召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第四章 冬が始まるその前に

閑話 大魔法使いの住む家(ピッキー視点)

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 おいらはピッキー。
 今日からノアサリーナ様、そしてリーダ様、サムソン様、プレイン様、カガミ様、ミズキ様……5人の大魔法使い様にお仕えすることになる。
 弟のトッキーと、一輪車の荷台に乗っている妹のチッキー。3人でお仕えすることになる。
 目の前を進むノアサリーナお嬢様は、呪い子と言われる存在だ。
 見た目はおいらたちよりも年下の女の子なのに、魔神にかけられた呪いによって、人々から疎まれる。
 でも、呪いなんて、おいら達には関係ない。
 奇跡をいっぱい起こしていただいたのだ。
 ノアサリーナお嬢様と、リーダ様達によって。
 妹のチッキーは病気が治った。
 おいら達は、妹と一緒に暮らせる。
 そんな慈悲深いお嬢様に、お仕えし恩が返せるのは嬉しい。
 一生懸命に、お仕えしようと思う。

「大丈夫? 疲れてない? 皆、荷台に乗ってていいんだよ?」

 いつの間にか横を歩いていたミズキ様が、おいら達を見下ろし、笑って問いかける。
 栗色の長い髪を後ろでまとめた人族の女の人だ。
 なんとか特徴を憶えなくては、これからお仕えする人の名前を間違えるわけにいかない。
 ちなみに、オイラはレッサル族。ミズキ様とカガミ様は、おいら達を見てレッサーパンダみたいと言われていた。人族は、ほかの種族を動物に例えることが多い。たぶん、おいら達をみてレッサーパンダという動物に似ていると思われたのだろう。

「いえ、おいら達は大丈夫です。歩きます」

 ご主人様を差し置いて、荷台に乗るわけにいかない。
 本当は、チッキーも歩かないといけないのだ。
 おいら達を代表して、トッキーがその問いに答える。おいらも頷く。

「そっか。でも辛くなったらいつでも言ってね。うーん。それにしてもトッキー君もピッキー君も服あるかな……。ノアノアよりも、ちょっと高いから120センチぐらいかな」
「ひゃくにじゅせんち?」

 ミズキ様の言われることがわからないので、首を傾げる。
 言いつけがわからないと大変だ。分からないことは、すぐに質問しないといけない。
 でも、知らなすぎるとガッカリさせてしまう。

「背の高さのことだよ。ま、いっか。着いてから考えようね」

 そう言ってにこやかに前へと進んでいく。向かっていた先はノアサリーナお嬢様とリーダ様がいらっしゃるところだ。
 リーダ様、ミズキ様よりも背の高い黒髪の男の人だ。
 プレイン様も、サムソン様も、黒髪なので男の方は、黒が好きなのかもしれない。
 ノアサリーナ様はリーダ様をとても信頼されている。
 会ってそれほど経っていないが、おいらもその気持ちはよくわかる。
 あの頭のいい奴隷商人ザーマ様を簡単にやっつけたのだ。
 リーダ様はまるで奇跡を起こすように、おいら達をお救いになって、ザーマ様の悪事を暴いてしまった。
 でも、おいらはリーダ様が怖い。
 お馬に乗ったヘイネル様という貴族様が、奴隷が平民に手を上げた罰として、両手を切り落とすと言ったときだ。
 リーダ様は、ミズキ様の両手が落とされるかもしれないと言われ「それくらい、しょうがない」と笑って答えられたのだ。
 おいらたちがしくじればきっと両手を切り落とされるだけでは済まないだろう。
 でも、ミズキ様はそんなリーダ様の言葉を聞いてもなお、リーダ様を信頼しているようで笑いながら話しかけていた。
 リーダ様は、皆にとても信頼されている。

「チッキーちゃん、もう少しだから我慢してね」

 おいらがそんなことを考えながら前に進んでいると、今度はカガミ様が妹のチッキーに話しかけていた。
 側を歩きながら、チッキーの頭をそっと撫でる。
 ミズキさまよりも深い茶色の髪を肩まで伸ばしたした女の人だ。

「だい……じょぶ、でち」

 チッキーは、その問いに一言だけ返す。

「無理しないで寝ててね。ごめんなさい」

 それだけ言うとカガミ様は離れていった。
 先程の買い物でも、カガミ様が色々仕切っていられたので、おそらくリーダ様の次にお偉い方なのだろう。しかし、料理もなされるそうだ。
 そして、あと2人、少し離れたところでうつむきながら歩いているのがサムソン様だ。
 一番年上らしく、考え込むように歩くお姿が、学者様かお医者様に見えた。
 そして先頭を歩くのはプレイン様。背が高く。軽快に前を進まれている。

