召還社畜と魔法の豪邸

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第十七章 立ちはだかる現実

閑話 兄弟の会話

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 ギリアにある城の1室。
 領主ラングゲレイグは、テーブルをじっと見つめていた。
 テーブルの上には金貨の入った小袋。
 ラングゲレイグは腕を組み、その金貨をずっと睨み付けていた。

「どう見る?」
「コカトリス討伐は、予想外の収穫でした。これで、北の流通が改善します。ですが、後の話は……予想外の展開といいますか、返答だったので、なんと言っていいか」

 ランゲレクの呟くような問いに、入り口側に立っていたヘイネルが答える。

「そうか、そうだな」

 ヘイネルの答えを聞いたラングゲレイグは、小さく頷いた後、手を軽く振った。
 すぐさまヘイネルは、深く頭を下げ、手元の資料を取りまとめ、出口となる扉の前で振り返った。

「では、失礼いたします。ラングゲレイグ様、フィオロイン様」
「ヘイネル。以後、私がいいと言うまで、いかなるときもフェッカトールと呼ぶように」

 ヘイネルにフィオロインと呼ばれた仮面の男フェッカトールは、即座にヘイネルへ指摘する。

「申し訳ありません」

 たしなめられたヘイネルは再度、頭を下げ、静かに退出していった。
 部屋には2人。
 領主ラングゲレイグと、仮面の男フェッカトールだけが残った。

「ふー」

 ラングゲレイグは倒れ込むように椅子に腰掛け溜め息をはいた。

「彼らとの、会話はつかれるな」

 それを見て、フェッカトールは困ったように苦笑する。

「氷の女王ミランダから家賃を取り立てるなどと……どうして、あやつは、そんな考えに至るのだか」
「確かに予想外の答えだった」
「さて、兄上。いかがすればいいと思う?」

 ラングエレクに問われたフェッカトールは顎に親指をやり、ウロウロと歩き回る。
 そしてすぐに口を開いた。

「対応のしようがないな」
「兄上?」
「少なくともミランダをどうこうすることは、我々にはできぬ。かといって、彼らを放置することは危険だ。この際だ、我々の方で仕事を斡旋して、その仕事をもって返済を進めてもらうことにしよう」
「リーダめがやろうとしていること……ミランダから家賃を取り立てることは、放置すると?」
「うむ。その件は放置だ。だが、彼らに借金返済のための資金調達を完全に任せると、これからも、どんどんと予想外のことを引き起こしかねない。そうであれば、こちらでコントロールできるように仕事を見繕ってやったほうがいい」
「なるほど。確かに、リーダめも、ミランダの居場所までは掴んでいないと言っていましたな。そうであれば、ミランダを探し当てるまでに借金が返済されれば……ということですな」
「あぁ。彼もミランダから金を取り立てるような真似を諦めるだろう」

 ラングゲレイグの言葉に、フェッカトールは大きく頷く。
「さすが兄上。あのリーダめの、とんちきな考えにも、すぐに対策を打ち立てられる」

「ただの思いつきだよ。それにしても、ヘイネルからの報告、そして其方の報告に偽りなく、彼らは次の行動が全く読めぬな」
「でしょう? 兄上。まったく、奴らときたら、結果的には領地のためになるからいいようなものの、次から次へと……」
「ヘイネルが胃を悪くするわけだ」

 そう言って、楽しそうに笑う。

「笑い事ではありませんぞ。兄上。そういえば、兄上もです。あの呪い子に、頭を下げられた時には、驚きのあまり言葉を失いましたぞ」
「ああ、すまぬな。謝罪しておきたかったのだ。もっとも、正体を隠しての謝罪。ただの自己満足に過ぎないが……」

 フェッカトールはそう言って、仮面に手をやり、外した。
 テーブルの上に、仮面を置いて、そっと撫でて言葉を続ける。

「命じられたといえ、前領主として、あの娘……いや、あの親子を追い詰めたのは私だ」

 それから窓へと歩みを進め、外を見る。

「私は、兄上が元気になられて嬉しく思います。そして、いつかは兄上がやはりギリアを治めるべきだと」
「私にその資格はないよ、ラングゲレイグ。それに、こうやって見るとギリアはとても明るい空気の中、栄えている。私ではこうはならなかった」
「そのようなことは。ほとんど兄上の考えた通りではありませんか。私は言われるがまま行動しただけ」
「いや、やはり其方が領主であるべきだ。もちろん、私も、全力を尽くす」
「兄上」
「それにしても、彼らだ。ノアサリーナ、そして彼ら達、いずれも得体も知れぬ存在だ」
「確かに、未だに彼らの考えも、目的も分からないままです」
「今回の、金銭の交渉においても、まるで慣れた様子で契約を詰めていった。まるで役人のように、はたまた商人のように。そして、彼らは魔法を使わずに計算していた」
「そうでしたか」
「あぁ。あの従者5人全員が、契約のことも、そして計算のことも、当然のごとく理解していた。どういう立場であれば、あれほどの魔力をもち、かつ魔法に頼らない知識と力を得られるのだ」
「いざという時に、魔法に頼らず事が進める……さりとて、武人ではない」
「彼らがどうしてノアサリーナに仕えるのか。そして、彼らのルーツがどこにあるのか。実際に会って言葉を交わせば掴めるかと思ったが、無理であった」
「兄上でさえ、理解不能であれば、私などでは考えるだけ無駄というものですな」
「いや、其方は勘が鋭い。思うことがあったら何でも教えてくれ」
「ええ、それはもちろん。いやはや、兄上と一緒に事にあたれる日がくるとは。我ら兄弟が力を合わせれば、何とでもなりましょうぞ」

 ラングゲレイグは、まるで家臣のように、立ち上がるとドンと胸を叩いて笑った。
 それを見てフェッカトールは笑顔で頷く。

「ところで、ラングゲレイグ」
「はい」
「其方、金貨3000枚の話の時に、えらく取り乱していたが、そんなにお金を持っていないのか?」
「ええ、まぁ」
「そうか。3000枚ぐらいであれば、私が立て替え、其方に渡そう」
「いや、しかし……」
「かまわんよ。ただし彼らが返済したお金の内、金貨3000枚は私が先に受け取らせてもらう」
「それはもちろん構いませんが、いえ、ありがたく思います」
「だが、なぜ、其方はそんなにお金がないのだ?」
「えぇ、まぁ」

 ラングゲレイグは頭をガリガリと掻いた後、小さく笑い言葉を続けた。

「私は妻に、愛を伝えた時に誓ったのです」
「それは、どのような誓いを?」
「私の全てを捧げると」
「それで財産も渡したと」
「えぇ」
「そうか、それは美しい話だ。そうか、それで婚姻後に、コツコツと貯めていたお金があの金貨3000枚だったということか」

 フェッカトールは小さく笑う。

「えっとー、いや、あの金貨3000枚というか宝石は万が一のために一応、別に置いておいたものでして……」

 ラングゲレイグは、その言葉を聞いて頭をかきながら、ボソボソと答える。

「そうか」
「では、私もこれで」

 そう言って、ラングゲレイグは、そそくさと部屋を出ていった。

「別に分けていたか。なんだ……全て捧げていないではないか」

 1人残されたフェッカトールは、彼が立ち去った後、笑った。
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