召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十五章 おとぎ話にふれて

たてあな

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 それからも、迷宮探索は続く。
 特に問題はない。
 順調に進む。
 スケルトンが出れば魔法の矢。
 大きなゴブリン……ホブゴブリンが来たら電撃。
 スライムが出れば誰かが飛び込んで、自己発火で燃やし尽くす。
 今はウートカルデが宝箱を開けようと頑張っている。
 ゲームとちがって、鍵を開けるのには時間がかかる。
 1時間以上は当たり前。
 長いときは丸一日。特に寒く暗い迷宮は、作業が遅れがちなのだとか。
 今はウィルオーウイスプの力で明るいとはいっても、寒いのは変わらない。

「うー。寒い、寒い」

 先ほど、付近の様子を見て回っていたヒューレイストが戻ってきた。
 地下に降りるほど、辺りの気温は下がり、湿気が強くなる。

「寒いなら上着を着ろ」
「これはこれで気合いが入るのだ」

 作業をしながら突っ込みをいれたウートカルデの一言に、上半身裸のヒューレイストが応じた。
 確かに寒いなら上着を着ればいいと思う。
 というか、上半身裸の理由って、精神的な事だったのか。
 もしかしたら、魔術的な理由かと思っていたけれど、違った。

「それにしてもこれは暖かいですね」

 席についたアンクホルタが、布を少しだけ持ち上げて笑う。
 防寒対策の二つ目。こたつだ。
 トッキーとピッキーにお願いして作ってもらった。椅子にすわってぬくもるタイプのこたつテーブルだ。
 暖房の要は、大きな暖炉石。ギリアにある温泉を暖めるために、前に作った暖炉石を応用した。
 淡々と宝箱をあけるための作業をしているウートカルデには悪いが、寒いのだ。
 皆でこたつに入って、ウートカルデの作業を見守りつつ、過ごす。
 温かいお茶をのみ、カロメーをぱくつきながら。ほっと一息。

「あのさ、リーダ。なんだか私達って金運に難ありだってさ」

 ミズキが残念そうにそんなことを言った。
 こいつ自分のことを占ってもらったのか、金運に難ありって、酒の飲み過ぎで金が尽きるってことだな。きっと。

「何を占ってもらってるんだか……」
「フフ。ちょっとした余興です」
「まぁ。お嬢の占いは当たるが、努力次第で結果は変わる」
「んー。私は、やはり止めとこうと思います」
「じゃあ、ボクはどうっスか、金運?」

 テーブルに置いた水晶をじっと眺めたあとで、アンクホルタが笑う。

「えぇ。プレイン様はいずれ大金持ちになるようですね」
「やった!」
「1割ちょうだいね、1割」

 オレも何か占ってもらおうとおもったりしたが、いざとなると中々いい質問が思いつかない。
 仲良くなりはしたが、込み入った質問をするわけにもいかない。
 そうなると結局は、金運くらいしか聞くことがないのだ。

「やっとできたぞ」

 占いに興じているとサムソンが声をあげた。

「できたって、ヒーターですか?」
「そうだ。羽を回すようにしたぞ。ほら」
「あたたかい!」

 サムソンが作った羽のついた壺に、手をかざしてノアが笑った。
 今はオレの足に座っているノアは、のけぞるようにオレを見上げて笑っている。
 こたつテーブルにオレ達が全員座ると、少し手狭になるため苦肉の策だ。

「だろ。後はこれを……」

 サムソンは、宝箱の前に陣取って作業中のウートカルデの側へ、壺を傾けておいた。

「これは……助かる。これで、手がなめらかに動く」

 しみじみと言った様子で、ウートカルデが言葉を発する。
 以前から、手がかじかんでいて、繊細な作業に苦労していた。
 暖炉石を渡してはいたが、やはり両手が自由になる環境で手が温かい方がいいのだろう。

「なかなか、大物だ」

 それからしばらくして、鍵がようやく開いたようだ。
 中には兜。金貨。それに……。

「ん? お嬢!」
「……これは、魔力回復の薬ですね」

 大量の薬瓶。看破では魔力回復の薬と表示されていたらしい。
 アンクホルタとカガミが2人揃ってそう言っていた。
 そして、迷宮探索はさらに続く。
 洞窟探索はなかなか楽しい。
 敵を倒し、財宝を得る。
 特に敵強い敵がいないので、楽勝ムードが続いている。
 アンクホルタが罠を見つけてくれて、ウートカルデが簡単に外してくれる。
 罠を解除し、鍵を外すのに時間がかかることはあるが、オレ達は待つだけ。