「ところで家に帰ったらどうするっスか?」

 誰に問うわけでもなく、プレイン様がこちら側を向いてそう言われる。

「そうだな、とりあえずさ。飯にしよう」
「俺もそれでいいと思う。さすがに往復は疲れる。飯食って横になりたい」

 リーダ様とサムソン様が、プレイン様に返答する。

「家の修繕。期待してるよ」
「というわけで、ピッキー達も頑張ろうね。あとさ、屋敷ボロっちいからね、我慢してね」

 リーダ様がおいら達に家の修繕の事を、ミズキ様が、家が古く痛んでいることを詫びる。
 おいら達は家の修繕を目的として買われたのだ。
 任せてくださいとばかりに、大きく頷く。
 材料も買ったので、きっとうまくいくと思う。
 おいら達は、あの大っきな村長様の家を直したことだってあるのだ。
 でも、チッキーはすぐに働けるだろうか。
 ほんの少し前まで、重い病気だったのだ。
 治ったと言われてもすぐに働くことができないと思う。
 皆様にお話して、なんとかおいら達2人が頑張ることで許してもらわなくてはならない。

「はい、おいら達、頑張ります」

 ザーマ様に受けた罰のため、声の出ないおいらに代わってトッキーが返答する。

「あとさ、草刈りもしなきゃねぇ」

 ミズキ様がうんざりしたような声をあげる。

「草刈り……腰が痛くなるんだよな」

 リーダ様が自分も草を刈ると言われた。
 見た感じ、リーダ様をはじめ皆様は、畑仕事はしたことがない手をしている。お貴族様の手だ。
 すべておいら達がやるべきなのに、そんなこと言われると申し訳がない。
 トッキーがおいらを見たので、頷く。

「おいら達……」

 トッキーが声を出そうとした時だ。
 ミズキ様がさらに声をあげた。

「あとさ、ちょっと髪が長くなってきたからさ、ブラウニーに切ってもらおうかと思うんだけど、どう思う? ショートボブとかさ」
「ぼぶ?」
「カガミ姉さんみたいなのっスよ」
「あー。カガミのパクリか。別にいいんじゃないか。でも、ブラウニー共、オレの髪を適当に切りやがったんだよな」
「パクリって……カガミはショートじゃないじゃん。別にリーダは、どんな髪型でも格好いいって」
「適当にいいやがって」
「でも、ブラウニーさんたちが髪を切ってくれて助かります」
「そうそう、結構うまいんだよね。リクエストに丁寧に応えてくれるし。ノアノアの髪も、上手く揃えてくれたしさ」

 ミズキ様が、ノアサリーナお嬢様の白に近い薄紫の髪を撫でながら言われた。

「ええ、おかげでノアちゃんの髪を編んだとき、可愛くできたと思います。思いません?」
「そうかもしれないけど、あの人たち男女で差がひどいじゃないっスか。ボクなんか右と左ちょっとズレてますよ」
「俺なんか右半分の髪の毛が極端に刈られているんだぞ」

 サムソン様がぼやくように言う。
 人族は髪が伸びるのが早い人が多い。手先が器用なトッキーならお役に立てるかもしれない。
 何にせよ、できるだけお役に立てるところを見せなくては、ノアサリーナ様の恩には報いられない。
 髪型。髪の形なんて考えたこともなかった。
 憶えなきゃいけないことが多い。
 でも、まずは家の修繕を頑張って、期待に応えなくては。

「あ、やっと見えてきた」
「ふぃー。やっと到着だ」
「トッキー君達、あれ、あれがお屋敷。ね、ボロっちいでしょ」

 ミズキ様の声を聞き、指さす方を見る。

「あっ」

 トッキーが小さな声をあげて驚く。
 おいらも、指さされた屋敷をみて……驚き、そして目の前が真っ暗になった。
 そこにあったのは、おいら達が想像していたよりずっと大きなお屋敷。
 村長様のお家より、ずっとずっと大きなお屋敷。
 おいら達は、忘れていた。今からお仕えするのは、見たこともないような大魔法使いの方々なのだ。
 そんな大魔法使い様が、小さなお家に住むわけがない。

「兄ちゃん……」

 トッキーがおいらを見て小さく……そして泣きそうな声で呟く。
 あんな大きなお屋敷、修繕したことがない。
 無理だと言ったら、罰を受けるに違いない。
 出て行けと言われたらどうしよう。
 チッキーが……。
 リーダ様も期待されていた。
 お嬢様も、カガミ様も、皆。
 だって、おいら達ができると言ったのだから。

「どうしよう……兄ちゃん」

 再びトッキーが、おいらをみて小さく呟き、俯いた。
 一生懸命できるところまでやって、それから……。

 兄ちゃんがなんとかしてやる。

 ザーマ様の罰で声がでないおいらは、がんばって口を動かしたあと、大きく頷いた。
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