召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十八章 未知への道は皆で

けいかくをたてよう

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「とりあえず、何ができるか考えよう」
「そだね。諦める気になれない話だしさ」 

 膨大な量の魔法陣を前に、笑顔のミズキが言った言葉を合図に、その日の夜は解散した。
 そして、のんびりと横になり一夜を過ごす。
 一眠りしてみると、だいぶ気が落ち着いて前向きな気分になった。
 あの魔法陣は、最も具体的な手掛かりだ。
 サムソンの言うように、一度帰還した後、再度召喚してもらえれば、実質、行き来できるのと同じことになる。
 そのためにも、どうにかして解析したい。
 朝食を食べながら、地下の魔法陣を解析することを当面の長期計画にすると伝える。
 ノアを心配させたくなくて、帰る帰らないの話は、特に言わずに話をした。

「私も手伝う」

 オレの話が終わった後、ノアが身を乗り出して、声をあげる。

「そうだね。これから、どうやるかを考えるから、決まったらお手伝いお願いね」
「うん」
「で、どうするんスか?」
「そうだな。まず、膨大な数から成り立つ魔法陣を解析できる環境を作らないといけない」
「解析できる環境か」
「つまりは、プログラムで言えば、とんでもなく巨大なプログラムってことになるだろう?」

 沢山の物量だ。
 物量を管理する体制が必要だ。
 そうでないと、いろいろな人が同じ事をする可能性がある。

「確かにそうですね」
「さらに付け加えれば、昨日見た状況は、例えばさ、フォルダの中に大量のファイルが入ってる状態」
「あぁ、なるほど」
「というわけで、あの光の柱を構成する魔方陣を一通り調べたい。まず一体どれだけの魔法陣があって、中に何が書いてあるのか。読める状態に調べるのが第一歩だと思う」
「そりゃ、そうだな」
「あの分量です。ずっと地下室にこもるのは厳しいと思います。思いません」
「確かに、どこでも作業できるようにしたいな。しゃがんで魔法陣とにらめっこはつらいだろうし」

 それに、魔法陣は円形の縁に文字が並んでいる。
 あれは読みにくい。
 やはり慣れた文法で書いてある方が効率がいい。
 つまりはプログラミング言語の方がいい。

「複雑すぎて、魔法陣をプログラムにいったんコンバートしないと、読めないぞ」

 魔法陣を、プログラムへと変換して、読みやすくする。
 話の流れから、サムソンも同じ結論に達したようだ。

「確かにそうだと思います」

 カガミもサムソンの言葉に頷く。

「サムソンの言う通りだ。まとめると、あの魔法陣の一枚一枚を、プログラムに変える。次に、皆が好きなときに、好きな場所で読める環境を構築するってことになるかな」
「確かに、延々と地下室ってより、広間でのんびりってのがいいよね」
「それが終わったらどうするんスか?」
「手分けして読んで、記録を残す。膨大な魔法陣の1つ1つが、どんな挙動をしているのかとか、思いつくことを」
「気が遠くなりそう」

 ミズキが上を見上げて嘆くように言う。

「でも、何も手掛かりがないんだ。できることから始めたいと思う」
「確かに言う通りだな。幸いパソコンの魔法は、旅している間も、ずっと作り続けているからな。デバッガも作った」
「記録については、石に大量のデータ書き込めるようにしたので、なんとかなると思います」
「だが、問題もあるぞ」
「問題?」
「あの魔法陣を、どうやってパソコンの魔法に取り込むかだな」
「えっと、重なっている魔法陣を読めないってことっスか?」
「星落としで試したが、ダメだな。結局、5つに分けたあと、必要なものを手書きで写して、分けたあとで読み込ませた」
「うわぁ。あれ、全部手書きすんの?」

 ミズキが悲鳴のような声をあげる。
 気持ちはわかる。
 いくらやる気があっても、時間がかかりすぎる。

「ブラウニーさん達にお願いするというのは?」
「あれ? ブラウニーが魔法陣描くと、起動できないんじゃ?」
「コンバートだけが目的であれば、起動は不要だと思います。思いません?」

 そうだな。
 別に写した魔法陣が起動できなくても、当面は困らないか。
 まず、魔法陣の解析をするわけだしな。

「方針は決まりだな。だけど、ブラウニーにいきなり頼むのは止めるべきだ。まずは、自分達で少しだけ試してみて、問題点を洗い出してからにしよう」

 机上の空論に陥っていないかどうかは大事だ。
 思いも寄らない落とし穴があることもある。
 そんなオレの想いは通じたようで、誰も反対する者はいなかった。

「手が辛い……」

 試して良かった。
 いきなり問題発生。
 魔法陣を分解する魔法。
 複数に重なった積層魔法陣を、等間隔に分割させるのは楽だ。
 だが、うち1枚だけをクローズアップするのが難しい。
 特に、今回は万を超える数が重なった魔法陣だ。
 ミリ単位の指の動きが必要になる。
 結果、10枚くらいを動かしたところで、サムソンが音を上げた。

「あと、ほんの少し、ぴくりって感じで指あげて欲しいと思うんですが……2ミリくらい」
「ミリ単位で指を動かすなんて無理だぞ。無理」
「姿勢固定ギブス……みたいなの作ったほうがいいと思います」
「そんなの作るくらいなら、魔導具でやるぞ。作れそうだしな」

 他にも、紙と筆の準備。
 ブラウニーを呼ぶための、大量の果物と酒。
 それらが必要な事が分かった。

「筆なら、尽きぬ墨筆がいいっスね」
「なにそれ?」
「ハイエルフさん達の、お礼カタログにあったっスよ。墨をつけなくても、延々と描ける魔法の筆」
「インク代が節約できそうだな」

 膨大な魔法陣を写すのに、紙とインクにお金がかかると考えていただけに、インク代の節約は大事だ。
 紙にしろ、インクにしろ、魔法で増やすのにも限度があるからな。
 そういや、駄目元でタイマーネタもお願いしてみよう。

「果物は、多分そんなにお金かからないけど、お酒は意外と高くつくと思います。思いません?」

 確かに、ブラウニー共は酒にうるさいからな。
 グチグチ言われないために、少しくらい奮発するべきかもしれない。

「魔導具も、いろいろ機能を充実させたいから、材料費が……な」

 あれ?
 案外、お金が必要になりそうだな。この話。
 紙。お酒。魔導具の材料費。
 いやいや、大丈夫だ。
 そんなにお金はかからない。
 だが、油断は禁物。
 何が起こるかわからない。
 新規事業に、予想外のアクシデントはつきものなのだ。
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