「あはは。ノアノア、わかりやすい」
「むー」

 待ち時間は、回りを見張りつつ、こたつテーブルで時間を過ごす。
 今はトランプで時間を潰している。
 ちなみに遊んでいるゲームはババ抜き。
 さっきからオレとノアの連合軍は負けっぱなしだ。
 皆、容赦がない。
 ノアは自分の手札にババがあるとき、一言も喋らない。加えて、その手札からババが抜かれそうになると、オレを見るのだ。

「ふむ。この度は、わしが一抜けのようだ」

 ヒューレイストが、嬉しそうな声をあげる。

「おい。ちゃんと見張りしてるんだろうな?」

 そんなヒューレイストに、ウートカルデが言葉をかけた。
 最近は、ウートカルデがかわいそうに思えてきた。
 彼一人、延々と仕事している後で、オレ達は遊んでいるわけだからな。
 ということで、ここ数日、ウートカルデは見張りは免除で過ごしてもらっている。
 今回の宝箱はすぐに開いた。
 中身は銅貨。
 それにしても、敵を倒して、財宝を手に入れて、これぞファンタジーって感じだ。
 財宝とは言うものの、実際のところ大したものは見つかっていないけれど。
 でも、楽しい。
 宝箱を開けて、束の間、やや大きめの広間へと出た。
 このくらいの広間は、いままでもあったが、今回は少し違った。

「これは……縦穴……」
「随分と深い穴のようだぞ。これ」

 サムソンがのぞき込み感想をもらした。
 確かに、真っ暗で見えない。
 湿気た風がしたから吹き付ける。ひんやりした風がほほをなで、穴を覆う暗闇をいっそう引き立てる。
 試しに石を投げ落としてみたが、地面に石が当たった音は、いつまで経っても鳴らなかった。

「目指すものは、この下にあるようです」

 アンクホルタは水晶を見てしばらくして口を開いた。

「じゃあ、降りようよ」

 ミズキが簡単な調子で提案する。
 だが、どういう方法で降りるかだ。
 3人の同行者は特に、いいアイデアがなかったようだ、ロープが足りないっていうことでギブアップ。
 最終的に、オレ達が2チームに分かれ、を念力の魔法で浮かせて降りることにした。
 2つのベッドにそれぞれカガミとオレ、プレインとサムソンとミズキが乗る。

「アンクホルタ様は、ミズキの方へ、ヒューレイスト様とウートカルデ様はこちらに座っていて欲しいと思います」
「これで、どうされるのですか?」
「念力の魔法で、ベッドを浮かせるのです。念力の魔法は視認していないと動かせないので、互いに互いのベッドを動かして、進む予定です」

 片方が視界ギリギリまで下ろし、もう片方がその後、相手側のベッドを降ろす。
 順繰り順繰りに。
 降りる前に、少しテストしてみて問題なかったので即実行。
 途中、コウモリなどが襲ってきたが、念力を使っていない他の人間が、弓矢で撃ったり、叩き落としたり、はたまた魔法の矢で射落としたりと、順調に対処し降りていく。
 延々と続き、いい加減飽きてきた頃になってようやく地面へと到着した。
 そこは開けた空間だった。
 巨大な空間。
 ふと上を見上げると、暗闇の先に、うっすらと地肌が見える。
 オレ達が降りてきた縦穴は、途中でやや斜めになっていたようだ。

「どうやら……先客がいるようです」

 アンクホルタが緊張した面持ちで言う。
 その声は少し震えている。

「たーいへん。向こうに……」

 ロンロが慌てた様子で声をあげる。

「あぁ、ちくしょう」

 ウートカルデが忌ま忌ましげに剣を構える。
 何かがいるのはわかるが……あれは、何だ?
 アンクホルタやロンロ、そしてウートカルデが警戒する相手。
 魚? ゴツゴツとした体表をしているが、正面から見た姿は、鯉に似た魚だ。
 独特の威圧感があるから魔物には違いないが、何だ、アレ……?

「覚悟はしていたが、相手をしたくなかった」
「あれ、魚っぽいけど、何スか?」

 プレインの言葉に、ヒューレイストが前に進みファイティングポーズをとりながら言う。

「地竜だ」
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