なおかつ頼れそうな人?」
カガミの言葉に頷く。
だが、それと同時にそんな都合のいい人間がいないことも事実だ。
「うーん。ラノーラさんとマリーベルさんはあの2人だったら、私たちも知ってる人だし、信用できるだろうし」
「2人はもう旅に出ている」
ミズキの言葉に、サムソンが即座に無理だと主張した。
旅芸人の一座だ。
1年以上もギリアに留まることはないだろう。
だが、そうなると本当に困ってしまう。
「バルカンの奥さんはどうっスかね?」
「温泉宿で、めちゃくちゃ働いてるよ。さすがに無理でしょ」
「うーん」
唸るばかりで答えが出ない。
「そうだ!」
ミズキが弾んだ声を上げる。
「何だ、何か思いついたのか?」
「もう。バッチリな考え」
「で?」
「リーダとさ、プレインにサムソンが変装すればいいんだよ」
ミズキがとんでもないことを言い出した。
「もう嫌じゃ」
「そうだそうだ、こんな暗いところでのお仕事はもうやってられんけん。寝るワイ」
オレが地下室に行ってみると、ブラウニー達はそう言って、ふて寝した。
「どうするリーダ?」
ミズキが困り果てたように腕を組んで、彼らを見下ろしている。
ブラウニー達の苦情を、オレが一通り聞いたのを見計らって、ミズキが声をかけてきた。
「まあ、確かに地下室は暗いしなぁ」
仕事環境として、いまいちなのは理解している。
ただし、そういう苦情はカガミかミズキに言えばいいと思う。
なんでオレをわざわざ呼び出すのか、わからない。
「というか、オレに言わなくても……」
そんな思いを口にしようとした時のことだった。
「お前がお嬢さん達を言いくるめて、ワシらをこんな目に合わせているに決まっとるワイ」
「そうだ。そうだ」
そんな一言でオレの反論は遮られた。
まったく。
「でも、ブラウニーさん達の言うことももっともだと思うんです。今日あたりは外でのお仕事をお願いしましょうか」
「それがいいワイ。カガミ様はわしらのことをよくわかってくれてるワイ」
そう言って弾んだ声でブラウニー共は、カガミの周りをくるくると回る。
なんてことだ。
触媒という形で報酬は支払い済みだ。
先払いで、いいお酒と新鮮な果物を渡しているにもかかわらず、仕事にケチをつける。
結局、その日、ブラウニー共は屋敷の掃除ですごした。
そして、夕方。
「じゃあ、明日はまた地下室な」
「ええ?」
オレが地下室と言った途端に、ブラウニー共から、一斉に抗議の声が上がる。
「そんなこと言われてもなぁ。というか、お前らはいつも同じメンバーなのか?」
「そうじゃワイ。なんたって、わしらはカガミ様とミズキ様の専属じゃけん」
専属?
えっ、ブラウニー達ってそんなルールがあるの?
ブラウニーって、彼らの世界に沢山いて、ランダムに呼び出されるのかと思っていた。
でも、本当は、いつも同じメンバーが来ていたのか。
見た目が、同じなので、さっぱり分からない。
「お前らがこの職場に飽きたなら、他のやつらと変わればいいんじゃないか? オレ達は、地下室の仕事は進めたいわけだしな」
とりあえず、こちらの主張をしておかなくてはならない。
魔法陣の転記は、急ぎたいのだ。
そんなオレの一言に、ブラウニー達は腕を組んで考え込む。
全員が一斉に腕を組み、右へ左へと、頭を揺らしながら考え込む。
「うーん、でもなぁ」
「そうじゃ、別の女の子に監督してもらいたいワイ」
「それはいい考えじゃ。気分転換にもなるけん。仕事にもはりがでる」
ブラウニーのうち数人がそう声をあげると、他のブラウニー共も、一斉にそれはいい考えだと頷き始めた。
さっきの専属とか言う話はどうなったのだ?
呆れて物が言えないとは、このことだ。
まったく。
「もぅ。面倒くさいからぁ。2、3人、生贄にしちゃえばぁ」
後ろで聞いていたロンロは、物騒な事を言い出した。
どうしたものだろうか。
とりあえずミズキとカガミに、顔を向ける。
なんか言えという合図だ。
「そうですね。即答はできないから、少し考えてみたいと思います」
カガミが先送りを主張する。
「そうですな。急な話ですから、カガミ様にこれ以上迷惑かけるわけにもいかないワイ」
オレにだったら迷惑かけていいのか。
このコンパクトヒゲ親父共めが。
憤慨するオレをよそに、ブラウニー達はそう言って去っていった。
「さて、どうする?」
とりあえず、みんなの意見を聞いてみることにする。
アイデアが思いつかない。
今日の分の、お酒を損した。
明日は、お酒のランクを落とそう。果物だって、少し古くてもお似合いだ。
新鮮なのはオレが食べることにしよう。
「ブラウニー共め、調子に乗りやがって」
「でも、ブラウニー達の力はあなどれないぞ」
「そうですね。私たちでは、あんなに早く転記ができないと思います。思いません?」
確かにカガミの言う通りだ。
ブラウニー共の、魔法陣を転記する速度は、とても早い。
1日に数百枚、おそらく千枚はいっているだろう。
ただでさえ、転記の早いやつらが、毎日14人で進めている。
おかげで紙を調達することに、苦労するほどだ。
高価な紙を買ってきて、魔法で巨大化し、複製する。
元になる紙の質が良くないと、大きくし、複製する段階で使い勝手が悪くなる。
具体的に言うと、インクがにじむ。
そんなわけで、早いのは嬉しいが、コストもかかる。
だけど、そんな愚痴が言えるほど、ブラウニー共の仕事は速い。
1年以上は猶予があるとはいえ、締め切りは不確定なだけに、出来るだけ前倒しで進めていきたい。
「誰か若い女性を雇うしかないぞ」
「でも、誰を雇いますか?」
サムソンの言葉に、カガミが疑問を呈する。
確かに魔法陣の確認と、魔道具の操作、そしてブラウニーの指導。
これらができる人間でないといけない。
「他の人を雇って、屋敷に入れるってのはなんとなく嫌っスね」
プレインのぼやきに、オレも頷く。
確かに、他人を屋敷でいることははばかる。
必要以上に詮索されたくないしな。
「事情を知っていて、なおかつ頼れそうな人?」
カガミの言葉に頷く。
だが、それと同時にそんな都合のいい人間がいないことも事実だ。
「うーん。ラノーラさんとマリーベルさんはあの2人だったら、私たちも知ってる人だし、信用できるだろうし」
「2人はもう旅に出ている」
ミズキの言葉に、サムソンが即座に無理だと主張した。
旅芸人の一座だ。
1年以上もギリアに留まることはないだろう。
だが、そうなると本当に困ってしまう。
「バルカンの奥さんはどうっスかね?」
「温泉宿で、めちゃくちゃ働いてるよ。さすがに無理でしょ」
「うーん」
唸るばかりで答えが出ない。
「そうだ!」
ミズキが弾んだ声を上げる。
「何だ、何か思いついたのか?」
「もう。バッチリな考え」
「で?」
「リーダとさ、プレインにサムソンが変装すればいいんだよ」
ミズキがとんでもないことを言い出した。
0
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる